異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
238 / 254
17:大使館と王の来訪

17-20

しおりを挟む
首相官邸からパレード用に用意されたオープンカーに乗り込むと遠目にも色鮮やかな一団が誕生する。
(全員髪色が派手だから目立つんだよなあ)
金銀赤青緑と華やいだ髪色の人々と二足歩行の羊と鳥が乗っているオープンカーはどっからどう見ても目立っている。
パレードなので目立つ方自体を気にする必要はないのだろうが、これは実に目立ちすぎる。
外堀通りから第一京浜に入って銀座の中心部を走ると、異世界の王と獣人宰相をひと目見ようと押しかけた人々が歩道を埋め尽くしている。
それに軽いお手振りで応じながら上機嫌で異世界の街並みを眺めている。
銀座・日本橋エリアを抜けると神田川を超えて秋葉原に入った、ここからが正念場である。
『こちら警視庁、デモ隊が駅広場脱出しようと動いてます!』
「スピード少し上げてくれ」
「了解」
警察がデモ隊を抑えてる間に秋葉原を抜けて御徒町に入っておきたい。
これまでの努力を水泡に帰さないためにはこれが一番最善だと思ったのだ。
『こちら警視庁、デモ隊が駅広場脱出!そっちに向かってます!』
歩道側はデモ隊の乱入により混乱しており、車との接触リスクも出てきた。
観客の隙間からこっちへ突っ込んでこようとする馬鹿が警察ともみ合っている。
「真柴さん、誰か来ます!」
ハルトル宰相が俺に声をかけてくる。
歩道側の混乱した人混みをすり抜けたプラカードの人たちがこちらに寄ってきて、パレードの車に立ち塞がる。
手持ちのプラカードには大陸標準語で『異世界人は異世界で働け』『日本の税金は日本人のもの!』と言った攻撃的な言葉が並ぶ。
王の護衛騎士が「無礼者!王の御前であるぞ!」と声を張り上げ、警察官と北の国の騎士たちがプラカードの人々を車から引き剥がそうと動き回るのを見て、俺は咄嗟に車を降りて2人へのフォローに入る。
フォローに来た俺に対して北の国の国王は俺を小馬鹿にするように口を開く。
「日本はろくに国民の統率も取れんのか」
「申し訳ありません」
「あのような無礼者、我が国なら即刻首を刎ねるがこの国ではやらないのか?」
「この国ではそのように即刻人の首を刎ねる事は命の危機でもない限り認められておりません」
「面倒くさい国だな。ハルトル、何故お前はこの国を真似る?」
北の国の国王は隣にいたハルトル宰相に目を向ける。

「むしろ僕はこうした自由さがこの国、いやこの世界の強みだと思うんです。
気づかれることなく人に踏み潰された蟻がいるように、どんな辺境にも人が暮らすように、どんな国にも見えない場所で踏み潰されようとする人がいる。たとえどれだけ素晴らしい賢人であっても見えない場所はあって、賢人の見えない最底辺の場所に居ても声を上げる権利がある。それが僕の作りたい世界だったんです」

ハルトル宰相のその言葉は俺たちへのフォローでもあった。
「即刻首を刎ねるべきではないと?」
「彼らの言い分を聞いても良いじゃないですか。確かに今回のやり方には問題はありますが、命をかけずとも己の想いを自由に発する権利が攻撃的な方向に向かえば起き得ることなんでしょうね」
プラカードを手にした人々が警察によって連れ出されるとその場がようやく収まってきて、運転手が「車出します」と声がかかると車は再び上野方面へ走り出していく。
「最後の最後に国民に恥をかかされるような国がお前の理想なのか?」
「国民が自分の暮らす国への夢や理想を持てないで生きながらえるぐらいなら僕の恥など大したことじゃない」
「理想など持たずともただ生きて行ければ十分だろう」
「無辜の民が良い生活を求めることの何がいけないのでしょうか」
2人の話が段々と熱を帯びてゆき、民衆は統制されるべきか自由であるべきか?と言う話になっていく。
俺自身は国の保証する自由のもとで生きてきたのでハルトル宰相が正しいと思うが、あの世界では王侯貴族の顔に泥を塗るくらいなら民の自由を抑制して国家統制に注力すべきと考えるのも理解できた。
熱を帯びた会話は御徒町を抜けて上野に差し掛かるとお互い話し疲れたようで沈黙の時間となった。
日本中から注目される異世界の国王と羊の宰相を見送りに来た異世界の民を見て、北の国の国王はつぶやく。
「ハルトル、お前にとってここが目指すべき世界なのか」
「ええ。国王殿下には理解し難いでしょうが、これが僕の目指す世界なんです」
そんな話をして御一行は日本から異世界へ向かうトンネルへと歩き出した。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

処理中です...