異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
236 / 254
17:大使館と王の来訪

17-18

しおりを挟む
4日目は朝から車で大宮方面を目指す。
最初に到着したのは鉄道博物館の一角にある、鉄道の仕組みを展示するコーナーである。
鉄道がどのような仕組みで動き、開通するとどんなメリットがあるか?を展示と学芸員の解説(もちろん通訳付き)で学んで貰うわけだ。
「事前投資は大きいがその分鉄道があれば物流はかなり良くなるな」
「人や物の大量輸送に関しては船が主流でしたからね、河川から離れたエリアの開発にも一役買ってくれると思います」
時には学芸員を交えてああだこうだと話し合いながら鉄道の仕組みを学び、自国に鉄道があることによるメリットを語り合う。

「では、実際に日本から金羊国に来る列車を見に行きましょうか」

鉄道博物館から車で数分、大宮の鉄道車両基地は東日本各地の鉄道車両が修理洗浄を待っている。
広大な施設の中にはいつも乗る通勤車両から特急・SL・貨物列車に至るまで一揃い並んでおり、俺が鉄道オタクならば目を輝かせているだろう品揃えだ。
「これが僕らのところへやって来るんですね」
ハルトル宰相が青い電気機関車を眺めながらそうつぶやく。
もしかしたら対金羊国用に車両を新造する可能性はあるが特に俺は聞いてないので「多分そうでしょうね」と誤魔化し気味に答えた。
「この列車一編成で1700人も運べる、というのは大きいな……」
「しかもこんなのがこの国では最大1時間に20本以上走ってるわけですからね、その気になれば1時間で一師団を国境まで連れて来れると考えると脅威ですよ」
軍事的な視点で鉄道の誘致のリスクを真剣に考える北の国側に対して、金羊国側はこれがたくさんの人と物を自国に運んでくれることへの夢を感じている様子だ。
(日本は憲法上他国に攻め入ることが出来ない国だから杞憂なんだが……まあいいか)
あの世界には平和憲法なんて概念なさそうだし、その辺は時間をかけて理解してもらうしかなかろう。
「これほどの物を将来的には金羊国にも作るんですよね?」
「そうらしいですね」
「楽しみだなあ」
金羊国は何もないところからこの人が仲間と共に作り上げてきたこの人の故郷だ、きっとその変化を誰よりもこの人が楽しみにしているのだ。
「そういえばこの後は馬を観に行くんですよね?」
「ええ、国王殿下が動物好きと聞きましたので競馬場へ」

****

その日の夕方のことだった。
夜のパーティーを前に息抜きをしていると、柵越しに黒い帽子をした女性と紺青の髪をした男性が話しているのが見えた。
(あの青い髪はヘルペンシュツル宰相補佐官だろうが、相手は誰だ?)
危険人物だと困るので一応確認しておこうと2人の元へ近寄った。
「すいません、少しよろしいですか?」
「あっ、」
黒い帽子の下から覗かせてきたのは可愛らしい顔をした女の人だった。
その顔はどこかで見たことがあるような気がするが、それよりもヘルペンシュルツ宰相補佐官の安全が優先である。
「念の為身元を確認させていただいて良いですか?」
「えっ、と……」
可能な限りにこやかに彼女の目を見ると「すいません」と行って逃げ出した。
「人の邪魔をするのもお仕事なんですか?」
ヘルペンシュツル宰相補佐官は青い瞳を不機嫌に曇らせながら俺にそう聞いてくる。
「念のためですよ。彼女とは何かあったんですか?」
「……可愛いなと思って少し声をかけたら向こうも気に入ってくれた、それだけですよ」
つまりナンパしていたという事らしい。言葉も通じない異世界で女性をナンパとは剛毅というか、なんというか……。
「そうでしたか。彼女を気に入っていてどうしてもまた会いたいと思うのであれば、事前に安全を確認させて下さい。あなたの間に何かあれば両国間の問題になりかねませんし、問題無ければある程度自由に面会できるように手配しますので」
流石に身元もろくに確認出来てない相手と合わせて何かあれば俺の責任問題になるので、しっかり釘を刺しておくと大きなため息をついてから「分かりました」と告げてから彼の知る彼女の名前を告げられる。
(警察に彼女のことを確認してもらうか……)
あとあと問題にならない範囲内であれば勝手にしてくれという気持ちで警察に申し送りのメールを送信した。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...