232 / 254
17:大使館と王の来訪
17-14
しおりを挟む
北の国の訪日2日目は、国内外の大手企業の元を訪ねるのがメインとなる。
本来なら王侯貴族のもとに企業の人間が馳せ参じるのが筋だろうが、異世界に社員を派遣するにも人材の選定や社員の安全確保と緊急時の対応の問題などがあるので難しい。
そこでこの訪日に合わせ地球のビジネスに触れるのにちょうどいいと経産省の連中のごり押しである施設が捻じ込んまれた。
「で、最初の見学先がこちらの東京証券取引所……俗に東証と呼ばれるこちらの施設になります」
神田川と隅田川をつなぐ日本橋川のほとり、日本橋兜町の東京証券取引所である。
「ここは何の施設なんだ?」
「専門家をお呼びしています」
東証の担当者(と通訳の人)に丸投げすると、東証ビルの一室で資本主義と株式会社について概要の説明が始まった。
説明は率直に言って苦心を感じるものだった。
内容としては子供向けの解説をベースにイラストやたとえ話を用いており、異世界人にもそこそこわかりやすい解説となっている。
ただあちらにはない概念が多すぎてすべてにちょうどいい訳語が作れず、いくつかの単語は訳語を作らずそのまま日本語を用いるという荒業を使っていた。
(……まあ訳語作るのって大変らしいしな)
翻訳に苦心しただろう関係者の安寧を祈りたい。
説明が終われば東証の見学となる。
ちょうど取引の開始時刻なので、貴族たちはチッカー(よくテレビで見る円形につながれた細長い液晶に企業名と株価が流れるあれ)に目まぐるしく流れる取引情報が流れるのを茫然と見守っている。
「この国じゅうの会社の企業の取引がたったこれだけの人数によって把握されているとは……」
ヘルペンシュルツ宰相補佐官は茫然としたようにガラス越しのマーケットセンターを覗き、再びチッカーに目を向ける。
ここで4千社近いの株式売買が管理されていると思うと確かに驚異的と言えるだろう。
ましてあらゆるものを人力に頼ってきた異世界では高度な頭脳労働を高度な教育を受けた数百人で管理監督しており、機械化されて少人数で動かせることの利便性への憧れは大きかろう。
「とは言ってもこれは国に1つ2つしかない場所だ、庶民や一般企業はここまで企業化されてるのか?」
「一般庶民がこれほど膨大な情報を扱うにも教育も必要ですしね」
国王と宰相補佐官の質問にはこう答えればいい。
「それはこの次行く場所で分かりますよ」
****
お台場にある大きなビルの入り口に出雲崎石油と刻まれた石碑が光る。
異世界産原油の精製と国内での販売を担う出雲崎石油の東京本社ビルには社長以下東京本社にいた上層部が一通り並んで待ちわびていた。
「この日を一日千秋の思いで待ちわびておりました」
出雲崎石油の社長からの挨拶もそこそこに社内を軽く見学し、東京本社で一番大きいという会議室に招かれる。
(……なんで俺もセットなんだろうな?)
とりあえず一番後ろについて歩いていると「原油と言うのはここまで売れるのですね」「ええ、驚きです」と言うつぶやきが聞こえる。
誰が行ったのかと思えば目前にいたセナトロフ男爵とボルヤノフ騎士爵だ。
貴族と言えど爵位が低いセナトロフ男爵とボルヤノフ騎士爵とってお金になるという事は本当に大きいのだろう。
「兄上、買取価格を上げて貰えれば民も潤い我々も税収を増やせるやもしれませんね」
「金があれば冬を越すのも楽になる。アレは臭いし畑をダメにするが、大きな建物を作れるほど売れるのなら買取価格を上げる交渉をしてもいいのかもな」
……日本人としてはほどほどにしてほしい相談をしているのを小耳に挟みつつ、本社の見学は進むのであった。
本来なら王侯貴族のもとに企業の人間が馳せ参じるのが筋だろうが、異世界に社員を派遣するにも人材の選定や社員の安全確保と緊急時の対応の問題などがあるので難しい。
そこでこの訪日に合わせ地球のビジネスに触れるのにちょうどいいと経産省の連中のごり押しである施設が捻じ込んまれた。
「で、最初の見学先がこちらの東京証券取引所……俗に東証と呼ばれるこちらの施設になります」
神田川と隅田川をつなぐ日本橋川のほとり、日本橋兜町の東京証券取引所である。
「ここは何の施設なんだ?」
「専門家をお呼びしています」
東証の担当者(と通訳の人)に丸投げすると、東証ビルの一室で資本主義と株式会社について概要の説明が始まった。
説明は率直に言って苦心を感じるものだった。
内容としては子供向けの解説をベースにイラストやたとえ話を用いており、異世界人にもそこそこわかりやすい解説となっている。
ただあちらにはない概念が多すぎてすべてにちょうどいい訳語が作れず、いくつかの単語は訳語を作らずそのまま日本語を用いるという荒業を使っていた。
(……まあ訳語作るのって大変らしいしな)
翻訳に苦心しただろう関係者の安寧を祈りたい。
説明が終われば東証の見学となる。
ちょうど取引の開始時刻なので、貴族たちはチッカー(よくテレビで見る円形につながれた細長い液晶に企業名と株価が流れるあれ)に目まぐるしく流れる取引情報が流れるのを茫然と見守っている。
「この国じゅうの会社の企業の取引がたったこれだけの人数によって把握されているとは……」
ヘルペンシュルツ宰相補佐官は茫然としたようにガラス越しのマーケットセンターを覗き、再びチッカーに目を向ける。
ここで4千社近いの株式売買が管理されていると思うと確かに驚異的と言えるだろう。
ましてあらゆるものを人力に頼ってきた異世界では高度な頭脳労働を高度な教育を受けた数百人で管理監督しており、機械化されて少人数で動かせることの利便性への憧れは大きかろう。
「とは言ってもこれは国に1つ2つしかない場所だ、庶民や一般企業はここまで企業化されてるのか?」
「一般庶民がこれほど膨大な情報を扱うにも教育も必要ですしね」
国王と宰相補佐官の質問にはこう答えればいい。
「それはこの次行く場所で分かりますよ」
****
お台場にある大きなビルの入り口に出雲崎石油と刻まれた石碑が光る。
異世界産原油の精製と国内での販売を担う出雲崎石油の東京本社ビルには社長以下東京本社にいた上層部が一通り並んで待ちわびていた。
「この日を一日千秋の思いで待ちわびておりました」
出雲崎石油の社長からの挨拶もそこそこに社内を軽く見学し、東京本社で一番大きいという会議室に招かれる。
(……なんで俺もセットなんだろうな?)
とりあえず一番後ろについて歩いていると「原油と言うのはここまで売れるのですね」「ええ、驚きです」と言うつぶやきが聞こえる。
誰が行ったのかと思えば目前にいたセナトロフ男爵とボルヤノフ騎士爵だ。
貴族と言えど爵位が低いセナトロフ男爵とボルヤノフ騎士爵とってお金になるという事は本当に大きいのだろう。
「兄上、買取価格を上げて貰えれば民も潤い我々も税収を増やせるやもしれませんね」
「金があれば冬を越すのも楽になる。アレは臭いし畑をダメにするが、大きな建物を作れるほど売れるのなら買取価格を上げる交渉をしてもいいのかもな」
……日本人としてはほどほどにしてほしい相談をしているのを小耳に挟みつつ、本社の見学は進むのであった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる