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17:大使館と王の来訪
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長く複雑に揺らぐトンネルから一歩外に出ると、政府関係者と国連関係者からの手厚い歓迎と共にカメラの音とフラッシュが四方八方から飛んでくる。
ハルトル宰相とその付き添いのエイン魔術官は驚く素振りも見せずにっこりと受け入れているのに反して、北の国の関係者は事前に俺が言っておいたと言えど初めての異世界から向けられる驚きの光景に目を見張った。
「ようこそ私たちの国・日本へお越しくださいました、地球上196の国家を代表して我々日本政府は皆さまを心から歓迎致します」
首相の言葉を通訳として連れて来られた大学教授が通訳すると、その言葉を聞いた北の国の王は「こちらこそ斯様に人を集めての歓迎に心から感謝する」と答えた。
その返答を聞いた首相は「これは別に集めた訳ではありませんがね」と冗談混じりに答える。
地球の歴史上初の異世界の王との邂逅の瞬間を世界中のメディアが撮りたいと思う気持ちはわかるし、向かいの芸大や図書館から遠目に見守る野次馬もきっといることだろう。
「集めてもいないのにこれだけの群衆が?」
「あなた方はそれほどまで注目・歓迎されているということですよ」
首相の言葉を受けて周囲を見渡すと、北の国の御一行は軽くメディアや野次馬に手を振って出迎えへの感謝を伝えた。
*****
最初の視察先は、日本政府がこの夏から運用を開始した対異世界向け入国審査と税関・防疫である。
あちらの世界は入国審査や税関という仕組みが未熟であり、防疫に至ってはまずそこに該当する概念があるかどうかも怪しい。
北の国からの原油輸入量を増やす上でこの辺の理解が無いと揉めるリスクがあったので、必要性を解説しつつ実体験で中身を理解してもらおうという訳だ。
この対異世界向けの入国審査及び税館施設は日本と金羊国を繋ぐ道の出入り口である廃駅から歩いてすぐ、屏風坂通りが終わる交差点を睨む位置にある6階建ての雑居ビルにある。
このビルの1階と2階が入国審査、3階4階が税関、5階6階が動植物検疫所となっている。
「まずは入国審査です。こちらの入国許可書と身分証明書を提出して頂き、審査官からの簡単な審査を受けていただきます」
俺達大使館で発行した入国許可証と北の国が自前で発行している身分証明を確認して簡単な入国審査を受けてもらう。
入国審査官はカタコトながら大陸標準語を話せるし、今回は日本政府も絡んでいるので厳重に行われることはなく形式的なものに近い。
「次は手荷物などの検査になります。手持ちの荷物はもちろん、従者の方に運んでいただいている貨物品も全て確認しますので少しお時間いただきますね」
今回は警備の騎士が刀剣類を持ち込んでいるので事前に大使館を通じて申請したものと差異がないかはもちろん、日本への持ち込み規制がある動植物(両国の環境保全の観点から植物の種子や動物の卵は持ち込み規制がある)が含まれていないかももちろんチェックされる。……本来外交官の手荷物は税関検査の対象外なんだが、金羊国はともかく北の国はウィーン外交関係条約に加盟してないので今回は全面的に検査させてもらっている。
最後にうがいをして手と靴裏をしっかり消毒し、異世界からの未知なる菌とウィルスを取り除く。
「……このうがいや手足の消毒にはどのような意味があるんですか?」
そう聞いたのはシェーベイル宰相補佐官だ。
ハルトル宰相やエイン魔術官は慣れているので気にしていないが、北の国の御一行はなんでこんな事させられてるんだ?という気持ちが表情に滲み出ている。
「感染症の持ち込み予防ですね。北の国にしかない病気を日本に持ち込まず、日本の病気を北の国に運ばないことが主な目的となります」
「効果はどの程度あるんですか?」
「申し訳ありませんが、たぶんこの場に詳細を把握してる者が居ないので後日監督省庁に問い合わせます」
「そうですか」
従者含めた20人ちょっとが手続きと検査を終えてビルから出て来た。
厳重な敬語の中御一行は徒歩で次の視察場所を目指し、俺や日本側の担当者を先導に歩き出した。
ハルトル宰相とその付き添いのエイン魔術官は驚く素振りも見せずにっこりと受け入れているのに反して、北の国の関係者は事前に俺が言っておいたと言えど初めての異世界から向けられる驚きの光景に目を見張った。
「ようこそ私たちの国・日本へお越しくださいました、地球上196の国家を代表して我々日本政府は皆さまを心から歓迎致します」
首相の言葉を通訳として連れて来られた大学教授が通訳すると、その言葉を聞いた北の国の王は「こちらこそ斯様に人を集めての歓迎に心から感謝する」と答えた。
その返答を聞いた首相は「これは別に集めた訳ではありませんがね」と冗談混じりに答える。
地球の歴史上初の異世界の王との邂逅の瞬間を世界中のメディアが撮りたいと思う気持ちはわかるし、向かいの芸大や図書館から遠目に見守る野次馬もきっといることだろう。
「集めてもいないのにこれだけの群衆が?」
「あなた方はそれほどまで注目・歓迎されているということですよ」
首相の言葉を受けて周囲を見渡すと、北の国の御一行は軽くメディアや野次馬に手を振って出迎えへの感謝を伝えた。
*****
最初の視察先は、日本政府がこの夏から運用を開始した対異世界向け入国審査と税関・防疫である。
あちらの世界は入国審査や税関という仕組みが未熟であり、防疫に至ってはまずそこに該当する概念があるかどうかも怪しい。
北の国からの原油輸入量を増やす上でこの辺の理解が無いと揉めるリスクがあったので、必要性を解説しつつ実体験で中身を理解してもらおうという訳だ。
この対異世界向けの入国審査及び税館施設は日本と金羊国を繋ぐ道の出入り口である廃駅から歩いてすぐ、屏風坂通りが終わる交差点を睨む位置にある6階建ての雑居ビルにある。
このビルの1階と2階が入国審査、3階4階が税関、5階6階が動植物検疫所となっている。
「まずは入国審査です。こちらの入国許可書と身分証明書を提出して頂き、審査官からの簡単な審査を受けていただきます」
俺達大使館で発行した入国許可証と北の国が自前で発行している身分証明を確認して簡単な入国審査を受けてもらう。
入国審査官はカタコトながら大陸標準語を話せるし、今回は日本政府も絡んでいるので厳重に行われることはなく形式的なものに近い。
「次は手荷物などの検査になります。手持ちの荷物はもちろん、従者の方に運んでいただいている貨物品も全て確認しますので少しお時間いただきますね」
今回は警備の騎士が刀剣類を持ち込んでいるので事前に大使館を通じて申請したものと差異がないかはもちろん、日本への持ち込み規制がある動植物(両国の環境保全の観点から植物の種子や動物の卵は持ち込み規制がある)が含まれていないかももちろんチェックされる。……本来外交官の手荷物は税関検査の対象外なんだが、金羊国はともかく北の国はウィーン外交関係条約に加盟してないので今回は全面的に検査させてもらっている。
最後にうがいをして手と靴裏をしっかり消毒し、異世界からの未知なる菌とウィルスを取り除く。
「……このうがいや手足の消毒にはどのような意味があるんですか?」
そう聞いたのはシェーベイル宰相補佐官だ。
ハルトル宰相やエイン魔術官は慣れているので気にしていないが、北の国の御一行はなんでこんな事させられてるんだ?という気持ちが表情に滲み出ている。
「感染症の持ち込み予防ですね。北の国にしかない病気を日本に持ち込まず、日本の病気を北の国に運ばないことが主な目的となります」
「効果はどの程度あるんですか?」
「申し訳ありませんが、たぶんこの場に詳細を把握してる者が居ないので後日監督省庁に問い合わせます」
「そうですか」
従者含めた20人ちょっとが手続きと検査を終えてビルから出て来た。
厳重な敬語の中御一行は徒歩で次の視察場所を目指し、俺や日本側の担当者を先導に歩き出した。
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