223 / 254
17:大使館と王の来訪
17-5
しおりを挟む
9月も終わりになると、北の国御一行へのもてなし準備もほぼ終わってあとは来訪を迎えるだけの状態になっている。
「まあ問題が無いわけでも無いんだけどな」
「問題?」
日本側の準備進捗を聞きにきた俺に、飯島が困ったようにパソコンの画面を見せてきた。
見せられたSNSの画面には #異世界人受け入れ反対 というハッシュタグのついた異世界人受け入れ反対デモを呼びかける文章と画像が映し出されている。
「どういうことだ?」
「日本政府はこれまで金羊国を中心に異世界へ結構な出資してるだろ?その金額が一国への支援を超えてるんじゃないかって前々から言われてたんだが、エルダールへの島の医療支援が結局総額で2億近くなったことでその意見が随分と増えてきてな」
「ひとつの国では無いんだがな。まあ国際協力より自国に税金を使えって流れは前からあるよな」
税率が上昇傾向にある昨今、そのお金を海外や異世界に使うくらいなら国内の社会福祉や教育という形で国民に還元すべきという考えは分からないわけでもない。
しかし今までのは一国に使ったお金と言うわけでもないし、他国や民間団体からいくらか貰ってるのでエルダールへの医療支援に使われたお金が全て国税で賄われているわけではない。
もちろんこの点は国や飯島達もPRしているはずだが、そう考えている人にちゃんと届いていないのか、もしくは広報が信用されてないか。その辺はよくわからない。
「そういう勢力が右派系市民グループの活動家と合流しちまったんだよ」
「ゼロ年代辺りに在日特権とか何とか言って新大久保で大暴れしてた連中か」
「だいたいその認識で合ってる。ガソリンが思ったより下がり切らないのも大きいんだろうな」
日本は北の国から原油を輸入しているが、まだ輸入量が少ないのでガソリンの大きな値下がりをもたらすほどではない。ガソリンがもっと大きく値下がりすれば異世界への投資の意味も伝わるのだろうが、人力輸送に頼っている以上輸送量には限界があるのでこれ以上の輸入量増加による値下げは鉄道やパイプラインが出来ないと難しかろう。
「これについては北の国側には伏せておけよ。向こうにすこしでも悪印象を与えたくない」
日本にとって北の国は地球の情勢や近隣国の関係がいくら悪くなっても関係なく日本に原油を売ってくれる国である。
そんな国に原油のため官民共同で投資するにも、王や貴族の権力が強い国であるので第一印象を悪くすればこの先の投資を拒まれる可能性もある。
北の国の原油は脱炭素のこの時代においても日本にとっては喉から手が出るほど欲しい資源であるので、原油の安定供給という至上命題のため北の国へ情報統制を行うつもりなのだ。
「俺としては聞かれなければ言わないでおくが……暴徒化のリスクは?」
「警視庁公安部と公安調査庁が監視に動いてるみたいだな」
伝聞調なのでどの程度の精度かは分からないが、わざわざ公安警察まで動かすあたり今回の件にどれだけ気合いを入れてるのかお察しというものである。
北の国は日本に対するツテがほぼ無いので俺と木栖が言わなければ北の国側はこの問題を知る方法も無かろう。
「ちなみに金羊国への情報統制はしないのか?」
「金羊国は大使館があるから多分もうバレてるだろ、時々様子見に行ってるけど赴任して割とすぐにパソコン購入してネット見てることを確認してる」
「なら余計気にした方がいいんじゃ?」
「向こうにとって一番起きてほしくないのは北の国が宰相を自国へ連れ去ることだからな、デモはそこまで危機感持ってないみたいだぞ。
まあ最悪北の国の御一行を犠牲にして自分とこの宰相だけ自国に連れて帰れば良いわけだしな」
北の国は宰相誘拐という前科があるので、また誘拐されないようにという警戒感の方が先に立つのだろう。宰相誘拐事件の恨みは深いのである。
「こっちは両方を安全な環境でもてなさないとならないんだが?」
「そこは警察の頑張りどころだろ。まあ本当にヤバくなったら1番にお前に連絡しとくさ」
飯島がハハッと気楽に笑うが、俺は早速湧いてきた不穏な気配にちょっと気分が曇るものを感じていた。
「まあ問題が無いわけでも無いんだけどな」
「問題?」
日本側の準備進捗を聞きにきた俺に、飯島が困ったようにパソコンの画面を見せてきた。
見せられたSNSの画面には #異世界人受け入れ反対 というハッシュタグのついた異世界人受け入れ反対デモを呼びかける文章と画像が映し出されている。
「どういうことだ?」
「日本政府はこれまで金羊国を中心に異世界へ結構な出資してるだろ?その金額が一国への支援を超えてるんじゃないかって前々から言われてたんだが、エルダールへの島の医療支援が結局総額で2億近くなったことでその意見が随分と増えてきてな」
「ひとつの国では無いんだがな。まあ国際協力より自国に税金を使えって流れは前からあるよな」
税率が上昇傾向にある昨今、そのお金を海外や異世界に使うくらいなら国内の社会福祉や教育という形で国民に還元すべきという考えは分からないわけでもない。
しかし今までのは一国に使ったお金と言うわけでもないし、他国や民間団体からいくらか貰ってるのでエルダールへの医療支援に使われたお金が全て国税で賄われているわけではない。
もちろんこの点は国や飯島達もPRしているはずだが、そう考えている人にちゃんと届いていないのか、もしくは広報が信用されてないか。その辺はよくわからない。
「そういう勢力が右派系市民グループの活動家と合流しちまったんだよ」
「ゼロ年代辺りに在日特権とか何とか言って新大久保で大暴れしてた連中か」
「だいたいその認識で合ってる。ガソリンが思ったより下がり切らないのも大きいんだろうな」
日本は北の国から原油を輸入しているが、まだ輸入量が少ないのでガソリンの大きな値下がりをもたらすほどではない。ガソリンがもっと大きく値下がりすれば異世界への投資の意味も伝わるのだろうが、人力輸送に頼っている以上輸送量には限界があるのでこれ以上の輸入量増加による値下げは鉄道やパイプラインが出来ないと難しかろう。
「これについては北の国側には伏せておけよ。向こうにすこしでも悪印象を与えたくない」
日本にとって北の国は地球の情勢や近隣国の関係がいくら悪くなっても関係なく日本に原油を売ってくれる国である。
そんな国に原油のため官民共同で投資するにも、王や貴族の権力が強い国であるので第一印象を悪くすればこの先の投資を拒まれる可能性もある。
北の国の原油は脱炭素のこの時代においても日本にとっては喉から手が出るほど欲しい資源であるので、原油の安定供給という至上命題のため北の国へ情報統制を行うつもりなのだ。
「俺としては聞かれなければ言わないでおくが……暴徒化のリスクは?」
「警視庁公安部と公安調査庁が監視に動いてるみたいだな」
伝聞調なのでどの程度の精度かは分からないが、わざわざ公安警察まで動かすあたり今回の件にどれだけ気合いを入れてるのかお察しというものである。
北の国は日本に対するツテがほぼ無いので俺と木栖が言わなければ北の国側はこの問題を知る方法も無かろう。
「ちなみに金羊国への情報統制はしないのか?」
「金羊国は大使館があるから多分もうバレてるだろ、時々様子見に行ってるけど赴任して割とすぐにパソコン購入してネット見てることを確認してる」
「なら余計気にした方がいいんじゃ?」
「向こうにとって一番起きてほしくないのは北の国が宰相を自国へ連れ去ることだからな、デモはそこまで危機感持ってないみたいだぞ。
まあ最悪北の国の御一行を犠牲にして自分とこの宰相だけ自国に連れて帰れば良いわけだしな」
北の国は宰相誘拐という前科があるので、また誘拐されないようにという警戒感の方が先に立つのだろう。宰相誘拐事件の恨みは深いのである。
「こっちは両方を安全な環境でもてなさないとならないんだが?」
「そこは警察の頑張りどころだろ。まあ本当にヤバくなったら1番にお前に連絡しとくさ」
飯島がハハッと気楽に笑うが、俺は早速湧いてきた不穏な気配にちょっと気分が曇るものを感じていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる