異世界大使館はじめます

あかべこ

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17:大使館と王の来訪

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9月も終わりになると、北の国御一行へのもてなし準備もほぼ終わってあとは来訪を迎えるだけの状態になっている。
「まあ問題が無いわけでも無いんだけどな」
「問題?」
日本側の準備進捗を聞きにきた俺に、飯島が困ったようにパソコンの画面を見せてきた。
見せられたSNSの画面には #異世界人受け入れ反対 というハッシュタグのついた異世界人受け入れ反対デモを呼びかける文章と画像が映し出されている。
「どういうことだ?」
「日本政府はこれまで金羊国を中心に異世界へ結構な出資してるだろ?その金額が一国への支援を超えてるんじゃないかって前々から言われてたんだが、エルダールへの島の医療支援が結局総額で2億近くなったことでその意見が随分と増えてきてな」
「ひとつの国では無いんだがな。まあ国際協力より自国に税金を使えって流れは前からあるよな」
税率が上昇傾向にある昨今、そのお金を海外や異世界に使うくらいなら国内の社会福祉や教育という形で国民に還元すべきという考えは分からないわけでもない。
しかし今までのは一国に使ったお金と言うわけでもないし、他国や民間団体からいくらか貰ってるのでエルダールへの医療支援に使われたお金が全て国税で賄われているわけではない。
もちろんこの点は国や飯島達もPRしているはずだが、そう考えている人にちゃんと届いていないのか、もしくは広報が信用されてないか。その辺はよくわからない。
「そういう勢力が右派系市民グループの活動家と合流しちまったんだよ」
「ゼロ年代辺りに在日特権とか何とか言って新大久保で大暴れしてた連中か」
「だいたいその認識で合ってる。ガソリンが思ったより下がり切らないのも大きいんだろうな」
日本は北の国から原油を輸入しているが、まだ輸入量が少ないのでガソリンの大きな値下がりをもたらすほどではない。ガソリンがもっと大きく値下がりすれば異世界への投資の意味も伝わるのだろうが、人力輸送に頼っている以上輸送量には限界があるのでこれ以上の輸入量増加による値下げは鉄道やパイプラインが出来ないと難しかろう。
「これについては北の国側には伏せておけよ。向こうにすこしでも悪印象を与えたくない」
日本にとって北の国は地球の情勢や近隣国の関係がいくら悪くなっても関係なく日本に原油を売ってくれる国である。
そんな国に原油のため官民共同で投資するにも、王や貴族の権力が強い国であるので第一印象を悪くすればこの先の投資を拒まれる可能性もある。
北の国の原油は脱炭素のこの時代においても日本にとっては喉から手が出るほど欲しい資源であるので、原油の安定供給という至上命題のため北の国へ情報統制を行うつもりなのだ。
「俺としては聞かれなければ言わないでおくが……暴徒化のリスクは?」
「警視庁公安部と公安調査庁が監視に動いてるみたいだな」
伝聞調なのでどの程度の精度かは分からないが、わざわざ公安警察まで動かすあたり今回の件にどれだけ気合いを入れてるのかお察しというものである。
北の国は日本に対するツテがほぼ無いので俺と木栖が言わなければ北の国側はこの問題を知る方法も無かろう。
「ちなみに金羊国への情報統制はしないのか?」
「金羊国は大使館があるから多分もうバレてるだろ、時々様子見に行ってるけど赴任して割とすぐにパソコン購入してネット見てることを確認してる」
「なら余計気にした方がいいんじゃ?」
「向こうにとって一番起きてほしくないのは北の国が宰相を自国へ連れ去ることだからな、デモはそこまで危機感持ってないみたいだぞ。
まあ最悪北の国の御一行を犠牲にして自分とこの宰相だけ自国に連れて帰れば良いわけだしな」
北の国は宰相誘拐という前科があるので、また誘拐されないようにという警戒感の方が先に立つのだろう。宰相誘拐事件の恨みは深いのである。
「こっちは両方を安全な環境でもてなさないとならないんだが?」
「そこは警察の頑張りどころだろ。まあ本当にヤバくなったら1番にお前に連絡しとくさ」
飯島がハハッと気楽に笑うが、俺は早速湧いてきた不穏な気配にちょっと気分が曇るものを感じていた。
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