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17:大使館と王の来訪
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息抜きがてら近くのドトールに入って一番に木栖が聞いたのは、俺と飯島の事だった。
「お前と飯島さんって仲良いんだな?」
「単に同期入省だからだよ」
「あんな気さくに話する奴あんまりいないだろ」
「大使館には俺と同い年はお前しかいないから見る機会が無いだけだろ」
「そうか?」
「……お前、飯島にやきもちでも焼いてるのか?」
俺の問いかけに木栖が少しバツが悪そうにちょっと視線を逸らした。おい、隠し切れてないぞ。
「飯島は俺と同期かつ俺が出世コースから外れた後も普通に同期扱いしてくれた、ただの仲良い同期だよ」
元々俺は東大の中では偏差値の低い文三→文学部出身で文一→法学部のエリートコース出身が大半を占める同期の中では少々浮いている節があった。
俺自身も文三から法学部を希望しながら成績の不足で落ちたという経緯から若干の劣等感もあって付き合いのある同期はあまり多くなく、その少ない付き合いのある同期入省者のうちの1人が京大出身で俺の劣等感に障らない飯島だった。
その少ない付き合いのある同期も俺が母親の介護に追われるようになった辺りで段々と付き合いが薄くなり、俺が出世コースから完全に外れると一気に距離を置かれるようになった。
その中で唯一俺との付き合いを続けてくれていたのが飯島だった。
「それに、あいつは既婚子持ちだからお前が心配する必要は一つもない」
「妻帯するゲイも時々いるがな」
「ならお前はなんで妻帯という選択をしなかったんだ?」
「自分のメンツのためだけにただ1人への生涯の愛を誓う気にはなれなかった、としか」
届いたカフェラテを軽く混ぜてから口をつける木栖を見ながら率直に口から出たのは「重いな」という言葉だった。
「重い?」
「結婚なんてある程度勢いでするもんじゃないのか?実際俺も母親のことが無ければ結婚してたと思うし」
「そんな相手いたのか」
「いたよ。俺が母親のことで必死すぎて自分の事を軽んじてる、って怒られて別れたけど」
当時はまあ多少落ち込みもしたが10年以上経った今となってはどうでもいい事であるが、木栖は何とも言い難い顔で俺の顔を見つめてくる。
「お前が思う程深刻な事じゃない。雰囲気で付き合い始めてなんとなく結婚を考えてた時に母親の病気がわかって、その気になればいつでも出来るだろう結婚より唯一の肉親である母親の方が大事だったから別れたってだけだ」
木栖はそういうものだろうか?とでも言いたげな目で俺を見てくる。
久しぶりのモンブランを食べながらブラックコーヒーを飲んでから「当時の俺は少なくともそう考えて別れを受け入れた、これでこの話は終わりだ」と伝えると「まあそうだけどな」と呟く。
「ちなみに、俺って重いのか?」
その問いかけが結婚観の話なのは察したが、これ以上この話をするのが面倒だったので「お前の体重なんぞ知るか」と適当な返事をして終わらせた。
ただ同時に思う。
この男は歴代の男に対しても生涯の愛を捧ぐぐらいの気持ちで付き合ってたのではないか?という疑念である。
(とすると、こいつの俺への好意ってそういうレベルなのか……?)
指につけている揃いの指輪が目についた。
結婚とは1人への生涯の愛の誓いと考えてるような男が、職務上の都合で渡されただけの指輪を四六時中左手薬指に付けてるということの意味は俺が思っていた以上に意外と重いようだ。
それを受け入れて悪い気がしない俺も大概なのかもしれない。
「まあ、愛が重い奴は別に嫌いじゃないがな」
そのひと言で木栖の表情が微かに和らいだのに気づき、お前が気にしてたのそこかよ……と少し呆れた。
「お前と飯島さんって仲良いんだな?」
「単に同期入省だからだよ」
「あんな気さくに話する奴あんまりいないだろ」
「大使館には俺と同い年はお前しかいないから見る機会が無いだけだろ」
「そうか?」
「……お前、飯島にやきもちでも焼いてるのか?」
俺の問いかけに木栖が少しバツが悪そうにちょっと視線を逸らした。おい、隠し切れてないぞ。
「飯島は俺と同期かつ俺が出世コースから外れた後も普通に同期扱いしてくれた、ただの仲良い同期だよ」
元々俺は東大の中では偏差値の低い文三→文学部出身で文一→法学部のエリートコース出身が大半を占める同期の中では少々浮いている節があった。
俺自身も文三から法学部を希望しながら成績の不足で落ちたという経緯から若干の劣等感もあって付き合いのある同期はあまり多くなく、その少ない付き合いのある同期入省者のうちの1人が京大出身で俺の劣等感に障らない飯島だった。
その少ない付き合いのある同期も俺が母親の介護に追われるようになった辺りで段々と付き合いが薄くなり、俺が出世コースから完全に外れると一気に距離を置かれるようになった。
その中で唯一俺との付き合いを続けてくれていたのが飯島だった。
「それに、あいつは既婚子持ちだからお前が心配する必要は一つもない」
「妻帯するゲイも時々いるがな」
「ならお前はなんで妻帯という選択をしなかったんだ?」
「自分のメンツのためだけにただ1人への生涯の愛を誓う気にはなれなかった、としか」
届いたカフェラテを軽く混ぜてから口をつける木栖を見ながら率直に口から出たのは「重いな」という言葉だった。
「重い?」
「結婚なんてある程度勢いでするもんじゃないのか?実際俺も母親のことが無ければ結婚してたと思うし」
「そんな相手いたのか」
「いたよ。俺が母親のことで必死すぎて自分の事を軽んじてる、って怒られて別れたけど」
当時はまあ多少落ち込みもしたが10年以上経った今となってはどうでもいい事であるが、木栖は何とも言い難い顔で俺の顔を見つめてくる。
「お前が思う程深刻な事じゃない。雰囲気で付き合い始めてなんとなく結婚を考えてた時に母親の病気がわかって、その気になればいつでも出来るだろう結婚より唯一の肉親である母親の方が大事だったから別れたってだけだ」
木栖はそういうものだろうか?とでも言いたげな目で俺を見てくる。
久しぶりのモンブランを食べながらブラックコーヒーを飲んでから「当時の俺は少なくともそう考えて別れを受け入れた、これでこの話は終わりだ」と伝えると「まあそうだけどな」と呟く。
「ちなみに、俺って重いのか?」
その問いかけが結婚観の話なのは察したが、これ以上この話をするのが面倒だったので「お前の体重なんぞ知るか」と適当な返事をして終わらせた。
ただ同時に思う。
この男は歴代の男に対しても生涯の愛を捧ぐぐらいの気持ちで付き合ってたのではないか?という疑念である。
(とすると、こいつの俺への好意ってそういうレベルなのか……?)
指につけている揃いの指輪が目についた。
結婚とは1人への生涯の愛の誓いと考えてるような男が、職務上の都合で渡されただけの指輪を四六時中左手薬指に付けてるということの意味は俺が思っていた以上に意外と重いようだ。
それを受け入れて悪い気がしない俺も大概なのかもしれない。
「まあ、愛が重い奴は別に嫌いじゃないがな」
そのひと言で木栖の表情が微かに和らいだのに気づき、お前が気にしてたのそこかよ……と少し呆れた。
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