異世界大使館はじめます

あかべこ

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16:大使館とエルダールの島

16-24

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帰国準備としてまず最初に行ったのは現地で処理出来ない医療廃棄物を船に積み込む事だった。
環境保全の観点からは医療廃棄物は全部持ち帰るのが理想だが、量が多すぎて無理があるので布類は現地で焼却の上埋め立ててプラスチックや金属などは持ち帰っての処分となった。
出来るだけ最小限にまとめたはずの現地での処理不能な医療廃棄物は6畳ほどの部屋をまるまるひとつ埋めており、これを持ち帰る苦労を思うと今からゲンナリするほどだった。
さらに研究目的で集められたあらゆるサンプルや研究用の機材も持ち帰る必要がある。
一応屋外での使用に適した比較的小さくて頑丈なものだけではあるが一応精密機器の部類だし、研究用のサンプルも量が多かったので積み込みにだいぶ時間がかかったのである。
幸い船は乗っていない期間も定期的に暇な船員によって点検と清掃が行われていたので出航が遅れる理由もない。

そうして帰国の準備が終わったのは真夏のピークが終わろうとする8月下旬のある朝のことだった。

出航の日、俺たちにあるものが寄贈された。
それは500円玉くらいの首掛け紐のついた木製の笛で、鼻に当てて鳴らす笛なのだという。
「これよりきみ方の使いの者をやるほど、この笛を特定の調子に鳴らさば我らは攻めで迎へ入る」
「俺たちの使いを頼む相手にこれを貸し出せばいいんですね」
「うむ」
ちなみにその特定の調子というのも一発では覚えられないくらい複雑なリズムであったが、スマホに録音しておいたので頼むときにどうにか記憶してもらう他ない。
この島へ薬の運び入れを専任で任されることが決まっている船の人たちにも頑張って覚えて貰おう。
「それでは、またいつか会いましょう」
医療支援と薬の輸出という足掛かりは出来た。
すぐには無理だろうがエルダールの民が日本や金羊国と友好関係を結ぶ日もいずれやってくるだろう。

****

エルダールの島から船で数日かけて双海公国に戻ってきた。
カウサル女公爵の従者からねぎらいの言葉と報酬を受け取った船乗りたちを見送ると、俺たちは馬車へと乗せられる。
研究者達も別の馬車に乗せられて俺たちの乗った馬車について来ている。
お忍び用の地味な箱馬車の上座、カウサル女公爵の隣には深大寺が座って待っていた。
「大使、木栖さんと柊木先生。無事のお帰りおめでとうございます」
「深大寺も元気そうで何よりだよ」
しばらく会わずにいた深大寺は顔色も良く元気そうなので公爵邸で何事も無く過ごせたことが分かり、これなら大丈夫だろうと安心した。
俺たちの様子を確認したカウサル女公爵は「ちなみに私の頼み事は?」と聞いてくる。
「普通に無理でしたよ」
「そりゃそうか。まあ信頼が構築できれば商売出来ることはそちらさんが証明してくれたし、気長にやっていくか」
実にあっさりとそう答えた辺り、やはりダメ元で聞いてきたのだろう。
それで危うく俺たちの事まで駄目になりかけたことも伝えると「ハードル高いな」とつぶやいた。
「ちなみに荷物類もちゃんと金羊国まで送ってくれますよね?」
「一度にアレを全部は難しいから何度かに分けて送るよ、今回は悪いけど手荷物と生物ぐらいにしてくれ」
いくつかの確認事項を話していると馬車はヤマンラール商会の裏口にたどり着き「3人はここで降りて貰っていいか?」と聞いてくる。
「深大寺はこの場で返すから近くの酒場でゆっくり再会を祝うといい。帰りの船は今夜10時、第12川湊停泊場だ。遅れないようにな」
俺たちを降ろすとカウサル女公爵を乗せた馬車は公爵邸へと去って行った。
この夏の長い旅がもうすぐ終わりを告げようとしている。
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