異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
218 / 254
16:大使館とエルダールの島

16-24

しおりを挟む
帰国準備としてまず最初に行ったのは現地で処理出来ない医療廃棄物を船に積み込む事だった。
環境保全の観点からは医療廃棄物は全部持ち帰るのが理想だが、量が多すぎて無理があるので布類は現地で焼却の上埋め立ててプラスチックや金属などは持ち帰っての処分となった。
出来るだけ最小限にまとめたはずの現地での処理不能な医療廃棄物は6畳ほどの部屋をまるまるひとつ埋めており、これを持ち帰る苦労を思うと今からゲンナリするほどだった。
さらに研究目的で集められたあらゆるサンプルや研究用の機材も持ち帰る必要がある。
一応屋外での使用に適した比較的小さくて頑丈なものだけではあるが一応精密機器の部類だし、研究用のサンプルも量が多かったので積み込みにだいぶ時間がかかったのである。
幸い船は乗っていない期間も定期的に暇な船員によって点検と清掃が行われていたので出航が遅れる理由もない。

そうして帰国の準備が終わったのは真夏のピークが終わろうとする8月下旬のある朝のことだった。

出航の日、俺たちにあるものが寄贈された。
それは500円玉くらいの首掛け紐のついた木製の笛で、鼻に当てて鳴らす笛なのだという。
「これよりきみ方の使いの者をやるほど、この笛を特定の調子に鳴らさば我らは攻めで迎へ入る」
「俺たちの使いを頼む相手にこれを貸し出せばいいんですね」
「うむ」
ちなみにその特定の調子というのも一発では覚えられないくらい複雑なリズムであったが、スマホに録音しておいたので頼むときにどうにか記憶してもらう他ない。
この島へ薬の運び入れを専任で任されることが決まっている船の人たちにも頑張って覚えて貰おう。
「それでは、またいつか会いましょう」
医療支援と薬の輸出という足掛かりは出来た。
すぐには無理だろうがエルダールの民が日本や金羊国と友好関係を結ぶ日もいずれやってくるだろう。

****

エルダールの島から船で数日かけて双海公国に戻ってきた。
カウサル女公爵の従者からねぎらいの言葉と報酬を受け取った船乗りたちを見送ると、俺たちは馬車へと乗せられる。
研究者達も別の馬車に乗せられて俺たちの乗った馬車について来ている。
お忍び用の地味な箱馬車の上座、カウサル女公爵の隣には深大寺が座って待っていた。
「大使、木栖さんと柊木先生。無事のお帰りおめでとうございます」
「深大寺も元気そうで何よりだよ」
しばらく会わずにいた深大寺は顔色も良く元気そうなので公爵邸で何事も無く過ごせたことが分かり、これなら大丈夫だろうと安心した。
俺たちの様子を確認したカウサル女公爵は「ちなみに私の頼み事は?」と聞いてくる。
「普通に無理でしたよ」
「そりゃそうか。まあ信頼が構築できれば商売出来ることはそちらさんが証明してくれたし、気長にやっていくか」
実にあっさりとそう答えた辺り、やはりダメ元で聞いてきたのだろう。
それで危うく俺たちの事まで駄目になりかけたことも伝えると「ハードル高いな」とつぶやいた。
「ちなみに荷物類もちゃんと金羊国まで送ってくれますよね?」
「一度にアレを全部は難しいから何度かに分けて送るよ、今回は悪いけど手荷物と生物ぐらいにしてくれ」
いくつかの確認事項を話していると馬車はヤマンラール商会の裏口にたどり着き「3人はここで降りて貰っていいか?」と聞いてくる。
「深大寺はこの場で返すから近くの酒場でゆっくり再会を祝うといい。帰りの船は今夜10時、第12川湊停泊場だ。遅れないようにな」
俺たちを降ろすとカウサル女公爵を乗せた馬車は公爵邸へと去って行った。
この夏の長い旅がもうすぐ終わりを告げようとしている。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

処理中です...