異世界大使館はじめます

あかべこ

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16:大使館とエルダールの島

16-21

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フィフィタ氏が「大叔父様が話があるそうです」と告げてきたのは、手術を終えて1週間ほど経った8月上旬のある日のことだった。
俺と木栖は礼装に身を包んでイシレリ少年の待つ集会所へ赴いた。
今回はイシレリ少年以外のこの地域に住む他氏族の長たちも集合しており、挨拶もそこそこに「きみらの持ち込みし他界の薬に我が甥が随分と助けられしことに喜ぶ」と感謝の意を告げられる。
「こちらこそ、私たちはそのために来たわけですから」
「きみ方の望みは私達との交流・交易と聞きたれど、その意思にうつろひはあらずや?」
「もちろん」
「我々はきみらより薬を買ふべき、といふ結論に至りき。此度はその詳細を詰むるためにきみらを呼みき」
薬を買うという言葉にグッとこぶしを握り締めた。
やはり同胞たちが着実に体調が良くなる姿を目前にして、彼らも多少は妥協するに至ったのであろう。
そこにどのような葛藤があったのかは想像する他ないが少なくとも俺たちの目標達成は近い。
「ありがとうございます、薬の値段・流通等に関しましては事前にある程度検討しておりましたのでご説明いたします」
「いそぎのよき者どもめ」
呆れたような誰かのつぶやきを聞き流しつつ、事前にある程度立てていた計画表を差し出した。
「薬の製造は日本の武村製薬と帝人化薬、流通は紅忠と岩崎商事が担い、金羊国からこの地までの流通は双海公国のヤマンラール商会への委託を考えています」
国内の流通網は紅忠がさっそく準備してくれているので、大使館に戻る頃には金羊国まではスムーズに届けられる状態が完成しているはずだ。
ちなみに岩崎商事は異世界への供給が追い付かなくなった時に国外から血液製剤をかき集めて貰う役割である、この辺は異世界へ出遅れた大手財閥系商社の頑張りに期待したい。
「双海公国とな?!」
その言葉に睨みつけるような眼差しを向ける老女がいた。
双海公国は教会から爵位と土地を貰って建国した国だ、この土地に教会と繋がりのある人間を派遣してくることに納得できないものもいるのだろう。
「残念ながら現在の我々にはこの世界を自由に航海することは難しいので、双海公国に委託せざるをえない事をご承知ください」
「そはいかなるよしなり?ものや無き、人や無き、金や無き、それともさながらなしや?」
「まず我々は自分の世界から船を持ち込むことが難しく、人を連れて来るにも少々難がございます。なにより我々は教会と思想上対立しているので、双海公国の協力が必要なのです」
その言葉に少々の納得いかなさを滲ませる氏族の長たちに、木栖がこんな話をした。
「私たちの国は390年ほど前、他の国との交流を断っておりましたがいくつかの国との商いは続けておりました。その際に唯一の交流拠点として人口の島を作り、その島でのみ異国の民と商いをしておりました。それを真似るのはいかがでしょう」
木栖が話しているのは日本史の教科書でお馴染み出島のことだ。
アイディアとしては悪くないと考えたようで仲間達と10分ほど話をすると了解を得た。
「さなると薬の対価にきみ方は何を求めたり?我々は大陸の銭持ち合はせたらねば、渡すべきものはさ多からぬぞ」
「薬の対価ならば、皆様方の作った工芸品でよろしいかと。異世界の民の生み出した産品は地球ではまだ物珍しいものですから」
これは紅忠側からの発案で、異世界産の工芸品は地球で結構高値が付くのである程度元が取れるという目算が出来ている。
あとは双海公国の承諾があればエルダールの民の工芸品を大陸で売りさばいてもいい。
「よろしな」
悪くない、という意味の言葉をぽつりとつぶやいているのが聞こえた。
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