209 / 254
16:大使館とエルダールの島
16-15
しおりを挟む
「島が見えたぞ!」
伝声管越しのアナウンスに心地よい昼寝から叩き起こされ、俺は船室の窓から海の方を確認した。
遠くにぽつぽつと大小さまざまな島が見える。あれがこの旅の目的地である南東諸島なのだろう。
「船長、事前に渡しておいた旗を吊るしてくれ。船首に人を置くが極力船員は近づくな」
伝声管越しにフィフィタ氏がそう告げる。
何かあるのだろうかと気になった俺は船首のほうへと足を運んだ。
船の帆の先に赤白緑の三角旗が掲げられ、船首にはフィフィタ氏が立っている。
確か彼はこの船に乗っている間ずっとチェスラフ氏の姿でいたが、いつのまにかフィフィタ氏の姿に戻っている。
あれはどういう意味なのだろうかと考えていると、突然指笛の音が聞こえてくる。
誰が指笛を鳴らしたかは分からないが、近くの誰かが鳴らしたかのような明瞭さで響いて来た。
するとフィフィタ氏も指笛に応えるように鳴らすとさらに指笛が帰ってくる。
それはまるでジャズのセッションのような指笛で構成された掛け合いであり、それがどのような意味を持つかは俺には分からなかった。
しばらくその掛け合いが続き、ひと段落つくとフィフィタ氏は不意に後ろを向いて俺の存在に気づいた。
「……何でいるんです?」
「失礼致しました、見てはいけないものでしたか」
「いえ、どうせ意味なんか分からないでしょうし」
あの指笛の掛け合いにはなんらかの意味があったのだろうということは察せられたが、それ以上聞くことは出来なかった。
「これからこの船は玄関島に向かうので、あと2時間もあれば着岸できるはずなので準備をお願いします」
「承知しました」
ようやく長い船旅が終わる。
しかしまだ本題はこれからなのだと思うと少しばかりため息が漏れた。
ー2時間後ー
船が着岸したのは小さな島の桟橋で、乗っていた木造船から降りるためにはわざわざ喫水線ギリギリに設けられた特別な出入口からハシゴをかけなければ降りられないような高さがあった。
この桟橋はおそらく小型船用のものなのだろうが、それ用の出入口がついていなかったら一生降りられなくなるところだった。
大量の荷物を下ろすため全員で下ろすと、フィフィタ氏の案内で建物へと連れて行かれた。
石積みの大きな塀の中に大小さまざまな平屋の家があり、中心となる場所には薪を焚べた跡もある。しかし建物ひとつひとつや石塀は綺麗で立派だが人の気配がない奇妙な場所だった。
「これは?」
「部族会議で使われる建物を借りました、人間は帰るまでここで寝泊まりするように言われてます」
「フィフィタさんの弟さんはどちらに?」
「普通玄関に人は住んでないでしょう?」
玄関島という呼び方は南東諸島を家に見立てた時ここは玄関、という意味で玄関島と言うことか。ということはフィフィタ氏の弟はこことは別の島に住んでいるのだろう。
俺たちをここに留め置くのは襲撃されないようにという意味か、いざという時自分たちの島を汚さないようにか。
「夜に部族会議をやるので、それまでに全員湯浴みを済ませてください」
****
湯浴み場所として連れて来られたのは、波打ち際に石を積んでできたワイルドな野湯だった。
石積みの内側は湯気が立っていて熱い湯が地下から湧いてるのだろうと想像出来る。
まだ片付けが終わってないという国境なき医師団や研究者一同にかわり、一番に湯に浸からせて貰う権利を得た俺と木栖と柊木医師は周囲に有毒ガス噴出の形跡などがないことを確認すると早速温泉へ入る事になった。
足元からぶくぶくと湧いてくる熱めの温泉と冷たい海水が混ざっていい具合の熱さになっており、日本人感覚では『潮の匂いがするちょっと熱めの温泉』になっている。
ぬるめの温泉好きな欧米人には少々熱すぎるだろうが、その時は海水を引き込めば良い。
双海公国を出てから風呂に入れていないのでこういう温泉がつくづく身に染みて心地よい。
「いい湯過ぎる……」
慣れない船旅の疲れがお湯に溶けていくようで心地良過ぎる。
隣にいた木栖も「本当にな」と言いながら俺に身体を寄せて来たので「近い」とおふざけテンションで顔面にお湯を浴びせてやる。
「まだこの後頑張らないとならない俺への癒しは無いのか」
「温泉があれば十分だろ、と言うかお前より俺の方が頑張らないとならないんだが?」
「そうか?」
悪ふざけタイムに突入した俺たちに「イチャイチャしないで貰えます?」という柊木医師からの冷たい声とフィフィタ氏の温かい目でおふざけタイムは終了した。
伝声管越しのアナウンスに心地よい昼寝から叩き起こされ、俺は船室の窓から海の方を確認した。
遠くにぽつぽつと大小さまざまな島が見える。あれがこの旅の目的地である南東諸島なのだろう。
「船長、事前に渡しておいた旗を吊るしてくれ。船首に人を置くが極力船員は近づくな」
伝声管越しにフィフィタ氏がそう告げる。
何かあるのだろうかと気になった俺は船首のほうへと足を運んだ。
船の帆の先に赤白緑の三角旗が掲げられ、船首にはフィフィタ氏が立っている。
確か彼はこの船に乗っている間ずっとチェスラフ氏の姿でいたが、いつのまにかフィフィタ氏の姿に戻っている。
あれはどういう意味なのだろうかと考えていると、突然指笛の音が聞こえてくる。
誰が指笛を鳴らしたかは分からないが、近くの誰かが鳴らしたかのような明瞭さで響いて来た。
するとフィフィタ氏も指笛に応えるように鳴らすとさらに指笛が帰ってくる。
それはまるでジャズのセッションのような指笛で構成された掛け合いであり、それがどのような意味を持つかは俺には分からなかった。
しばらくその掛け合いが続き、ひと段落つくとフィフィタ氏は不意に後ろを向いて俺の存在に気づいた。
「……何でいるんです?」
「失礼致しました、見てはいけないものでしたか」
「いえ、どうせ意味なんか分からないでしょうし」
あの指笛の掛け合いにはなんらかの意味があったのだろうということは察せられたが、それ以上聞くことは出来なかった。
「これからこの船は玄関島に向かうので、あと2時間もあれば着岸できるはずなので準備をお願いします」
「承知しました」
ようやく長い船旅が終わる。
しかしまだ本題はこれからなのだと思うと少しばかりため息が漏れた。
ー2時間後ー
船が着岸したのは小さな島の桟橋で、乗っていた木造船から降りるためにはわざわざ喫水線ギリギリに設けられた特別な出入口からハシゴをかけなければ降りられないような高さがあった。
この桟橋はおそらく小型船用のものなのだろうが、それ用の出入口がついていなかったら一生降りられなくなるところだった。
大量の荷物を下ろすため全員で下ろすと、フィフィタ氏の案内で建物へと連れて行かれた。
石積みの大きな塀の中に大小さまざまな平屋の家があり、中心となる場所には薪を焚べた跡もある。しかし建物ひとつひとつや石塀は綺麗で立派だが人の気配がない奇妙な場所だった。
「これは?」
「部族会議で使われる建物を借りました、人間は帰るまでここで寝泊まりするように言われてます」
「フィフィタさんの弟さんはどちらに?」
「普通玄関に人は住んでないでしょう?」
玄関島という呼び方は南東諸島を家に見立てた時ここは玄関、という意味で玄関島と言うことか。ということはフィフィタ氏の弟はこことは別の島に住んでいるのだろう。
俺たちをここに留め置くのは襲撃されないようにという意味か、いざという時自分たちの島を汚さないようにか。
「夜に部族会議をやるので、それまでに全員湯浴みを済ませてください」
****
湯浴み場所として連れて来られたのは、波打ち際に石を積んでできたワイルドな野湯だった。
石積みの内側は湯気が立っていて熱い湯が地下から湧いてるのだろうと想像出来る。
まだ片付けが終わってないという国境なき医師団や研究者一同にかわり、一番に湯に浸からせて貰う権利を得た俺と木栖と柊木医師は周囲に有毒ガス噴出の形跡などがないことを確認すると早速温泉へ入る事になった。
足元からぶくぶくと湧いてくる熱めの温泉と冷たい海水が混ざっていい具合の熱さになっており、日本人感覚では『潮の匂いがするちょっと熱めの温泉』になっている。
ぬるめの温泉好きな欧米人には少々熱すぎるだろうが、その時は海水を引き込めば良い。
双海公国を出てから風呂に入れていないのでこういう温泉がつくづく身に染みて心地よい。
「いい湯過ぎる……」
慣れない船旅の疲れがお湯に溶けていくようで心地良過ぎる。
隣にいた木栖も「本当にな」と言いながら俺に身体を寄せて来たので「近い」とおふざけテンションで顔面にお湯を浴びせてやる。
「まだこの後頑張らないとならない俺への癒しは無いのか」
「温泉があれば十分だろ、と言うかお前より俺の方が頑張らないとならないんだが?」
「そうか?」
悪ふざけタイムに突入した俺たちに「イチャイチャしないで貰えます?」という柊木医師からの冷たい声とフィフィタ氏の温かい目でおふざけタイムは終了した。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる