208 / 254
16:大使館とエルダールの島
16-14
しおりを挟む
2日間にわたる待期期間という名の無限討論期間が終わり、カウサル女公爵の用意した船に乗り込む日が来た。
隙あらば討論を吹っ掛けられるのにげんなりしていた俺としてはようやくかという気持ちであったが、連れてこられたのは双海公国近郊の船の修理場であった。
「今回ご用意いたしましたのは、東の国で先日廃業した商店の商用船となっております」
公爵の代わりに案内を引き受けた執事長から船について簡単な説明を受ける。
今回は双海公国の関与を気づかれないようにするため他国籍の商業船を用意したと言い、万が一身元の確認を受けることがあれば以下の設定で通すようにという設定メモや裏工作済の相手へ助けを求める方法をまとめたテキストまで用意してきた。
(……ここまで面倒見て貰って1億円と考えたら意外と安かったのかもな)
大使館での米の長期契約や現代日本の物品・知識・技術にそれだけの価値を見出しているという事なんだろう。
身分不相応に大きな借りを作ってしまった気がするがやむなしだ。
「最後にですが、このテキストは水に投げ込むと溶ける紙でできております。ですので処分時は海に投げ捨てておきますようよろしくお願いいたします」
「ありがとうございました」
俺の方で関係者への挨拶や打ち合わせている間に船の出航準備は整った。
ここからもう少し船の旅は続く。
****
船が走り出して3時間ほどすると、ぼんやりとした気持ち悪さが出て来た。
待機期間中の議論疲れと海船の揺れで船酔いしかけてるのだろうか?
軽い吐き気と頭痛から逃れるように甲板に出れば夏の日差しと潮風に迎えられ、ぼんやりとした気持ち悪さが楽になったように思う。
「なんかずっと甲板にいるよね」
そう呟いたのは雇われ用心棒のイーファで、その手にはスープ掛けのごはんがあった。
「別にいいだろ」
まだ本調子とはいいがたいせいか少々とげのある返しが口からこぼれ出ても、イーファはなお何も気にするそぶりもなく「まあね?」と受け流してきた。
「せっかくだしいくつか聞いても?」
「何をだ?」
「なんで異世界人がエルダールの島へ招かれたのか」
「彼らの間で流行った病気を治療しに、だな。ついでに金羊国を通じて我々の国と交流の第一歩を築ければ万々歳……ってところか」
もっとも完全に思い通りにいくとは思っていない。
エルダールの民はこの世界の人間に迫害されたことで閉鎖的なコミュニティを築き上げており、病気の治療ひとつで開明的になるとは思えない。
しかし将来的にエルダールの民が金羊国・日本と協力体制にある相手として組み込めればよいという企みもある。
「あくまで治療が目的?協力体制による利益でなくて?」
「当然だろ、そう求められたんだから」
「助けることが先で利益が二の次か、異世界人は変わってるね」
「俺たちの国においては困っている人は己の利益を無視してでも助けるのは普通なんだよ」
「まともなタイプの貴族や聖職者みたいな生き方だ、どんな貧乏人もそう考えるのか?」
「明日の飯にも事欠くような人以外は大体そう考えてると思う」
もちろんそう考えない人もたくさんいるだろうが国民の7割ぐらいはそう考える国だと思うし、地球全体でもそれぐらいいて欲しい……という俺の願望はさておいて。
この考えは異世界だとあまり主流ではないのだろうなという感覚はある。
「大して生活に余裕がある訳でもない庶民がそれでも身銭を切って他者に救いの手を差し伸べる、というのはそれによって得られる利益があるから?」
「そういう人もいるがそうじゃない人もいる、まあ半々ぐらいだろ」
ふるさと納税の返礼品だとか寄付による減税・免税制度だとか、場合によっては宗教的なものもあるだろう。
しかしそう言った事抜きで寄付や募金をする人も数多くいる。
「何の利益も求めず救いの手を差し出す庶民のいる世界か。異世界ってのは余裕がある世界だね」
「この世界より多少はな」
「せっかくのカザンラクだ、いつか見に行きたいね」
「カザンラク?」
「山の民は成人前の3年間で平野の事を学ぶために山を下り、傭兵や用心棒の仕事をしながら大陸を回るんだ」
地球で言えばアメリカのアーミッシュで行われるラムスプリンガのようなものだろう。
「条件さえ満たしてくれればいつでもどうぞ」
俺がそう答えると「ちなみに、スフェーンは連れていける?」と本気でそう聞いてくるのだった。
隙あらば討論を吹っ掛けられるのにげんなりしていた俺としてはようやくかという気持ちであったが、連れてこられたのは双海公国近郊の船の修理場であった。
「今回ご用意いたしましたのは、東の国で先日廃業した商店の商用船となっております」
公爵の代わりに案内を引き受けた執事長から船について簡単な説明を受ける。
今回は双海公国の関与を気づかれないようにするため他国籍の商業船を用意したと言い、万が一身元の確認を受けることがあれば以下の設定で通すようにという設定メモや裏工作済の相手へ助けを求める方法をまとめたテキストまで用意してきた。
(……ここまで面倒見て貰って1億円と考えたら意外と安かったのかもな)
大使館での米の長期契約や現代日本の物品・知識・技術にそれだけの価値を見出しているという事なんだろう。
身分不相応に大きな借りを作ってしまった気がするがやむなしだ。
「最後にですが、このテキストは水に投げ込むと溶ける紙でできております。ですので処分時は海に投げ捨てておきますようよろしくお願いいたします」
「ありがとうございました」
俺の方で関係者への挨拶や打ち合わせている間に船の出航準備は整った。
ここからもう少し船の旅は続く。
****
船が走り出して3時間ほどすると、ぼんやりとした気持ち悪さが出て来た。
待機期間中の議論疲れと海船の揺れで船酔いしかけてるのだろうか?
軽い吐き気と頭痛から逃れるように甲板に出れば夏の日差しと潮風に迎えられ、ぼんやりとした気持ち悪さが楽になったように思う。
「なんかずっと甲板にいるよね」
そう呟いたのは雇われ用心棒のイーファで、その手にはスープ掛けのごはんがあった。
「別にいいだろ」
まだ本調子とはいいがたいせいか少々とげのある返しが口からこぼれ出ても、イーファはなお何も気にするそぶりもなく「まあね?」と受け流してきた。
「せっかくだしいくつか聞いても?」
「何をだ?」
「なんで異世界人がエルダールの島へ招かれたのか」
「彼らの間で流行った病気を治療しに、だな。ついでに金羊国を通じて我々の国と交流の第一歩を築ければ万々歳……ってところか」
もっとも完全に思い通りにいくとは思っていない。
エルダールの民はこの世界の人間に迫害されたことで閉鎖的なコミュニティを築き上げており、病気の治療ひとつで開明的になるとは思えない。
しかし将来的にエルダールの民が金羊国・日本と協力体制にある相手として組み込めればよいという企みもある。
「あくまで治療が目的?協力体制による利益でなくて?」
「当然だろ、そう求められたんだから」
「助けることが先で利益が二の次か、異世界人は変わってるね」
「俺たちの国においては困っている人は己の利益を無視してでも助けるのは普通なんだよ」
「まともなタイプの貴族や聖職者みたいな生き方だ、どんな貧乏人もそう考えるのか?」
「明日の飯にも事欠くような人以外は大体そう考えてると思う」
もちろんそう考えない人もたくさんいるだろうが国民の7割ぐらいはそう考える国だと思うし、地球全体でもそれぐらいいて欲しい……という俺の願望はさておいて。
この考えは異世界だとあまり主流ではないのだろうなという感覚はある。
「大して生活に余裕がある訳でもない庶民がそれでも身銭を切って他者に救いの手を差し伸べる、というのはそれによって得られる利益があるから?」
「そういう人もいるがそうじゃない人もいる、まあ半々ぐらいだろ」
ふるさと納税の返礼品だとか寄付による減税・免税制度だとか、場合によっては宗教的なものもあるだろう。
しかしそう言った事抜きで寄付や募金をする人も数多くいる。
「何の利益も求めず救いの手を差し出す庶民のいる世界か。異世界ってのは余裕がある世界だね」
「この世界より多少はな」
「せっかくのカザンラクだ、いつか見に行きたいね」
「カザンラク?」
「山の民は成人前の3年間で平野の事を学ぶために山を下り、傭兵や用心棒の仕事をしながら大陸を回るんだ」
地球で言えばアメリカのアーミッシュで行われるラムスプリンガのようなものだろう。
「条件さえ満たしてくれればいつでもどうぞ」
俺がそう答えると「ちなみに、スフェーンは連れていける?」と本気でそう聞いてくるのだった。
1
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
もふもふの王国
佐乃透子(不定期更新中)
ファンタジー
ほのぼの子育てファンタジーを目指しています。
OLな水無月が、接待飲み会の後、出会ったもふもふ。
このもふもふは……
子供達の会話は読みやすさ重視で、漢字変換しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる