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16:大使館とエルダールの島
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双海公国への長い川下りが始まっても、俺たちに余裕は無かった。
公国に着くまでの間にひとつ準備しておく事がある。
「コミュニケーションカード?」
「治療時に症状の聞きとりなんかに使うやつだな、こいつの英語・大陸標準語・エルダール語(と納村が命名したエルダールの民の母語)の対訳があってるかを確認しておいてくれって納村に押し付けられててな」
柊木医師監修のもと納村とフィフィタさんが共同で制作した医療用簡易コミュニケーションカードが出来たのは出発前日のことだ。
納村が本業である大陸標準語の研究を休み徹夜までして完成させたのだが、どうしても最終チェックとカードのラミネートが間に合わないと俺に押し付けてきたのだ。
いかんせん作った本人がぼろぼろの状態だったので文句を言うことも出来ず、俺が残りを引き継ぐことになった訳である。
「俺と柊木先生の方で大陸標準語と英語のチェックをやるから、ラミネートやっといてくれ」
「大概仕事の鬼だな……」
「国境なき医師団の人たちや研究者の人たちは大陸標準語のリスニング練習で忙しいから俺らでやった方が早い」
現在はフィフィタさんや深大寺を教師に大陸標準語のリスニング練習に追われている彼らにラミネート作業を押し付けるわけにもいかず、俺たちでやるしかない。
カードは大きめのスマホサイズで、3ヶ国語の対訳とともにいらすとやで拾ったと思わしき柔らかい絵柄の挿絵付きの便利仕様である。
エルダール語についてはいちおうフィフィタさん監修であるから問題なしと仮定して、大陸標準語と英語の対訳があってるかだけを確認する事になる。
俺は念の為持ってきていた英和辞典を引きながら英語のチェックを行い、柊木医師が大陸標準語のチェック、そしてこのダブルチェックを通過したものを木栖が手張りラミネートフィルムを使ってラミネートしてからパンチで穴を開けてリングでまとめる。
これだけで軽く1日仕事だ。
しかも船の上なので若干の揺れがあり、軽い船酔いになりかけたりしながらこなすこと2日。
「これで全部か……」
人数分まとめられた医療用コミュニケーションカードをげんなりした気持ちで見つめる。
「あと他にやることはないだろ?」
「少なくとも俺の記憶にはないから、双海公国着くまではゆっくり出来ると思う」
カード制作作業も終わったので、これを全員に渡しに行こうかと船の甲板へと出ていく。
甲板には夏の大河川を吹き渡る爽やかな風が吹き渡り、空を見上げれば晴天の向こう側に大きな生き物の影が見える。
「何だ?」
じっと目を凝らすと、それは黒い鱗を纏った翼竜……いや、この世界で言うところのドラゴンだ。
それに対抗するように現れたのは緑の鱗に包まれた翼竜……いや、アレは船に乗る時に出会ったあの翼竜だ!
「ぎゃぎゃりおら!(迎撃せよ!)」「ぎゃう!(了解)」
その声に合わせてスフェーンと呼ばれた緑のドラゴンが大きく甲高い声で力強い鳴き声を挙ながら、黒いドラゴンを迎撃してくる。
すると追い立てられるように船のそばを去っていくのである。
『ファンタジーアニメみたいだな』
そう呟いたのは物陰に隠れていたチーム長であった。
『そこにいらしたんですね』
『タバコが吸いたくてね。木造船だから中で吸うと火事が怖いんで、甲板に出てたらコレだ。ここでは良くあるのか?』
『いえ。初めて見ました』
確かにここは異世界なのだという実感を胸に抱きながら、緑の翼竜が船のそばへ戻るまでじっと空を眺めて過ごした。
公国に着くまでの間にひとつ準備しておく事がある。
「コミュニケーションカード?」
「治療時に症状の聞きとりなんかに使うやつだな、こいつの英語・大陸標準語・エルダール語(と納村が命名したエルダールの民の母語)の対訳があってるかを確認しておいてくれって納村に押し付けられててな」
柊木医師監修のもと納村とフィフィタさんが共同で制作した医療用簡易コミュニケーションカードが出来たのは出発前日のことだ。
納村が本業である大陸標準語の研究を休み徹夜までして完成させたのだが、どうしても最終チェックとカードのラミネートが間に合わないと俺に押し付けてきたのだ。
いかんせん作った本人がぼろぼろの状態だったので文句を言うことも出来ず、俺が残りを引き継ぐことになった訳である。
「俺と柊木先生の方で大陸標準語と英語のチェックをやるから、ラミネートやっといてくれ」
「大概仕事の鬼だな……」
「国境なき医師団の人たちや研究者の人たちは大陸標準語のリスニング練習で忙しいから俺らでやった方が早い」
現在はフィフィタさんや深大寺を教師に大陸標準語のリスニング練習に追われている彼らにラミネート作業を押し付けるわけにもいかず、俺たちでやるしかない。
カードは大きめのスマホサイズで、3ヶ国語の対訳とともにいらすとやで拾ったと思わしき柔らかい絵柄の挿絵付きの便利仕様である。
エルダール語についてはいちおうフィフィタさん監修であるから問題なしと仮定して、大陸標準語と英語の対訳があってるかだけを確認する事になる。
俺は念の為持ってきていた英和辞典を引きながら英語のチェックを行い、柊木医師が大陸標準語のチェック、そしてこのダブルチェックを通過したものを木栖が手張りラミネートフィルムを使ってラミネートしてからパンチで穴を開けてリングでまとめる。
これだけで軽く1日仕事だ。
しかも船の上なので若干の揺れがあり、軽い船酔いになりかけたりしながらこなすこと2日。
「これで全部か……」
人数分まとめられた医療用コミュニケーションカードをげんなりした気持ちで見つめる。
「あと他にやることはないだろ?」
「少なくとも俺の記憶にはないから、双海公国着くまではゆっくり出来ると思う」
カード制作作業も終わったので、これを全員に渡しに行こうかと船の甲板へと出ていく。
甲板には夏の大河川を吹き渡る爽やかな風が吹き渡り、空を見上げれば晴天の向こう側に大きな生き物の影が見える。
「何だ?」
じっと目を凝らすと、それは黒い鱗を纏った翼竜……いや、この世界で言うところのドラゴンだ。
それに対抗するように現れたのは緑の鱗に包まれた翼竜……いや、アレは船に乗る時に出会ったあの翼竜だ!
「ぎゃぎゃりおら!(迎撃せよ!)」「ぎゃう!(了解)」
その声に合わせてスフェーンと呼ばれた緑のドラゴンが大きく甲高い声で力強い鳴き声を挙ながら、黒いドラゴンを迎撃してくる。
すると追い立てられるように船のそばを去っていくのである。
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そう呟いたのは物陰に隠れていたチーム長であった。
『そこにいらしたんですね』
『タバコが吸いたくてね。木造船だから中で吸うと火事が怖いんで、甲板に出てたらコレだ。ここでは良くあるのか?』
『いえ。初めて見ました』
確かにここは異世界なのだという実感を胸に抱きながら、緑の翼竜が船のそばへ戻るまでじっと空を眺めて過ごした。
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