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16:大使館とエルダールの島
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深大寺と通じてカウサル女公爵へ船の貸し出し依頼の手紙を出してから10日。
日本円で一億円の貸し賃と一緒に保証人として深大寺を連れて来れば貸しても良い、という返事が来た。
貸し賃が高い理由として『俺たちが船の操縦者を連れて来ることが出来ない』『大き目の船を準備するのが結構手間』『異世界の物品を輸送するので壊れないように気を遣う必要がある』と言われてしまえば反論は難しい。
そしてなにより双海公国側にとってこの船の貸し出しはものすごくリスクがある。
まず船や船員のリスク。
過去にエルダールの民が住む島の沖合を通過した商船が攻撃されたことがあり、基本的に島から10ミル(16キロ)以上離れた沖合を通ることが暗黙の了解となっている。なので島周辺の海を熟知したものがおらず、対応能力の高いベテランを貸し出すしかない。しかも乗っているのが異世界人かつエルダールの島が目的地となると船の操縦者への襲撃リスクが高いので、船が壊れたり操縦者がケガした時のことも踏まえなければならない。
もう1つはカウサル女公爵自身の側のリスク。
彼女の先祖に土地と爵位を与えたのは教会であり、教会と思想を異にする金羊国及び日本政府への協力者であることが露見すれば教会から爵位と土地を収奪される可能性がある。一族が500年かけて丹精に作り上げた土地を奪われれば商会は破産まっしぐらだ。そのためには露見しないように裏工作を重ねないとならないのだ。
一億円の内訳をまとめた見積書の末尾には【後払い・分割払い・双海公国に於ける貴重品での支払い可、手形取引不可。支払い不可能の場合深大寺の身柄を公爵家に移譲。保証人不在の場合は倍額を事前に全額支払う事を条件とする】という文言も付いている。
「……これ、値引き交渉の余地ないな?」
今回の予算をはるかに超えた貸し賃には頭痛がする。
エルダールの民から迎えに来てもらうという手もあるが、これは割と早いうちにとん挫していた。
理由は単純で、彼らの船はカヌーに近い小型船なので大人数を連れて行ったり物を運ぶのに適さない。
となると分割払いしかないが……いったい何回払いになる事やら。大使館や俺個人の借金にはならないだろうが外務省・財務省・永田町のアレな人々から何を言われるか想像しただけで嫌になる。
なにより深大寺がヤバい。中途で支払い不可能になった場合、深大寺がカウサル女公爵の奴隷になるのである。他人の尊厳と自由がかかっているのだ。まだ奴隷制度が残ってる世界なので地球の倫理を適用してやめろと言うのは難しい。
「真柴、何死にそうな顔してるんだ」
そう声をかけてきたのは木栖だ。
「お前訓練は良いのか?」
「昼飯食いに戻ってきたら、飯山さんがお前が呼んでも降りてこないって言うんで呼びに来た」
「そういうことか。みんな先食ってても良かったのに」
「飯の時以外顔合わせるタイミングないから自然と待つんだろ。身体しんどいなら先に柊木先生に診てもらうか?」
「いや、体調が悪いというか仕事のことで頭の痛い事態が起きてな」
一億円の見積書を見せるとすべてを悟ったように「確かにこれは頭が痛いな」とつぶやいた。
しかしこれ以外に方法はもうないので払うしかない。
「俺も一緒に頭下げに行くか?顔の良さには自信があるから、ちょっとは向こうも甘くなるかもしれんぞ」
「お前の顔面でも一億円をチャラには出来ないと思うがな。いちおう上に回してお伺いを立てて許可取らないとな」
この日の午後、この見積書と共に現地への移動方法がこれしかない事を伝えられた飯島は「もうやだこのあんけん」と呟きながら承諾をもぎ取りに奔走していた。
日本円で一億円の貸し賃と一緒に保証人として深大寺を連れて来れば貸しても良い、という返事が来た。
貸し賃が高い理由として『俺たちが船の操縦者を連れて来ることが出来ない』『大き目の船を準備するのが結構手間』『異世界の物品を輸送するので壊れないように気を遣う必要がある』と言われてしまえば反論は難しい。
そしてなにより双海公国側にとってこの船の貸し出しはものすごくリスクがある。
まず船や船員のリスク。
過去にエルダールの民が住む島の沖合を通過した商船が攻撃されたことがあり、基本的に島から10ミル(16キロ)以上離れた沖合を通ることが暗黙の了解となっている。なので島周辺の海を熟知したものがおらず、対応能力の高いベテランを貸し出すしかない。しかも乗っているのが異世界人かつエルダールの島が目的地となると船の操縦者への襲撃リスクが高いので、船が壊れたり操縦者がケガした時のことも踏まえなければならない。
もう1つはカウサル女公爵自身の側のリスク。
彼女の先祖に土地と爵位を与えたのは教会であり、教会と思想を異にする金羊国及び日本政府への協力者であることが露見すれば教会から爵位と土地を収奪される可能性がある。一族が500年かけて丹精に作り上げた土地を奪われれば商会は破産まっしぐらだ。そのためには露見しないように裏工作を重ねないとならないのだ。
一億円の内訳をまとめた見積書の末尾には【後払い・分割払い・双海公国に於ける貴重品での支払い可、手形取引不可。支払い不可能の場合深大寺の身柄を公爵家に移譲。保証人不在の場合は倍額を事前に全額支払う事を条件とする】という文言も付いている。
「……これ、値引き交渉の余地ないな?」
今回の予算をはるかに超えた貸し賃には頭痛がする。
エルダールの民から迎えに来てもらうという手もあるが、これは割と早いうちにとん挫していた。
理由は単純で、彼らの船はカヌーに近い小型船なので大人数を連れて行ったり物を運ぶのに適さない。
となると分割払いしかないが……いったい何回払いになる事やら。大使館や俺個人の借金にはならないだろうが外務省・財務省・永田町のアレな人々から何を言われるか想像しただけで嫌になる。
なにより深大寺がヤバい。中途で支払い不可能になった場合、深大寺がカウサル女公爵の奴隷になるのである。他人の尊厳と自由がかかっているのだ。まだ奴隷制度が残ってる世界なので地球の倫理を適用してやめろと言うのは難しい。
「真柴、何死にそうな顔してるんだ」
そう声をかけてきたのは木栖だ。
「お前訓練は良いのか?」
「昼飯食いに戻ってきたら、飯山さんがお前が呼んでも降りてこないって言うんで呼びに来た」
「そういうことか。みんな先食ってても良かったのに」
「飯の時以外顔合わせるタイミングないから自然と待つんだろ。身体しんどいなら先に柊木先生に診てもらうか?」
「いや、体調が悪いというか仕事のことで頭の痛い事態が起きてな」
一億円の見積書を見せるとすべてを悟ったように「確かにこれは頭が痛いな」とつぶやいた。
しかしこれ以外に方法はもうないので払うしかない。
「俺も一緒に頭下げに行くか?顔の良さには自信があるから、ちょっとは向こうも甘くなるかもしれんぞ」
「お前の顔面でも一億円をチャラには出来ないと思うがな。いちおう上に回してお伺いを立てて許可取らないとな」
この日の午後、この見積書と共に現地への移動方法がこれしかない事を伝えられた飯島は「もうやだこのあんけん」と呟きながら承諾をもぎ取りに奔走していた。
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