異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
200 / 242
16:大使館とエルダールの島

16-7

しおりを挟む
金羊国へ戻ると、最後の問題が現れた。
「この人数だと船ひとつ借りないと無理だよなあ」
「無理でしょうねえ」
さまざまな団体との交渉の末、移動人数と持ち込み機材が確定した。
国境なき医師団からは医師・看護師・薬剤師・理学療法士・事務スタッフ合わせて14人、成田の研究所からはムコンザ医師とその助手を合わせて5人、そして俺たち大使館からは俺と柊木医師と木栖の3人で、合計22人。さらに大小様々な医療機材や薬品類が3000ちょっと。
俺たちはこれだけの人と物をいかにして安全に運ぶかの目処すら全く立っていなかった。
「真柴大使、お話が」
「石薙さんどうかしました?」
「今月分の深大寺くんやらかし報告書です」
深大寺は毎月懲りることなく何かしらのやらかしを出しており、せっかくなので再発防止策を取るための参考として定期的にまとめて報告書にして再発防止策を組み立てるのに使っていた。
が、いま深大寺と言う名前と共に頭をよぎったのはある人物の顔だった。
「やらかし報告書は後で読む、いま深大寺はいるか?」
「いますよ、呼んできますね」

****

深大寺は戦々恐々という顔をして俺の前に腰を下ろし、「ご、ご用件は……」と聞いてきた。
よく考えると深大寺からすると何の心当たりもないのにいきなり上司から呼び出されてるわけなので、戦々恐々とする気持ちはなんとなく理解出来た。しかも元々やらかしの多いタイプなので尚更そうなるのだろう。
しかし今回の話はそう言うことではないのである。
「別にお前のやらかし問題の話じゃない。お前、双海公国のカウサル女公爵と連絡取れるか?」
「昨日手紙を貰ったばかりですけど……あ、カウサル女公爵へのお手紙の内容報告すべきでしたか?!」
「私的な内容なら別にしなくていい。わざわざ検閲しないといけないようなこと書いてないだろ?」
基本的に大使館内では私的文書の検閲は行わない。通信の自由や思想信条の自由を侵さない、というのは現代日本の価値観として当然のことである。
俺のその問いに深大寺は「書いてないです!」ときっぱり答えた。いい返事である。
「今回はお前のツテでカウサル女公爵に船を仕立てて貰いたい」
あまりピンと来ていない深大寺が不思議そうに「船ですか?」と聞いてきた。
それにしても、石薙さんはいつもすぐに察してくれるが、深大寺は少し察しの悪いところがある。これは石薙さんの察しが良過ぎるのか、深大寺の察しが悪いのかはかなり微妙なところだ。
大使館最年長のベテランと比較されるのは俺でも荷が重いしな……。
「ああ。いまうちの大使館で抱えてる少数民族の医療支援の話は把握してるだろ?それ用の船が欲しい。そのためにお前のツテを使いたい」
「わかりました。前に貰ったシーリングスタンプと僕の名前で書けばすぐ送れるみたいなので早急に準備します」
カウサル女公爵は爵位を持ちながらも商人でもあるし、彼女の国である双海公国は大きな港町でもある。人目を誤魔化しつつある程度大きな船を仕立てるくらいなら彼女のツテが使える。
出費がかさむだろうか今回は国際支援という名目で予算を多めにもぎ取っている。どうしても足りなかったら……当事者に頭下げてもらうしかないな。美形の少数民族と言う同情の余地の多さを使わせて貰うように頼むしかない。
「手紙の内容どうします?」
「私的な方は深大寺の好きに書けばいい。船の依頼は俺の方で依頼文を書くからそれを同封しておいてくれ、あと使ってない便箋1枚貰えるか?ちょうど切らしててな」
「分かりました!」
即座に立ち上がった深大寺が小走りで部屋を出ようとすると、閉まったままのドアに思い切り正面衝突した。
「大丈夫か?」
「すいません、ドア閉まったままなの忘れてました」
……本当に大丈夫なのかこいつは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...