200 / 254
16:大使館とエルダールの島
16-6
しおりを挟む
霞ヶ関の外務省並行世界局は今日も仕事を抱えて大騒ぎの中にあった。
「北の国の国王訪問の次は少数民族の島への医療支援かよ……」
飯島は呆れたような困ったようなため息を吐いて俺を見てきた。
エルダールの民についてはある程度事前に情報を出していたが、人間とエルダールの差がよくわかっていない現状では『教会から迫害される異教徒の少数民族』として理解されていた。
「北の国の王家の訪日で手一杯なのに新しい問題持ってきたな?」
「俺のせいじゃない、向こうから来てるんだ」
「はいはい。とりあえず俺らがやるのは国境なき医師団の特別チームの入国許可と血液製剤の輸出承諾でいいんだな?」
「ああ。厚労省への交渉は柊木医師に行って貰ってる、あちらへのツテがあるらしくてな。午後には一度担当者をこっちに連れてきてくれるって話だったからあとの細かいところはそっちでやってくれ」
「わかった。経由地になる金羊国に話は?」
「嘉神に割り振ってる。ただ人と物を通過させるだけだから対して細かい交渉する必要もないだろうしな」
「ならお前を信用するけど進捗は定期的に寄越せよ」
*****
きょうの目的地は成田。研究所にいる医師のなかに血液系疾患の専門家がいるというので、その人物へ会いに行くのである。
成田の研究所は国連が近くの廃校を借り上げて作られているだけあり、学校のような見た目でありながらも厳重な門構えがここが学校でないと伝えてくる。
入り口で郵送されてきた入構許可証を確認して貰い、約束の第3面談室へ足を運ぶ。
時間きっかりに現れたのは白衣に身を包んだ縦にも横にも大柄なアフリカのおっかさんという印象の女性であった。
『私がナオミ・ムコンザよ。話は聞いているわ』
淀みのないアメリカ英語と共に差し出された手を握り返しつつ、俺と柊木医師もまた英語で挨拶を返す。
あまり英語が上手くないので時折話が詰まるかもしれない事だけ前置きしてから、今回訪れた理由について話を切り出した。
『エルダールの民の病気はムコンザ医師の専門である血液系疾患という見立てが出てます、今回の支援対象となるエルダールの民の病気についての検査と確定診断がムコンザ医師への依頼となります』
『聞いているわ。私はエルダールの民の病気がそこにいるドクターヒイラギの見立て通りのものかを確認するのが私の仕事で、直接の治療は国境なき医師団が担う形になるのよね?』
『はい』
『私は確かに血液疾患を専門としてるけどあくまで研究者で臨床経験が少ないからあまりお役に立てないと思うのだけど……血液内科医の派遣は出来なかったの?』
柊木医師のほうを見ると『国境なき医師団にお願いはしてますが難しいと言われていますし、日本国内にも専門医が少ないので……』と事情を説明する。
『そう言うことよねえ。エルダールの民と呼ばれる人たちへの直接的な調査研究も並行して行えるし、研究者として行かない理由は無いのよねー』
『お願い出来ますか?』
『少し予定を調整してみるわ、あなた方も悪い人では無さそうだしね』
ウィンクととも帰ってきたその一言で俺の肩の力が抜ける。
本当に来てもらうためにはムコンザ医師の周りへの根回しがいくらか必要だろうが、この反応ならたぶん来てくれるだろう。
(でもまだでかい問題が残ってるんだよなあ……)
帰ってもまだ残っている課題を思うと溜め息しかなかった。
「北の国の国王訪問の次は少数民族の島への医療支援かよ……」
飯島は呆れたような困ったようなため息を吐いて俺を見てきた。
エルダールの民についてはある程度事前に情報を出していたが、人間とエルダールの差がよくわかっていない現状では『教会から迫害される異教徒の少数民族』として理解されていた。
「北の国の王家の訪日で手一杯なのに新しい問題持ってきたな?」
「俺のせいじゃない、向こうから来てるんだ」
「はいはい。とりあえず俺らがやるのは国境なき医師団の特別チームの入国許可と血液製剤の輸出承諾でいいんだな?」
「ああ。厚労省への交渉は柊木医師に行って貰ってる、あちらへのツテがあるらしくてな。午後には一度担当者をこっちに連れてきてくれるって話だったからあとの細かいところはそっちでやってくれ」
「わかった。経由地になる金羊国に話は?」
「嘉神に割り振ってる。ただ人と物を通過させるだけだから対して細かい交渉する必要もないだろうしな」
「ならお前を信用するけど進捗は定期的に寄越せよ」
*****
きょうの目的地は成田。研究所にいる医師のなかに血液系疾患の専門家がいるというので、その人物へ会いに行くのである。
成田の研究所は国連が近くの廃校を借り上げて作られているだけあり、学校のような見た目でありながらも厳重な門構えがここが学校でないと伝えてくる。
入り口で郵送されてきた入構許可証を確認して貰い、約束の第3面談室へ足を運ぶ。
時間きっかりに現れたのは白衣に身を包んだ縦にも横にも大柄なアフリカのおっかさんという印象の女性であった。
『私がナオミ・ムコンザよ。話は聞いているわ』
淀みのないアメリカ英語と共に差し出された手を握り返しつつ、俺と柊木医師もまた英語で挨拶を返す。
あまり英語が上手くないので時折話が詰まるかもしれない事だけ前置きしてから、今回訪れた理由について話を切り出した。
『エルダールの民の病気はムコンザ医師の専門である血液系疾患という見立てが出てます、今回の支援対象となるエルダールの民の病気についての検査と確定診断がムコンザ医師への依頼となります』
『聞いているわ。私はエルダールの民の病気がそこにいるドクターヒイラギの見立て通りのものかを確認するのが私の仕事で、直接の治療は国境なき医師団が担う形になるのよね?』
『はい』
『私は確かに血液疾患を専門としてるけどあくまで研究者で臨床経験が少ないからあまりお役に立てないと思うのだけど……血液内科医の派遣は出来なかったの?』
柊木医師のほうを見ると『国境なき医師団にお願いはしてますが難しいと言われていますし、日本国内にも専門医が少ないので……』と事情を説明する。
『そう言うことよねえ。エルダールの民と呼ばれる人たちへの直接的な調査研究も並行して行えるし、研究者として行かない理由は無いのよねー』
『お願い出来ますか?』
『少し予定を調整してみるわ、あなた方も悪い人では無さそうだしね』
ウィンクととも帰ってきたその一言で俺の肩の力が抜ける。
本当に来てもらうためにはムコンザ医師の周りへの根回しがいくらか必要だろうが、この反応ならたぶん来てくれるだろう。
(でもまだでかい問題が残ってるんだよなあ……)
帰ってもまだ残っている課題を思うと溜め息しかなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる