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16:大使館とエルダールの島
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数日後。エルダールの民に会いに行くための最初の問題である日本からの人手と道具の確保を解決するため、俺たちは初夏の東京へ舞い戻ることになった。
「蒸し暑い……」
「完全に梅雨の天気ですねえ」
梅雨入り宣言が昨日出たばかりだという東京はじめじめと張り付く湿気と高い気温のせいでどうにも蒸し暑い。
スマホで天気予報を確認してみても今日明日は雨の予報になっており、傘を持ってきてない事もあって出鼻を挫かれたような気だるさが湧いてくる。
「上野駅まで濡れて行くの面倒ですしいっそ霞が関までタクシー使います?」
「あー……どうするかな」
出せない金額でもないのでここでケチる必要はないが、あとで傘を買う事も考えるともったいない気もしてぼんやりと考えていると「あの、」と警備員から声がかかる。
異世界へつながる唯一の道であるこの場所は観光客がよく来るので常に警備員が常駐しており、頻繁にここを通る俺や納村などはすっかり顔を覚えられていた。
「よければ余ってるビニール傘お貸ししましょうか」
「いいんですか?」
「ええ。観光客の忘れ物ですから処分に困るほどあるので」
「そういうことですか。じゃあ2本お借りしても?」
ありがたいことに借りることのできたビニール傘を差すと、今回の目的地の道順を確認する。
まずは新宿。以前から異世界への医療支援が必要であれば協力する意向を示していた国境なき医師団の日本事務局だ。
****
新宿の雑居ビルの中の会議室、そこに揃ったのは人種も性別も年齢もバラバラな10人だった。
「今回はお集まりいただきありがとうございます。在金羊国大使館全権大使の真柴です」
「医師の柊木と申します」
とりあえず日本語で話したがあまりピンと来ていない人もおり「英語のほうが良かったですかね」と近くにいた職員に声をかけると「大丈夫です、通訳いますので」と返ってきた。
「今回は私たちに依頼された異世界への医療支援とその概要についてご説明します」
『一つ質問を』
イタリア訛りの英語で話しかけてきたのは、痩せぎすの鋭い目をした白人男性だった。
『今回の支援は日本側が依頼を受けたという認識なのか、私たち国境なき医師団が依頼を受けたのか、そこをどう考えてるのか聞かせて欲しい』
隣にいた男性がさっと意訳メモを出してくれる。
訛りがきつくて内容の理解に自信はなかったが認識は間違っていないようだ。
頭の中で言いたいことをまとめてから意識を英語に切り替えて口を開く。
『あくまで自分の認識としては異世界全体への依頼だと認識しています。
そもそも今回支援を希望したエルダールの民は大陸内での交流にも消極的な人々ですので異世界人の種類……と言っていいのか分かりませんが、とにかくそこまで細かく認識できていないと考えられます。
ですので今回は特定の国・組織への依頼というよりも異世界全体への依頼という認識の下で動いています』
『私たちの世界全体への依頼か』
痩せぎすの男はふっと面白そうに笑うと『承知した。続けてくれ』と俺たちに話の主導権を返してきた。
意識を日本語に戻してから今回依頼の概要を解説すると、国境なき医師団で特別チームを準備することに同意してくれた。
メンバー編成については実際に聞き取りを行った柊木医師の意見も参考にし、1か月ほどで準備を終わらせるところまで同意を得ることが出来た。
3時間近い会議を終えてもまだ外は雨雲に覆われたままだ。
(次は霞が関と永田町回り、明日は成田か……)
めんどくさいという心の声を抑え込み、俺と柊木医師は一路霞が関をめざすのであった。
「蒸し暑い……」
「完全に梅雨の天気ですねえ」
梅雨入り宣言が昨日出たばかりだという東京はじめじめと張り付く湿気と高い気温のせいでどうにも蒸し暑い。
スマホで天気予報を確認してみても今日明日は雨の予報になっており、傘を持ってきてない事もあって出鼻を挫かれたような気だるさが湧いてくる。
「上野駅まで濡れて行くの面倒ですしいっそ霞が関までタクシー使います?」
「あー……どうするかな」
出せない金額でもないのでここでケチる必要はないが、あとで傘を買う事も考えるともったいない気もしてぼんやりと考えていると「あの、」と警備員から声がかかる。
異世界へつながる唯一の道であるこの場所は観光客がよく来るので常に警備員が常駐しており、頻繁にここを通る俺や納村などはすっかり顔を覚えられていた。
「よければ余ってるビニール傘お貸ししましょうか」
「いいんですか?」
「ええ。観光客の忘れ物ですから処分に困るほどあるので」
「そういうことですか。じゃあ2本お借りしても?」
ありがたいことに借りることのできたビニール傘を差すと、今回の目的地の道順を確認する。
まずは新宿。以前から異世界への医療支援が必要であれば協力する意向を示していた国境なき医師団の日本事務局だ。
****
新宿の雑居ビルの中の会議室、そこに揃ったのは人種も性別も年齢もバラバラな10人だった。
「今回はお集まりいただきありがとうございます。在金羊国大使館全権大使の真柴です」
「医師の柊木と申します」
とりあえず日本語で話したがあまりピンと来ていない人もおり「英語のほうが良かったですかね」と近くにいた職員に声をかけると「大丈夫です、通訳いますので」と返ってきた。
「今回は私たちに依頼された異世界への医療支援とその概要についてご説明します」
『一つ質問を』
イタリア訛りの英語で話しかけてきたのは、痩せぎすの鋭い目をした白人男性だった。
『今回の支援は日本側が依頼を受けたという認識なのか、私たち国境なき医師団が依頼を受けたのか、そこをどう考えてるのか聞かせて欲しい』
隣にいた男性がさっと意訳メモを出してくれる。
訛りがきつくて内容の理解に自信はなかったが認識は間違っていないようだ。
頭の中で言いたいことをまとめてから意識を英語に切り替えて口を開く。
『あくまで自分の認識としては異世界全体への依頼だと認識しています。
そもそも今回支援を希望したエルダールの民は大陸内での交流にも消極的な人々ですので異世界人の種類……と言っていいのか分かりませんが、とにかくそこまで細かく認識できていないと考えられます。
ですので今回は特定の国・組織への依頼というよりも異世界全体への依頼という認識の下で動いています』
『私たちの世界全体への依頼か』
痩せぎすの男はふっと面白そうに笑うと『承知した。続けてくれ』と俺たちに話の主導権を返してきた。
意識を日本語に戻してから今回依頼の概要を解説すると、国境なき医師団で特別チームを準備することに同意してくれた。
メンバー編成については実際に聞き取りを行った柊木医師の意見も参考にし、1か月ほどで準備を終わらせるところまで同意を得ることが出来た。
3時間近い会議を終えてもまだ外は雨雲に覆われたままだ。
(次は霞が関と永田町回り、明日は成田か……)
めんどくさいという心の声を抑え込み、俺と柊木医師は一路霞が関をめざすのであった。
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