異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
197 / 254
16:大使館とエルダールの島

16-3

しおりを挟む
その日の夜、夕食も兼ねた情報交換の場でチェスラフ氏の話が出た。
「にしても飛びぬけた美形で排他的な集落出身ってエルフみたいですね」
深大寺の口から出てきた単語はファンタジーの響きがした。
「エルフ……ああ。ロードオブザリングに出てくるアレか」
「別に耳は長くなかったですよ?」
「あくまで雰囲気とかイメージの話ですよ、こっちにもエルフいないのかなー?」
深大寺はあははーと笑いながらそんなことを言う。
ロードオブザリングに出てくるエルフのイメージは確かにチェスラフ氏に似通ったものがある気がするが、俺の聞いた限りだと向こうからやってくるとは思えない。
「いるぞ」
「えっ?!」
「この地でエルフのイメージにいちばん近いものというと耳長者と呼ばれる種族だと思う。ただ彼らは500年前から離島に住んでるらしいぞ」
「エルフなのに島住まいなんですね、詳しく聞いてみたいなあ」
「明日アントリかオーロフに聞けばいい」

****

翌日のおやつ時は偶然手の空いていたアントリと俺の2人きりだった。
「アントリ、耳長者と呼ばれる人たちについてどのくらい知ってる?」
「耳長者ですか?眉目秀麗な人間によく似ているけど耳が長くて、人間の魔術と違う魔法を持っていて、若返りの秘術を用いて数百年の時を生きる種族だ、と聞いてますが……でも急にどうして?」
「昨晩そういう話をしてな。気になって調べてみたんだが資料が少ないから聞いてみるのが早いかと思って」
「そういう事でしたか」
「とりあえずいくつか気になる点があるんだが、まず人間の魔術と違う魔法があるというのは?」
この世界の魔術ですら既に理屈を飛び越えているというのに、また新しいものが出てきたのが気になる。
まあだからと言って何の役に立つかは分からないが知識はいくらあっても邪魔にならない。
「耳長者は生まれつき人智を超えた魔法を持って生まれるそうです。
朝植えた種を一瞬で大木に育て、足踏みひとつで大きな土壁を作り、歌声で獅子の群れを従わせる。その魔法を人間が再現するために魔術が生まれたそうですよ」
確かにそれは魔法と言う言葉がよく似合うかもしれない。
それに魔法が先にあって魔術が生まれたと言うのも初めて聞いたな……柊木医師なら聞いていたかもしれないが、俺は魔術関係はとんとダメだったので詳しくない。
「それと、若返りの秘術は?」
「僕も詳しくは……そういう噂話は昔からあるんですよね」
本人も古い獣人達の噂話に聞いた程度で真偽の程は定かではないと言う。
そもそも耳長者という種自体が半ば伝説のようなものであり、こうした噂や伝え聞いた話程度しか知られていないというところだろう。
「500年前から大陸南東部の離島に住んでるって言うのは?」
「教会の非人狩りから逃れた末にそうなったそうですよ」
「非人狩り?」

「この辺の話は僕よりクワス君の方が詳しいと思いますけど、僕の知ってる範囲内でざっくり説明しますね。
500年前、当時の教皇は大陸から人間以外の種族を絶滅させる非人狩りを始めます。その際に僕たちの先祖である獣人やドワーフは人間に従う事と引き換えに生き延びる事を選びましたが、耳長者は人間と徹底的に戦ったそうです。その戦いで大きく数を減らした耳長者は人間が攻め込むのが難しい離島に落ち延びた……って聞いてます。実際この非人狩りで魚を祖とする獣人である人魚は絶滅したそうです」

アントリは淡々と語っているが、現代人としては背筋のぞわぞわする話だ。
学生の頃に習った【民族浄化】【ジェノサイド】【憎悪犯罪】と言ったワードが脳裏をよぎってくる。
「悪い、キツイこと聞いてしまったか?」
「別にそんな事はないですよ。正直500年も前の話なので当時の凄惨さを生き延びるために従うことを選んだ先祖の辛さを想像は出来ても直接聞く事はできませんし……」
俺達で例えるなら、関ヶ原の合戦の概要について知る事はできてもその時に亡くなった人々の気持ちまでは知ることが出来ないようなものだろうか。
「辛くないならいいんだが、嫌ならハッキリ嫌と言ってくれていいからな?」
「いえ。これもまた僕達獣人の歴史です、それを知ろうとする心意気は尊重すべきだとハルトル宰相殿下も言ってましたから……」
なんとなくアントリにおやつをひとつ多めに分けておくと「ありがとうございます」と微笑んだ。

チェスラフ氏が再び現れたのはそれから半月ほど過ぎた、5月の終わりごろの事だった。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...