194 / 254
15.5:大使館と初夏の映画祭り
15.5-後
しおりを挟む
収穫祭の日は大いに賑やかで華やいだ空気の中にあった。
去年は大規模侵攻の直後でひっそりとしていたから、なおのこと華やかに見えるのだろう。
今年も麦茶・粗品の配布と日本や地球に関する展示という形を取っており、粗品を貰いに来た人から展示を見に来た人まで大いに賑わっていた。
特に今年は家族が地球に留学していたり日本への一時避難を経験した人向けに、留学先となる土地の案内やかつての一時避難先となった栃木県北部のチラシなども用意しておいたのも賑わいの要因のようだった。
しかし最初の年に比べれば人数が多いだけあってかなり楽になっていたのも事実で、多少の息抜きの時間は取ることができたもののそれなりに賑やかな状態ではあった。
「そういえば映画は見に行かないのか?」
木栖のその問いかけでミニ映画祭の手伝いに行かせた深大寺の事をようやっと思い出した。
収穫祭といえどもそろそろ日暮れとなると流石に人手も落ち着き始める。
最初の年でもわざわざ夜に来る人はあまり多くなかったし、嘉神・石薙・納村の3人に任せてしまっても大丈夫な気はしないでもない(夏沢は大使館の警備である)
「嘉神、この後1人でも大丈夫か?」
「深大寺くんの様子見ですね、お気になさらず」
「じゃあ頼んだ」
木栖の方を向くと楽しそうに俺の手を取る。
まるで初めてのデートに行く男子中学生のような明るさだったので、こいつも休憩とったのかと察する。
「じゃあ、映画祭デートと洒落込もうか」
ミニ映画祭はトンネルの建設工事現場と紅忠金羊国支社の2カ所が会場となっており、先にトンネル工事現場の方へ足を伸ばすことにした。
娯楽のあまり多くない金羊国では映画は目新しく、日暮れどきになってもまだまだ人は多く残っていた。
屋外に大型液晶テレビを置いてトンネル工事についての近年の国内外におけるトンネル建設の記録映像を流しつつ最新情報などをパンフレットで補足する形で上映されていて、人々はパイプ椅子に腰をおろし映像という未知の存在に目を見開いていた。
地域の人にトンネル工事への理解を深めてもらうと言う当初の目的に従った形だが、これだけではつまらないと思ったのか同時上映で『黒部の太陽』も上映されておりこちらも多くの衆目を集めているようだった。
だが深大寺は不在だったので紅忠側に行ったのだろうと察すると、俺たちは紅忠側へ向かうことにした。
紅忠側のミニ映画祭会場では、支社の会議室や小型のサーカステントを作りそれぞれのテントで映画の上映が行われていた。
「深大寺もどこにいるんだかな?」
「ローマの休日に黄金狂時代、伊豆の踊り子に釣りバカ日誌、もののけ姫やゴジラまで何でもありだな……」
映画のチョイスは全部イトがしたものだが改めて見ると統一性がない。
言葉がよく分からなくても映像や音楽で楽しめることを条件として出してるので、その辺りは気を遣って選んでるはずだ。
なんとなくで足を踏み入れたのはオペラ座の怪人が上映されているテントだった。
CMで見たことはあったが頭から見るのは初めてだ。
テント内には柔らかい毛皮の敷物と座椅子やビーズクッションがあり、人々は思い思いの場所に座っている。
映写機のそばに深大寺がいたことに気づくとお気になさらずという風に微笑み返され、俺はお前がやらかしてないか見に来たんだけどな……?と言い返したい気持ちになる。
木栖が隅っこの方に使われていないビーズクッションを見つけて腰を下ろすと、「まもなく上映開始します、上映中は明かりが消えますのでご注意ください」と深大寺の声が響いた。
映画が始まると意識は映画へと向けられたが、時折ふと木栖の方を向くと物語に没頭していつもと違う横顔を見せてきた。
真剣でありながらひどく感情移入している様子を見て俺はまだこの男のことを何も知らないのだと思い知らされる。
「どうした?」
ふと木栖が俺にそう聞くので「俺はまだお前を知らなすぎるなと痛感してた」と答える。
「たとえ肉親でも100%知ることなんてきっと出来ないだろうが、知ろうと思ってくれてるならそれでいい」
「お前基本的に俺に甘いよな」
「好きな男にはどうしてもな」
ポツポツ話をしながら見る映画はうまく脳内に収まりきらず、翌日もまた2人で見に行こうと話をした。
仕事と映画の隙間に木栖の横顔が記憶に張り付いたまま収穫祭を終えたのであった。
去年は大規模侵攻の直後でひっそりとしていたから、なおのこと華やかに見えるのだろう。
今年も麦茶・粗品の配布と日本や地球に関する展示という形を取っており、粗品を貰いに来た人から展示を見に来た人まで大いに賑わっていた。
特に今年は家族が地球に留学していたり日本への一時避難を経験した人向けに、留学先となる土地の案内やかつての一時避難先となった栃木県北部のチラシなども用意しておいたのも賑わいの要因のようだった。
しかし最初の年に比べれば人数が多いだけあってかなり楽になっていたのも事実で、多少の息抜きの時間は取ることができたもののそれなりに賑やかな状態ではあった。
「そういえば映画は見に行かないのか?」
木栖のその問いかけでミニ映画祭の手伝いに行かせた深大寺の事をようやっと思い出した。
収穫祭といえどもそろそろ日暮れとなると流石に人手も落ち着き始める。
最初の年でもわざわざ夜に来る人はあまり多くなかったし、嘉神・石薙・納村の3人に任せてしまっても大丈夫な気はしないでもない(夏沢は大使館の警備である)
「嘉神、この後1人でも大丈夫か?」
「深大寺くんの様子見ですね、お気になさらず」
「じゃあ頼んだ」
木栖の方を向くと楽しそうに俺の手を取る。
まるで初めてのデートに行く男子中学生のような明るさだったので、こいつも休憩とったのかと察する。
「じゃあ、映画祭デートと洒落込もうか」
ミニ映画祭はトンネルの建設工事現場と紅忠金羊国支社の2カ所が会場となっており、先にトンネル工事現場の方へ足を伸ばすことにした。
娯楽のあまり多くない金羊国では映画は目新しく、日暮れどきになってもまだまだ人は多く残っていた。
屋外に大型液晶テレビを置いてトンネル工事についての近年の国内外におけるトンネル建設の記録映像を流しつつ最新情報などをパンフレットで補足する形で上映されていて、人々はパイプ椅子に腰をおろし映像という未知の存在に目を見開いていた。
地域の人にトンネル工事への理解を深めてもらうと言う当初の目的に従った形だが、これだけではつまらないと思ったのか同時上映で『黒部の太陽』も上映されておりこちらも多くの衆目を集めているようだった。
だが深大寺は不在だったので紅忠側に行ったのだろうと察すると、俺たちは紅忠側へ向かうことにした。
紅忠側のミニ映画祭会場では、支社の会議室や小型のサーカステントを作りそれぞれのテントで映画の上映が行われていた。
「深大寺もどこにいるんだかな?」
「ローマの休日に黄金狂時代、伊豆の踊り子に釣りバカ日誌、もののけ姫やゴジラまで何でもありだな……」
映画のチョイスは全部イトがしたものだが改めて見ると統一性がない。
言葉がよく分からなくても映像や音楽で楽しめることを条件として出してるので、その辺りは気を遣って選んでるはずだ。
なんとなくで足を踏み入れたのはオペラ座の怪人が上映されているテントだった。
CMで見たことはあったが頭から見るのは初めてだ。
テント内には柔らかい毛皮の敷物と座椅子やビーズクッションがあり、人々は思い思いの場所に座っている。
映写機のそばに深大寺がいたことに気づくとお気になさらずという風に微笑み返され、俺はお前がやらかしてないか見に来たんだけどな……?と言い返したい気持ちになる。
木栖が隅っこの方に使われていないビーズクッションを見つけて腰を下ろすと、「まもなく上映開始します、上映中は明かりが消えますのでご注意ください」と深大寺の声が響いた。
映画が始まると意識は映画へと向けられたが、時折ふと木栖の方を向くと物語に没頭していつもと違う横顔を見せてきた。
真剣でありながらひどく感情移入している様子を見て俺はまだこの男のことを何も知らないのだと思い知らされる。
「どうした?」
ふと木栖が俺にそう聞くので「俺はまだお前を知らなすぎるなと痛感してた」と答える。
「たとえ肉親でも100%知ることなんてきっと出来ないだろうが、知ろうと思ってくれてるならそれでいい」
「お前基本的に俺に甘いよな」
「好きな男にはどうしてもな」
ポツポツ話をしながら見る映画はうまく脳内に収まりきらず、翌日もまた2人で見に行こうと話をした。
仕事と映画の隙間に木栖の横顔が記憶に張り付いたまま収穫祭を終えたのであった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる