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15.5:大使館と初夏の映画祭り

15.5-後

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収穫祭の日は大いに賑やかで華やいだ空気の中にあった。
去年は大規模侵攻の直後でひっそりとしていたから、なおのこと華やかに見えるのだろう。
今年も麦茶・粗品の配布と日本や地球に関する展示という形を取っており、粗品を貰いに来た人から展示を見に来た人まで大いに賑わっていた。
特に今年は家族が地球に留学していたり日本への一時避難を経験した人向けに、留学先となる土地の案内やかつての一時避難先となった栃木県北部のチラシなども用意しておいたのも賑わいの要因のようだった。
しかし最初の年に比べれば人数が多いだけあってかなり楽になっていたのも事実で、多少の息抜きの時間は取ることができたもののそれなりに賑やかな状態ではあった。
「そういえば映画は見に行かないのか?」
木栖のその問いかけでミニ映画祭の手伝いに行かせた深大寺の事をようやっと思い出した。
収穫祭といえどもそろそろ日暮れとなると流石に人手も落ち着き始める。
最初の年でもわざわざ夜に来る人はあまり多くなかったし、嘉神・石薙・納村の3人に任せてしまっても大丈夫な気はしないでもない(夏沢は大使館の警備である)
「嘉神、この後1人でも大丈夫か?」
「深大寺くんの様子見ですね、お気になさらず」
「じゃあ頼んだ」
木栖の方を向くと楽しそうに俺の手を取る。
まるで初めてのデートに行く男子中学生のような明るさだったので、こいつも休憩とったのかと察する。

「じゃあ、映画祭デートと洒落込もうか」

ミニ映画祭はトンネルの建設工事現場と紅忠金羊国支社の2カ所が会場となっており、先にトンネル工事現場の方へ足を伸ばすことにした。
娯楽のあまり多くない金羊国では映画は目新しく、日暮れどきになってもまだまだ人は多く残っていた。
屋外に大型液晶テレビを置いてトンネル工事についての近年の国内外におけるトンネル建設の記録映像を流しつつ最新情報などをパンフレットで補足する形で上映されていて、人々はパイプ椅子に腰をおろし映像という未知の存在に目を見開いていた。
地域の人にトンネル工事への理解を深めてもらうと言う当初の目的に従った形だが、これだけではつまらないと思ったのか同時上映で『黒部の太陽』も上映されておりこちらも多くの衆目を集めているようだった。
だが深大寺は不在だったので紅忠側に行ったのだろうと察すると、俺たちは紅忠側へ向かうことにした。
紅忠側のミニ映画祭会場では、支社の会議室や小型のサーカステントを作りそれぞれのテントで映画の上映が行われていた。
「深大寺もどこにいるんだかな?」
「ローマの休日に黄金狂時代、伊豆の踊り子に釣りバカ日誌、もののけ姫やゴジラまで何でもありだな……」
映画のチョイスは全部イトがしたものだが改めて見ると統一性がない。
言葉がよく分からなくても映像や音楽で楽しめることを条件として出してるので、その辺りは気を遣って選んでるはずだ。
なんとなくで足を踏み入れたのはオペラ座の怪人が上映されているテントだった。
CMで見たことはあったが頭から見るのは初めてだ。
テント内には柔らかい毛皮の敷物と座椅子やビーズクッションがあり、人々は思い思いの場所に座っている。
映写機のそばに深大寺がいたことに気づくとお気になさらずという風に微笑み返され、俺はお前がやらかしてないか見に来たんだけどな……?と言い返したい気持ちになる。
木栖が隅っこの方に使われていないビーズクッションを見つけて腰を下ろすと、「まもなく上映開始します、上映中は明かりが消えますのでご注意ください」と深大寺の声が響いた。
映画が始まると意識は映画へと向けられたが、時折ふと木栖の方を向くと物語に没頭していつもと違う横顔を見せてきた。
真剣でありながらひどく感情移入している様子を見て俺はまだこの男のことを何も知らないのだと思い知らされる。
「どうした?」
ふと木栖が俺にそう聞くので「俺はまだお前を知らなすぎるなと痛感してた」と答える。
「たとえ肉親でも100%知ることなんてきっと出来ないだろうが、知ろうと思ってくれてるならそれでいい」
「お前基本的に俺に甘いよな」
「好きな男にはどうしてもな」
ポツポツ話をしながら見る映画はうまく脳内に収まりきらず、翌日もまた2人で見に行こうと話をした。
仕事と映画の隙間に木栖の横顔が記憶に張り付いたまま収穫祭を終えたのであった。
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