異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
193 / 254
15.5:大使館と初夏の映画祭り

15.5-前

しおりを挟む
俺の誕生日も過ぎた4月の終わり、気温が初夏の陽気へと差し掛かり始めた。
「そういえば今年の収穫祭、トンネル工事現場で映画の上映会やるらしいな」
「ああ、主催は大森組だけど大使館も協力するから俺不在の時間が長くなりそうだからよろしくな」
「それはいいんだが、なんでそんな話になったんだ?」
「それはだな……」

話は3週間ほど前、俺が忌引き休暇を終えて戻ってきた少し後にさかのぼる。
嘉神がある提案書を持ってきた事がきっかけだった。
「深大寺が収穫祭合わせでミニ映画祭?」
「発案は大森組の相模さんらしいんですけど、深大寺くんがミニ映画祭を大使館協力にしてそっちを手伝いたいと……」
収穫祭は例年結構な人が大使館の展示を見に来るのでドジっ子という概念が服を着て歩いてるような深大寺であってもこっちを手伝って欲しいというのが本音だが、元々深大寺の専門は文化交流である。
ある意味一番専門領域であるし、何より超弩級のドジっ子である深大寺なので下手するといない方がスムーズに進む可能性すらある。
「映画上映はあくまで大森組主催なんだろ?」
「はい。映画を通じて今行われている工事について理解を深めてもらうことが開催趣旨なんですが、プラスアルファで地球の文化を知る映画を上映することを深大寺くんが提案たら紅忠の人も乗っかってきたらしくて」
深大寺が作成した提案書はかなり分かりやすく、趣旨としては理解出来るし本人の熱意も感じられた。
「まあ良いんじゃないか?大使館で新しくやる余力はないが、地球への理解を深めるイベントは多いに越したことはないし」
「そうなんですけど、いかんせん深大寺くんですからね」
「やらかさないように俺の方でちょっと観察しとく、大使館の仕切りを任せる事になるかもしれないがイケるか?」
「内容は同じですからね、問題ないかと」
そんな訳で、大森組主催大使館協力のもと金羊国で初めての映画上映会が決まった。
で、この新たな試みには一つ問題もあった。
「上映する映画が決まってない?」
「地球の良さを伝える映画ってことで今必死に頭捻ってるんですけど、何が良いかで悩んでるところです」
深大寺が映画を絞りきれていなかったのである。
「候補はいくらでも出てくるんですけど台詞が分からなくても楽しめることが条件になるので中々絞りきれなくて……無声映画がいいかなとは思うんですけど、ミュージカル映画も捨てきれなくてぇ……ここから10本までに絞り込むのキツすぎて……」
候補映画の一覧を見ると50本くらいはあがっており、無声映画やミュージカルのみならず特撮やパニック映画まで古今東西の名作が揃っている。
「イトに丸投げしたら決まりそうなもんだけどな」
「誰ですか?」
「うちのいとこ。映画が好き過ぎて映画批評ブログやりながら地元で映画館経営してる」
深大寺がその言葉で何かに気づいたように戦々恐々した顔で聞いてきた。
「……もしかしてそのブログ10年以上続いてて『キネマノテンチ』って名前だったりします?」
「たしかそんな名前だったな」
最初に本が出た時に自慢されたから覚えがある。
本自体はもう俺は手放してるが、たぶん沢村の家にはまだ残ってるはずだ。
「地元のテレビ出演とか映画雑誌の寄稿とかしたことあります?」
「あるな。何度か見たことがある」
「最近サメ映画研究家の人とアサイラムのトリセツって本出しました?」
「なんか出したって聞いたな」
母の葬式の後、なんとなく近況の話になって新刊が出たと報告してくれたが謎のサメ映画本でなんだそれと感じたことだけは覚えていた。
「やっぱキネテンのゲンさんだ……何気に有名人じゃないですか……」
「なんかその界隈だと有名らしいな」
「キネテンのゲンさんなら任せられますね、候補案だけお渡しするので選んでもらってきていいですか?」
こうして映画のチョイスはイトへ丸投げされ『なんで私を呼んでくれないのか!』という苦情の手紙と10本の映画上映用データやフィルム、機材とその取扱説明書、さらに上映会ノウハウをまとめたノートまで送ってくれた。
一応フィルムや機材は大使館で借りた事になってるため、深大寺がやらかさないように時々様子見しつつ上映会の準備に勤しんでいる……

「って訳だな」
ひとしきり説明を受けた木栖は「お前の従兄弟まで巻き込んでの上映会は中々豪華じゃないか?」と呟く。
「そうか?」
「せっかくだし、一緒に映画見に行ってみないか?」
「大使館が混まなければな」
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...