192 / 254
15:Daydream Believer
15-10
しおりを挟む
金羊国に戻った時、街は日暮れ時で夕食の匂いがそこかしこからふわりと漂ってきた。
少し肌寒い春の夕暮れの中に香る夕食の匂いにはなんとも言い難い郷愁を感じさせてくる。
(今日の夕飯はなんなんだろうな)
そんなふうに考えながら歩いているとまるで子どもの頃に戻ったようだった。
「真柴、おかえり」
大使館の門前に立って俺に声をかけてきたのは木栖だった。
「おかえり。お前なんでいるんだ?」
「銃火器規制について少し司法宮の方まで話をしに行ってた」
「それでか。ちなみになんだが、飯山さんから今日の夕飯について何か聞いてないか?」
「……今日はお楽しみらしいぞ」
木栖がちょっとイタズラめいた眼差しで俺を見てくるので「なら楽しみにしておくか」とつぶやいた。
***
夕食どき、食堂に入った俺に降り注いだのはクラッカーの音と紙吹雪だった。
「「「「「誕生日おめでとうございます!」」」」」
「……誕生日?」
「大使、今日はこっちの暦で4月27日ですよ」
4月27日、それは確かに俺の誕生日であった。
暦のズレやこのところの多忙もあってすっかり忘れていた。
「お祝いってことで今日はシャリアピンステーキですよ~?」
飯山さんが楽しそうに笑いながら俺を誕生日席へと押し込んでくる。
「この頃大変そうでしたからね、こういう楽しいことがないとやってられないでしょう?」
発案者らしい嘉神がニコニコと笑いながら俺に【本日の主役】タスキなんかかけてくる。
食卓に並ぶのはステーキのみならずなかなかのご馳走の数々であり、今日は少し気合を入れたというのも納得の品揃えだった。
特に目を惹くのはすりおろし玉ねぎと魚醤のソースがかかったステーキである。
ジビエ系の肉はこの地に来てからほとんど毎日ぐらいの勢いで食べてるからわかる、これはジビエ系の肉ではない。この地では滅多に見られないタイプの肉だ。
「……これ、牛肉か?」
「その通りです。最近誕生した第12都市の方で大規模な牧畜が始まったらしくて、今回は運悪く廃牛になった子の肉を購入出来たんですよねぇ」
金羊国ではこれまで牧畜はほとんど行われておらず、冷蔵技術の未発達さもあって生の牛肉や豚肉は流通していない。それだけでこの牛肉の貴重さが伝わるだろう。
「しかも聞いて下さいよぉ、柊木先生とウルヴル魔術官のお陰で冷凍・保冷魔術の習得コストが下がったからもうすぐ第2都市でも流通しやすくなるらしいですよー?」
「そんな事が?」
どうやら俺の知らない間にウルヴル魔術官と柊木先生は冷凍・保冷魔術の低コスト化研究をしていたらしく、学校を通じて普及させた結果冷凍・冷蔵魔術の習得者が増えつつあるらしい。
だから普通に行けば1週間以上かかる第12都市から生の牛肉を持ち込めるようになったというわけだ。
俺が柊木医師の方を見ると気恥ずかしいのか「そういえば今紅忠の佐々さんがドワーフの人に無電源保冷箱の開発を依頼してるそうですよ」と話をあからさまに逸らそうとしてきた。
「日本との関係が出来たことで金羊国も良くなってるんだな」
「その先頭で走って来たのがお前だろ」
木栖が俺の方を見てそう告げる。
その一言で俺のこの3年間が認められたような気持ちが湧き上がる。
金羊国に来たのは俺を忘れた母から逃げるためだったとしても、この一皿が俺の成果だと言うのならばそれは大いなる救いだった。
「冷める前に食べませんか?」という石薙さんの一言で全員が食卓につく。
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
少し肌寒い春の夕暮れの中に香る夕食の匂いにはなんとも言い難い郷愁を感じさせてくる。
(今日の夕飯はなんなんだろうな)
そんなふうに考えながら歩いているとまるで子どもの頃に戻ったようだった。
「真柴、おかえり」
大使館の門前に立って俺に声をかけてきたのは木栖だった。
「おかえり。お前なんでいるんだ?」
「銃火器規制について少し司法宮の方まで話をしに行ってた」
「それでか。ちなみになんだが、飯山さんから今日の夕飯について何か聞いてないか?」
「……今日はお楽しみらしいぞ」
木栖がちょっとイタズラめいた眼差しで俺を見てくるので「なら楽しみにしておくか」とつぶやいた。
***
夕食どき、食堂に入った俺に降り注いだのはクラッカーの音と紙吹雪だった。
「「「「「誕生日おめでとうございます!」」」」」
「……誕生日?」
「大使、今日はこっちの暦で4月27日ですよ」
4月27日、それは確かに俺の誕生日であった。
暦のズレやこのところの多忙もあってすっかり忘れていた。
「お祝いってことで今日はシャリアピンステーキですよ~?」
飯山さんが楽しそうに笑いながら俺を誕生日席へと押し込んでくる。
「この頃大変そうでしたからね、こういう楽しいことがないとやってられないでしょう?」
発案者らしい嘉神がニコニコと笑いながら俺に【本日の主役】タスキなんかかけてくる。
食卓に並ぶのはステーキのみならずなかなかのご馳走の数々であり、今日は少し気合を入れたというのも納得の品揃えだった。
特に目を惹くのはすりおろし玉ねぎと魚醤のソースがかかったステーキである。
ジビエ系の肉はこの地に来てからほとんど毎日ぐらいの勢いで食べてるからわかる、これはジビエ系の肉ではない。この地では滅多に見られないタイプの肉だ。
「……これ、牛肉か?」
「その通りです。最近誕生した第12都市の方で大規模な牧畜が始まったらしくて、今回は運悪く廃牛になった子の肉を購入出来たんですよねぇ」
金羊国ではこれまで牧畜はほとんど行われておらず、冷蔵技術の未発達さもあって生の牛肉や豚肉は流通していない。それだけでこの牛肉の貴重さが伝わるだろう。
「しかも聞いて下さいよぉ、柊木先生とウルヴル魔術官のお陰で冷凍・保冷魔術の習得コストが下がったからもうすぐ第2都市でも流通しやすくなるらしいですよー?」
「そんな事が?」
どうやら俺の知らない間にウルヴル魔術官と柊木先生は冷凍・保冷魔術の低コスト化研究をしていたらしく、学校を通じて普及させた結果冷凍・冷蔵魔術の習得者が増えつつあるらしい。
だから普通に行けば1週間以上かかる第12都市から生の牛肉を持ち込めるようになったというわけだ。
俺が柊木医師の方を見ると気恥ずかしいのか「そういえば今紅忠の佐々さんがドワーフの人に無電源保冷箱の開発を依頼してるそうですよ」と話をあからさまに逸らそうとしてきた。
「日本との関係が出来たことで金羊国も良くなってるんだな」
「その先頭で走って来たのがお前だろ」
木栖が俺の方を見てそう告げる。
その一言で俺のこの3年間が認められたような気持ちが湧き上がる。
金羊国に来たのは俺を忘れた母から逃げるためだったとしても、この一皿が俺の成果だと言うのならばそれは大いなる救いだった。
「冷める前に食べませんか?」という石薙さんの一言で全員が食卓につく。
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる