189 / 254
15:Daydream Believer
15-7
しおりを挟む
思い返すに木栖善泰という男は大使館運営のために再会してからずっと折に触れて『俺はお前が大事だ』と言葉と行動で示し続けて来た男だった。
そんな男は俺を実に繊細に気遣うのだな、と思う。
「真っ当で真面目と評されるのは、嫌か?」
普通ならば褒め言葉とされるその言葉への俺のわずかな嫌悪を読み取った木栖の問いかけに俺は「少しだけ」と答えた。
「真っ当で真面目な奴ほど真っ先に死んでいくからか」
その木栖の言い分には分かるものがある。
正直者が馬鹿を見て、生真面目な奴ほど心を病み、清濁を併せ呑んで吐き気を催す。
俺は霞ヶ関という場所でそんな奴らを何度も見て来たせいか、母の介護のため昇進という道を投げ捨て最後にはその母も施設に置いて行って生き延びてる時点で俺は自分を真っ当とは言い難いと思っている。でも周りはそういう風には見てくれない。
俺が絵に描いた親孝行息子なら、介護しながら結婚も昇進もして孫の顔も見せられて母への恨みも持たずにいられたろうという拗ねた考えが頭を離れないのだ。
「それもあるが、真っ当で真面目と言われれば言われるほど自分から悪いことや義理を欠くようなことをしてはいけない気がしないか?」
「ああ……無意識に周りのイメージに合わせて動くことってあるような気がする」
人は他人から良く見られたいという欲望を抱く。
その欲望は基本的に己を良くすることに活かされるが、時折自分を縛り付けるものとしても作用していた。そうして今の俺は『真っ当で真面目なエリート官僚』としての己に縛られている。
「でもここにはお前をお前としか見ない奴しか居ない」
「そうか?」
「お前という上司に無茶振りされてる嘉神や、お前に好きな昆虫食を制限されてる飯山さんや、お前にやたらと甘い俺とかな。みんなお前をお前という存在としてしか見てないからお前が多少悪い事をしたところでフーンとしか思わないだろ」
まあ流石に犯罪行為は止めるけどな?と冗談混じりで木栖が付け足す。
「ただ1人の実母にひどい悪態ついても?」
「俺はただ1人の実父からホモが治るまで家の敷居を跨ぐなって言われたことに対する恨み言なんて何度もして来たが、未だにバレては無さそうだけどな」
「もう死んでる人間に言っても過去が何も変わりはしないのに?」
「そんなこと生きてる人間相手でも同じだろ?それに死んでる人間は生きてる人に何言われてるかなんて知りようがないし、ましてここは異世界だ。死人が異世界に来る時はトラックに跳ねられるが相場らしいから、普通に死んだ人間ならこちらに来る方法はないだろうよ」
木栖のバッサリとした答えは聞いていて爽快だった。
俺の母への恨みも、その恨み言を言えない俺自身の弱さも、木栖はさらりと肯定してみせた。
「どうしても人に言いたくないなら、地面に穴掘って叫べばいい。流石に異世界の植物でもお前の叫び声を日本まで拡散する能力は無かろう」
木栖の言葉が気持ちを軽くしてくれる。
この世界にいる人は良い子で真面目な一人息子としての俺を誰も求めていないから何を言っても気にはしない。
そう言ってくれるだけで心が少し軽くなる感じがした。
そんな男は俺を実に繊細に気遣うのだな、と思う。
「真っ当で真面目と評されるのは、嫌か?」
普通ならば褒め言葉とされるその言葉への俺のわずかな嫌悪を読み取った木栖の問いかけに俺は「少しだけ」と答えた。
「真っ当で真面目な奴ほど真っ先に死んでいくからか」
その木栖の言い分には分かるものがある。
正直者が馬鹿を見て、生真面目な奴ほど心を病み、清濁を併せ呑んで吐き気を催す。
俺は霞ヶ関という場所でそんな奴らを何度も見て来たせいか、母の介護のため昇進という道を投げ捨て最後にはその母も施設に置いて行って生き延びてる時点で俺は自分を真っ当とは言い難いと思っている。でも周りはそういう風には見てくれない。
俺が絵に描いた親孝行息子なら、介護しながら結婚も昇進もして孫の顔も見せられて母への恨みも持たずにいられたろうという拗ねた考えが頭を離れないのだ。
「それもあるが、真っ当で真面目と言われれば言われるほど自分から悪いことや義理を欠くようなことをしてはいけない気がしないか?」
「ああ……無意識に周りのイメージに合わせて動くことってあるような気がする」
人は他人から良く見られたいという欲望を抱く。
その欲望は基本的に己を良くすることに活かされるが、時折自分を縛り付けるものとしても作用していた。そうして今の俺は『真っ当で真面目なエリート官僚』としての己に縛られている。
「でもここにはお前をお前としか見ない奴しか居ない」
「そうか?」
「お前という上司に無茶振りされてる嘉神や、お前に好きな昆虫食を制限されてる飯山さんや、お前にやたらと甘い俺とかな。みんなお前をお前という存在としてしか見てないからお前が多少悪い事をしたところでフーンとしか思わないだろ」
まあ流石に犯罪行為は止めるけどな?と冗談混じりで木栖が付け足す。
「ただ1人の実母にひどい悪態ついても?」
「俺はただ1人の実父からホモが治るまで家の敷居を跨ぐなって言われたことに対する恨み言なんて何度もして来たが、未だにバレては無さそうだけどな」
「もう死んでる人間に言っても過去が何も変わりはしないのに?」
「そんなこと生きてる人間相手でも同じだろ?それに死んでる人間は生きてる人に何言われてるかなんて知りようがないし、ましてここは異世界だ。死人が異世界に来る時はトラックに跳ねられるが相場らしいから、普通に死んだ人間ならこちらに来る方法はないだろうよ」
木栖のバッサリとした答えは聞いていて爽快だった。
俺の母への恨みも、その恨み言を言えない俺自身の弱さも、木栖はさらりと肯定してみせた。
「どうしても人に言いたくないなら、地面に穴掘って叫べばいい。流石に異世界の植物でもお前の叫び声を日本まで拡散する能力は無かろう」
木栖の言葉が気持ちを軽くしてくれる。
この世界にいる人は良い子で真面目な一人息子としての俺を誰も求めていないから何を言っても気にはしない。
そう言ってくれるだけで心が少し軽くなる感じがした。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる