異世界大使館はじめます

あかべこ

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14:大使館は春を待つ

14-15

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ファンナル隊長が見本になり木栖が軽く背中や腕にサポ―トを出しながら解説を始めてくる。
「足を肩幅かやや大きめに開き、両腕を前へ押し出し軽く自然な前傾姿勢を取る。これがアイソセレススタンスだ。
足を前後に肩幅かやや大きめに開いて利き手の反対の足を後ろに引き、対象から身体を斜めに向けるように立ち、利き腕を伸ばし逆の腕は曲げる。これがウィーバースタンス。
両方試して自分に合う方を使って欲しい。どちらもあわなかった場合相談してほしい」
全員に銃を支給すると構えの姿勢の練習に入る。
時々木栖やファンナル隊長に姿勢を修正されながらも全員が自分の立ち姿勢を検討に入り、30分もするとそれぞれ自分の納得する射撃姿勢に入る。
「ここからはペイント弾を使った実射訓練に入る、弾の入れ方は全員覚えたな?」
「「「「はい!」」」」
全員がファンナル隊長の指示のもとまずは全員がイヤマフをつける。
犬耳やうさ耳の人はイヤマフの代わりに耳栓を入れ、耳が見当たらない人などは耳の穴に当たる部分にイヤマフをあてるため斜めにつけていた。
一部の鳥類は耳の穴が左右違う場所についているそうなので恐らくそれに対応してだろう。
「構え!」
ハルトル隊長の指示で各々使いやすい準備姿勢を取ると「撃て!」という指示と共に大きな破裂音が響いた。
ペイント弾でも思ったより大きな破裂音がするのだと驚いていたらハルトル宰相は俺よりも衝撃的な顔をして「この音だけで逃げる人いそうですね……」とつぶやいた。
確かに銃火器類に不慣れなこの世界の人々には音だけでも威嚇効果はあるように思える。
「日本でも拳銃による威嚇はありますからね」
「拳銃は威嚇用でも十分かもしれませんね」
そう話す俺とハルトル宰相の横で「威嚇のみで使うのは少々もったいないように思いますがね」とつぶやくのはウルヴル魔術官だ。
「西の国からの侵攻時に銃の威力は何度となく見ている身としては俺も欲しいぐらいです」
そんな話をしているとファンナル隊長が言葉を足す。
「今日は屋根の下で行っているが実際には今日のような雪の降りしきる中、一瞬でこの銃を抜き・構え・撃たねばならない瞬間が来る。今日はこの構えから撃つまでの流れを身体に染み込ませることを目標とする」
ファンナル隊長がそう告げると「「「「はい!」」」という返事の大合唱が再び響いた。
寒さも体の芯まで染み込んできたが俺はいつ帰ればいいのだろうと考えていると、隣にいたハルトル宰相が口を開く。
「ファンナル隊長、僕とウルヴル魔術官は次の仕事がありますので」
それに便乗するように「では俺も」と言葉を継ぎ足す。
木栖はファンナル隊長に後を任せて別チームの様子を見に行くと言うので、俺はハルトル宰相と共に堆積させてもらうことにした。
射撃場の外もしんとした冷え込みが続く。
「真柴大使、長らく木栖駐在武官をお借りして申し訳ありません」
「いえ、あれも本人の仕事ですからね」
「本当は日本側の手を借りることなく国防隊を回せればいいのでしょうが僕らはまだまだ未熟ですからね」
「……いいんですよ。俺たち日本大使館はその恩をちゃんと返してくれると信じていますので」
恩を仇で返す様な事をする連中はいくらでもいるが、少なくともハルトル宰相が生きているうちは恩を借りパクして逃げるようには思えなかった。
「しっかりと御恩は返させていただきますので」
「はい」
そんな話をしていると黒猫の少女が走ってきた。
「ハルトル宰相!」
「ああ、どうしたの?」
「大森林に行ったら春香の花が咲いてたからおすそわけ!」
そう言って差し出された枝をハルトル宰相が嬉しそうに受け取る。
宰相に手渡された花は沈丁花に似た香りと黄梅に似た黄色い花を咲かせており、香りをすっと嗅ぐと「もうすぐ春ですね」とつぶやく。
もう少ししたらこの街も春になるらしい。
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