異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
177 / 254
14:大使館は春を待つ

14-10

しおりを挟む
木栖との夜の散歩の後もなんとなく夜の散歩を続けていたせいか、なんとなく調子が悪いなとは思っていた。
「発熱とのどの腫れが確認されましたので本日は出勤不可です」
朝の健康観察のおりにそう告げたのは柊木医師であった。
なんとなく体調が悪いぐらいではあったが、職員に身体的異常があった場合大使館は原則出勤禁止になる。これは日本で認知されていない菌やウィルス由来の感染症を防ぐ目的なので仕方がない。
「検査用の検体取ったら寮に戻ってもらって、発熱が治るまで出勤停止になります。大使館の他の人とも極力顔を合わせないようにしてください。どうしても必要な時はマスク着用でお願いします。
あと家庭用の風邪薬とのど飴をいったんお渡ししておきますね、ちゃんとした処方薬は今夜にでもお出しします」
その指示に従ってマスクをつけて手指消毒をしてから部屋に戻って布団に潜ると、なんとなく罪悪感が湧いてくる。
みんなが必死で仕事してる時に何してるのかと言われたら反論できない気がするが、そもそもここは異世界で日本人の知らない感染症があってもおかしくないのだからうつさないためにも休むべき時ではあるのだ。
それに嘉神や木栖に心配をかけてしまってるがこれも回り回ってみんなのためではある。
(でも、風邪で休みなんて子供の時以来だな)
大人になってから滅多に風邪なんかひかなくなったし、ひいたとしても休めた試しがない。
抱えている仕事と責任感が風邪ごときで休むなと騒ぎ出すのだから仕方ない。
飯山さんが拵えた茶碗蒸しを食べて風邪薬を飲みこむ。
(子どものときは、どうしていたっけ)
出勤前の母と一緒に近所の病院に行って風邪薬を貰い、叔母が仕事をしながら俺の面倒を見てくれていた。
針仕事特有の糸をしごく音を聞きながらうつらうつらと眠りに就く。
それで夜になると母が煮ぼうとう(※埼玉北部の郷土料理、太めの麺を根菜と出汁で煮込んだ醤油味の麺類)を作ってくれて……。
『真柴』
その瞬間が、脳裏に再生されたのは煮ぼうとうを持っていたのが母でなく木栖にすり替わる。
熱で脳がおかしくなってるせいで色んなものがごちゃごちゃになっている。
「……寝よう」
無理やり布団にもぐりこんで目を閉じた。

****

遠くからノックの音がする。
「真柴大使、柊木です」
「どうぞ」
失礼しますと言いながらマスクをした柊木医師がやってくる。
「検査結果出ました、アデノウィルスの風邪で確定です。地球でもよくある風邪のウィルスなので普通の風邪薬で治るタイプと考えてます。一応完治2~3日後もマスク着用と1週間の日本への渡航禁止をお願いする形になりますがよろしいですか?」
未知のウィルスでないことにほんの少しの安堵を抱きながら頷くと柊木医師がお盆を俺の前に置く。
「お昼ごはんとお薬です」
用意された角切り野菜の入ったパン粥は思ったよりも色味が鮮やかでちょっと美味しそうに見える。
口をつけてみると小麦と野菜の甘味が優しく広がって思っていたよりもうまい。
「大使、余計なお世話を承知で聞きますけど……最近何かありました?」
柊木医師の言葉にどきりと手が止まった。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...