異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
173 / 258
14:大使館は春を待つ

14-6

しおりを挟む
久しぶりに北の国から連絡が来た。
送り主はアネッテ・ディ・シェーベイル宰相補佐官、ハルトル宰相誘拐騒動の時に知り合った女性である。
伝書鳩に餌と水を与えている間に手紙を受け取って開くと、昨今の石油の輸出状況についての近況の話が語られる。
黒油の湧出で畑作出来なくなった地域の人々は少額でも金が入っている事でなんとかこの冬を乗り越える足しに出来ており、黒油の輸出をしてない土地に比べて輸出をしている土地の方が2割程度死者が少ないと言う。
来年以降もこの黒油交易による外貨と食料確保を目指して黒油交易に賛成する領主を増やそうと目論んでいるらしいが、異世界との交易についてはまだ国内から偏見の目が向けられており大規模な交易に繋げるために協力して欲しいという相談であった。
北の国の王家も黒油の湧出で自国の農業が大打撃を受けている以上国民の食糧供給のための外貨獲得は必須である、という見解を見せており異世界人との交易は続けたいという考えらしい。
確か地球でも異世界産原油の輸入によりガソリン価格が下がり始めており、しかも最近天然ガスの存在も確認されだ事を紅忠の河内支社長から聞いている。
天然ガスを液化したLNGは石油よりも二酸化炭素排出量が少ないとされ、人気の高いエネルギー資源であり国としても確保しておきたい代物ではある。
しかし内容が内容だけに俺1人で決められる事ではない。
(……これは日本で要相談だな)
あと、北の国と日本での貿易を活発化させるなら挟まれる金羊国側も巻きこむ必要もある。
とりあえず手紙の返事として周りに伝えておくとのみ書いて鳩の足につけて飛ばした。

****

ハルトル宰相に会えないかと政経宮に向かうと、簡単な手荷物検査の後に会うことが出来た。
10分ほどお茶を飲みながら待っていると「お久しぶりですね」と言いながらやって来た。
「むしろ突然来て会えるだけ有難い限りです」
地球なら国のトップ相手に約束も無くフラッと来て会えるものでもないことを思えば、これで会えるのが奇跡と言っても良い。
早速北の国からの手紙を渡して読んでもらうと「なるほど」とつぶやく。
「ここに僕らも噛ませてもらえるんですね?」
「と言うより金羊国に日本とのトンネルがなければ不可能な交易ですからね、お話だけでもしておくべきかと」
「この場合の問題となるとやっぱり道ですよね……現状道の整備はあまり出来てませんし」
金羊国は道の整備が遅れているので現時点でも物流上のネックになっている事は紅忠側から聞いていた。
国際支援という形での整備も出来なくはないが大陸の他地域と整備に差がつき過ぎても良くないし、それに交易品目が石油と天然ガスのみならパイプラインと言う手もあるので検討中と言う状態である。
「その辺りはまだ検討段階でいいと思います、道の整備はどう頑張ってもすぐできるものでは無いですから」
「ですね。あとはこれで僕らがどの程度の益が認められるか、北の国からの入国規制解除もしていくかも検討しておく必要がありますね」
ハルトル宰相の言う僕らというのは金羊国の国民全体の事であり、私腹を肥やすことなく国民を食わせていく必要性を理解した発言は実に好ましく思う。
入国規制の件はハルトル宰相の誘拐事件の事で金羊国は北の国からの人間の入国規制をかけていた事が絡むのだろう、まあこれは国防だけでなくあの件に関わった周囲の心情も勘案する必要があるからすぐに答えはでるまい。
「そういうことです。ご協力お願いします」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...