171 / 254
14:大使館は春を待つ
14-4
しおりを挟む
工事関係者向け魔術講習会は主に地球から派遣された技術者を対象にこの世界における魔術の基礎理論を一通り理解してもらうことを目的として不定期に行われる。
相模さん以外は魔術を使うための適正がないとされているので、あくまでも工事を円滑にするために基本的な理屈を知ることに主眼が置かれており、過去には大使館の柊木医師や政経宮のウルヴル魔術官を講師に招くこともあった。
ヴィクトワール上級魔術官は今回講師として招かれているらしい。
会場は工事事務所の一番大きな会議室、そこに長机を並べて一番前にはホワイトボードと机、あと謎の模型が数点準備されている。
そして講師役のヴィクトワール上級魔術官の横には納村もいる。
「なんでいるんだあいつ……」
そう呟くと相模さんが「通訳ですね」と補足してくれる。
ヴィクトワール上級魔術官は日本語の勉強はしているもののまだ幼稚園児レベルと聞いている、専門性の高い話をするなら母語である大陸標準語でせざる得ないから通訳は必須か。
「今回の講習会のテーマはずばり【地球と金羊国のつなぎ方】だ」
大陸標準語でそう書きこんでくる。
「これはこっちの最新理論でちょっと難しい内容になる。できる限りかみ砕いて説明するつもりだが理解できなくても恥ずかしくない、実際理解できない奴は沢山いるしな。
明確に分からなくても気にしないでほしい」
そう前置きすると最初に出してきたのは糸を縦横無尽に張り巡らせた箱だった。
(*作者注:実物はもっと複雑なものですが簡略化してます)
ティッシュ箱のなかに白い糸が縦横無尽に張り巡らされており、その中に一本だけ赤い糸と青い糸が張られている。
「これは基礎理論における世界と世界の関係を表した模型だ、赤い糸が金羊国を含むこの世界で青い糸が日本を含む世界、白い糸はそれ以外に存在する無数の世界だと考えてほしい」
それを見た時、俺は昔新聞で見た現代アート作家のインスタレーション作品を連想した。
確かそれは一つの大きな部屋に赤い糸を縦横無尽に張り巡らせたものだ。
「私達赤い糸の住人はこの赤い糸と接点を持つ世界を観察・つなぐことが出来る、それによって私たちはつながることのできる世界があらかじめ限定されているんだ。基本的に世界と世界を示す糸の接点は1つ、つまり地球と金羊国をつなぐ点は1か所だけになる。この考え方を箱糸理論と呼ぶ。
この糸と糸の接点を実際の地球と金羊国の地図に落とし込むと、点の中心はあの上野の廃駅跡と第一都市の教会地下になり、その点を中心とした半径62ミルの円の内部にのみ通路を新たに作り直せる」
納村が事前に準備しておいた地図をホワイトボードに張り出すと、上野を中心に半径62ミル(約100キロ)の円が引かれている。地図上では北限は宇都宮・南限は沼津辺りになる。
理屈上はこの円の中であれば金羊国に繋がる通路は作れる訳だが、実際作るとなると地理的条件や地域住民の理解などを勘案して決めることになる。
「そうして選ばれたのが成田であり、この工事現場一帯だ。次はこの工事の前に行う魔術的処置だ」
取り出したのは2枚の紙で、2枚の紙の表面には棒人形が立っている。
「この2枚の紙はぺたりと隣り合う状態にあり、前後左右にずれることがある。これはさっきの糸が風になびいたり揺れたりすると接点がほんのわずかにずれるようなイメージを持つとわかりやすいと思う。
で異世界に向かうトンネルを作ろうと考えたエイン魔術官は、とりあえず2つの世界を貫通させる穴を作ろうと考え、自分が生み出せる限界まで作り出した質量を極小の点に向かって勢いよくぶつけた」
すると先の尖ったペンで紙を突き刺した。
ペンを引き抜くと紙の中心には歪な丸が生まれる。
「この歪な穴が今使われてる通路だ、今使ってる通路って道が悪いし歩いてるだけで酔うだろ?それはこの開け方に原因があると思ってる」
通るだけで酔う道に覚えがあるスタッフも多いようでなるほどとか思い出してげんなりする者もいた。
「じゃあここから新しく綺麗な道を作ろう」
相模さん以外は魔術を使うための適正がないとされているので、あくまでも工事を円滑にするために基本的な理屈を知ることに主眼が置かれており、過去には大使館の柊木医師や政経宮のウルヴル魔術官を講師に招くこともあった。
ヴィクトワール上級魔術官は今回講師として招かれているらしい。
会場は工事事務所の一番大きな会議室、そこに長机を並べて一番前にはホワイトボードと机、あと謎の模型が数点準備されている。
そして講師役のヴィクトワール上級魔術官の横には納村もいる。
「なんでいるんだあいつ……」
そう呟くと相模さんが「通訳ですね」と補足してくれる。
ヴィクトワール上級魔術官は日本語の勉強はしているもののまだ幼稚園児レベルと聞いている、専門性の高い話をするなら母語である大陸標準語でせざる得ないから通訳は必須か。
「今回の講習会のテーマはずばり【地球と金羊国のつなぎ方】だ」
大陸標準語でそう書きこんでくる。
「これはこっちの最新理論でちょっと難しい内容になる。できる限りかみ砕いて説明するつもりだが理解できなくても恥ずかしくない、実際理解できない奴は沢山いるしな。
明確に分からなくても気にしないでほしい」
そう前置きすると最初に出してきたのは糸を縦横無尽に張り巡らせた箱だった。
(*作者注:実物はもっと複雑なものですが簡略化してます)
ティッシュ箱のなかに白い糸が縦横無尽に張り巡らされており、その中に一本だけ赤い糸と青い糸が張られている。
「これは基礎理論における世界と世界の関係を表した模型だ、赤い糸が金羊国を含むこの世界で青い糸が日本を含む世界、白い糸はそれ以外に存在する無数の世界だと考えてほしい」
それを見た時、俺は昔新聞で見た現代アート作家のインスタレーション作品を連想した。
確かそれは一つの大きな部屋に赤い糸を縦横無尽に張り巡らせたものだ。
「私達赤い糸の住人はこの赤い糸と接点を持つ世界を観察・つなぐことが出来る、それによって私たちはつながることのできる世界があらかじめ限定されているんだ。基本的に世界と世界を示す糸の接点は1つ、つまり地球と金羊国をつなぐ点は1か所だけになる。この考え方を箱糸理論と呼ぶ。
この糸と糸の接点を実際の地球と金羊国の地図に落とし込むと、点の中心はあの上野の廃駅跡と第一都市の教会地下になり、その点を中心とした半径62ミルの円の内部にのみ通路を新たに作り直せる」
納村が事前に準備しておいた地図をホワイトボードに張り出すと、上野を中心に半径62ミル(約100キロ)の円が引かれている。地図上では北限は宇都宮・南限は沼津辺りになる。
理屈上はこの円の中であれば金羊国に繋がる通路は作れる訳だが、実際作るとなると地理的条件や地域住民の理解などを勘案して決めることになる。
「そうして選ばれたのが成田であり、この工事現場一帯だ。次はこの工事の前に行う魔術的処置だ」
取り出したのは2枚の紙で、2枚の紙の表面には棒人形が立っている。
「この2枚の紙はぺたりと隣り合う状態にあり、前後左右にずれることがある。これはさっきの糸が風になびいたり揺れたりすると接点がほんのわずかにずれるようなイメージを持つとわかりやすいと思う。
で異世界に向かうトンネルを作ろうと考えたエイン魔術官は、とりあえず2つの世界を貫通させる穴を作ろうと考え、自分が生み出せる限界まで作り出した質量を極小の点に向かって勢いよくぶつけた」
すると先の尖ったペンで紙を突き刺した。
ペンを引き抜くと紙の中心には歪な丸が生まれる。
「この歪な穴が今使われてる通路だ、今使ってる通路って道が悪いし歩いてるだけで酔うだろ?それはこの開け方に原因があると思ってる」
通るだけで酔う道に覚えがあるスタッフも多いようでなるほどとか思い出してげんなりする者もいた。
「じゃあここから新しく綺麗な道を作ろう」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・
今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。
その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。
皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。
刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

農民の少年は混沌竜と契約しました
アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた
少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された
これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる