異世界大使館はじめます

あかべこ

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14:大使館は春を待つ

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「と言う訳で、大使館としても防疫の観点から金羊国への移動後は洗浄をお願いしたいのですが」
先日環境省から来ていた大型重機持ち込みに伴う洗浄の話をするため俺はトンネル工事の事務所へ足を運んでいた。
俺の言葉を聞くとこの件の担当である相模さんは小さな体を丸めて悩みこんでしまう。
「分かってはいるんですけど洗浄にかかるコストがシャレにならないんですよね……金羊国専用にするにも完成後どのくらい使うか不明瞭なので新しく購入しても減価償却できるか……」
「承知の上でお願いに上がってるんですが」
この件のネックは重機の維持・管理コストだ。
そもそも工事を早く進めるためにある程度重機を導入することは最初から決めており、金羊国には重機の交換部品や修理業者がいない事ので取り寄せか日本へ運んでの修理となることは事前に想定済だった。
しかしそこに防疫のための洗浄コストが追加されることになったことで大森組側の予算を超えてしまったのだ。
「でも防疫上そうしないとダメなんですよね?」
「そうですね。金羊国にはまだ日本で未確認の菌やウィルスがいることは確認されてますがそれが人体に及ぼす影響まではまだ調査されていませんから、万が一問題が起きれば御社の責任にもなり得ます」
「ですよね」
どうしようという風に頭を抱える相模さんを見て少々可哀想にも見えるが、これは下手すると地球全体を巻き込んだ問題にもなりうるので頑張ってもらうしかない。
低コストで防疫のための洗浄を行うためにどうすべきか必死で頭をひねる相模さんを眺めながらハーブティーをちびりとすする。
この件については大森組本社にも通告済みだが、解決策をひねり出すのは現場である相模さんだ。俺にはどうすることもできない。
「瑠璃ー」
突然後ろから相模さんをあすなろ抱きしてきたのはヴィクトワール上級魔術官である。
どこか疲れ気味な様子のヴィクトワール上級魔術官を見るのは初めてだが、相模さんは「うん」と空返事をした。
その様子を見て異変に気付くと俺のほうを見て「……瑠璃は何悩んでるんだ?」と聞いてくる。
事情を説明すると「そんなの簡単だろ」とつぶやくと相模さんの額に指をあててしゃべりだした。
「要はいちいち桶で水を汲んでたわしでこするとかそういう事しないで済むようにしたいんだろ?そのために魔術があるんだろうよ」
「この現場で魔術使えるの私だけなのに?」
「私もいるよ。それに機材の改良は私も一枚嚙んでるから部品を作って簡単な修理もできる」
そうだった、このヴィクトワール・クライフという魔術官はやたらと頭が良いので金羊国で使う重機の改良にも参画しているんだった。
「こき使っていいの?」
「瑠璃のお願いなら特別にこき使われてあげよう」
にやりと笑うその表情は若干の腹黒さを感じさせるが「じゃあこき使わせてもらうわ」と返してくる相模さんも大概強いと思う。この魔女のあしらい方を覚えたんだろう。
俺はそろそろお暇させてもらおうかと思ったその時だった。

「そうだ、この後工事関係者向けの魔術講習会やるんだけど出る?」

……工事関係者向け魔術講習会?
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