168 / 254
14:大使館は春を待つ
14-1
しおりを挟む
「これ、お土産です」
大使館再始動の日、納村が突然渡してきたのは福井名物羽二重餅だった。
さっき朝食を食べたばかりで今渡されても胃袋に入らないんだがな?
「なんで?」
「いやほら、去年の夏に大使と木栖さんが呼びだされた後お土産くれたじゃないですか。そのお礼です」
「あれは心配かけて悪かったのお土産だったんだが……今回お土産持ってきてないのに悪いな」
こうして貰うことがわかっていたら俺も神戸か地元のお菓子でも用意していたのだが、今の俺にそんな持ち合わせはない事を伝えると「お気になさらず」と納村が答える。
おやつに食べようと思ってとりあえずポケットに入れておくと「あ、木栖さんもお土産の羽二重餅どうぞ」と木栖と夏沢に羽二重餅を渡してきた。
そのまま夏沢と納村は土産話に花を咲かせ始めたので、木栖はそっと離脱して俺の横についてきた。
「ひさしぶり」
「ああ、そっちはどうだった?」
「問題なく終わった、あとお前神戸行ってたんだな」
「親戚関係で分かった事があったんでその話をしにな。地獄谷の猿の写真、ありがとうな」
木栖が休暇中の戯れに温泉に浸かる猿の写真を寄こしてきたので、俺も有馬の宿近くで取った写真を送ったのだ。
まああんな写真を遊びで寄こせるのだし元恋人との話がこじれることなく綺麗に片付いたようで思ったものだ。
休暇中の事をどの程度話そうか、と一瞬沈黙が通り過ぎていく。
「あ、木栖さんこの後ファンナルのとこ行きます?」
その沈黙をぶち壊したのは納村だった。
「行くつもりだったが何か用事が?」
「顔見に行きがてら渡したいものがあったんで」
納村とファンナル隊長の関係を知っている身としては微妙に割り込みにくいものがあるが、そもそもそれ仕事なのか?と聞きたい気もする。
「なら俺のほうで預かるか?」
木栖の表情がほんの僅かにからかい交じりのものになる。
たぶん納村の言う渡したいものの中身にあてがあるんだろう。
「あ~いいですいいです、夜にでも行くんで」
「わかった」
そう言って納村が去っていく。
「やっぱりチョコレートかな」
木栖がそう呟くので「そうか、バレンタイン」と言葉が漏れる。
ちょうど俺たちの休暇中に日本ではバレンタインがあり、納村もそのタイミングでついチョコレートを買っていたのかもしれない。
「じゃあこの羽二重餅はフェイク?」
「かもな、まあ羽二重餅に罪はないからいいけどな」
そういう事かと分かればやれやれという気分になる。
別に納村の行動に罪はないが俺の気遣いは何だったんだという気はしないでもない。
「来年以降お土産禁止にすればいいんじゃないか?」
「でもまあ気遣いの範疇だしな。法律の範囲内でお互い強制しないなら好きにすればいいとしか」
とりあえず昼にでもそういう話しておくかと呟きながら、それを新しい仕事の日々の始まりとした。
大使館再始動の日、納村が突然渡してきたのは福井名物羽二重餅だった。
さっき朝食を食べたばかりで今渡されても胃袋に入らないんだがな?
「なんで?」
「いやほら、去年の夏に大使と木栖さんが呼びだされた後お土産くれたじゃないですか。そのお礼です」
「あれは心配かけて悪かったのお土産だったんだが……今回お土産持ってきてないのに悪いな」
こうして貰うことがわかっていたら俺も神戸か地元のお菓子でも用意していたのだが、今の俺にそんな持ち合わせはない事を伝えると「お気になさらず」と納村が答える。
おやつに食べようと思ってとりあえずポケットに入れておくと「あ、木栖さんもお土産の羽二重餅どうぞ」と木栖と夏沢に羽二重餅を渡してきた。
そのまま夏沢と納村は土産話に花を咲かせ始めたので、木栖はそっと離脱して俺の横についてきた。
「ひさしぶり」
「ああ、そっちはどうだった?」
「問題なく終わった、あとお前神戸行ってたんだな」
「親戚関係で分かった事があったんでその話をしにな。地獄谷の猿の写真、ありがとうな」
木栖が休暇中の戯れに温泉に浸かる猿の写真を寄こしてきたので、俺も有馬の宿近くで取った写真を送ったのだ。
まああんな写真を遊びで寄こせるのだし元恋人との話がこじれることなく綺麗に片付いたようで思ったものだ。
休暇中の事をどの程度話そうか、と一瞬沈黙が通り過ぎていく。
「あ、木栖さんこの後ファンナルのとこ行きます?」
その沈黙をぶち壊したのは納村だった。
「行くつもりだったが何か用事が?」
「顔見に行きがてら渡したいものがあったんで」
納村とファンナル隊長の関係を知っている身としては微妙に割り込みにくいものがあるが、そもそもそれ仕事なのか?と聞きたい気もする。
「なら俺のほうで預かるか?」
木栖の表情がほんの僅かにからかい交じりのものになる。
たぶん納村の言う渡したいものの中身にあてがあるんだろう。
「あ~いいですいいです、夜にでも行くんで」
「わかった」
そう言って納村が去っていく。
「やっぱりチョコレートかな」
木栖がそう呟くので「そうか、バレンタイン」と言葉が漏れる。
ちょうど俺たちの休暇中に日本ではバレンタインがあり、納村もそのタイミングでついチョコレートを買っていたのかもしれない。
「じゃあこの羽二重餅はフェイク?」
「かもな、まあ羽二重餅に罪はないからいいけどな」
そういう事かと分かればやれやれという気分になる。
別に納村の行動に罪はないが俺の気遣いは何だったんだという気はしないでもない。
「来年以降お土産禁止にすればいいんじゃないか?」
「でもまあ気遣いの範疇だしな。法律の範囲内でお互い強制しないなら好きにすればいいとしか」
とりあえず昼にでもそういう話しておくかと呟きながら、それを新しい仕事の日々の始まりとした。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・
今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。
その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。
皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。
刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる