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あかべこ

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13:真柴春彦の冬休み

13-14

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「春彦君お久しぶり」
久しぶりに再会した叔母は台所で早めの夕食の準備をしていた。
匂いから察するにどうやら今日はカレーらしい。
「久しぶりです、あとこれお土産です」
「ケーニヒスクローネのはちみつアルテナ!これ好きなのよねー!」
イトが神戸に行くなら母さんの好きなケーキをと言われていたがこれで合っていたらしい。
ついでに叔父さんの分として購入した日本酒の飲み比べセットも渡すと「お土産こんなにたくさん用意してもらって悪いわね」と答えてくれる。
「しばらく世話になる訳ですからね、そういえば叔父さんは?」
「あの人は仕事、帰りたぶん夜になるんじゃない?」
沢村の叔父は高校の国語教師だが、年齢的にはもう定年しているはずだ。
まだこの家には大学生の叶がいるので生活費のためにまだ仕事しているのだろうか?
「仕事ですか」
「春彦君はたぶん知らないと思うんだけどちょっと前から学習塾のバイトしてるのよ、たぶん9時ぐらいには戻ってくるわよ。あの人に何か話でもあった?」
「いえ、大したことではないんですが……俺って父と母どっちに似てます?」
変なことを聞いている自覚はあったが叔母さんは「そうねえ」とつぶやいてからまじまじと俺を見る。
「顔は私とか姉さんのほうが似てると思うけど、声は政広さんのほうが似てるわね」
「それ性別のせいじゃ?」
「うちの男どもは春彦君ほど歌上手くないもの、死んだお父さんなんか酷かったじゃない」
叔母の言うところの死んだお父さんというのは母と叔母から見ての父、つまり俺の母方の祖父の事である。
酔うと上機嫌に歌いだす癖があったが音程の取り方が下手だった記憶がある。
「死んだ父から歌の上手さだけ引き継いだ感じですかね」
「それ以外に似てるとこあると思うけど、私よりあの人に聞く方が早いわね」
「叔父さんが帰ったら聞いてみます」
荷物を持って客間に足を向けると折り畳みベッドが開いた状態で置かれている。
昔から母の帰りが遅い日などはよくこの家で過ごしていて、この布団で何度も眠ったのでここはもう一つの家といっていい。
(……疲れた)
父方の事と言い母の事といい、今回の帰省はいろんなことがあり過ぎたせいで疲れてしまった。
分からなかったことが明かされて気づけずにいた事を理解しても俺の人生は楽にならない、そんな当たり前のことを痛感しただけだったように思う。
こういう時に横に誰かいてくれればいいと思うから人は誰かしらの伴侶を欲するんだろう。
俺にとっては今までそれは母だった、じゃあ今の俺は誰を伴侶にしたらいいのだろう?
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