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13:真柴春彦の冬休み
13-12
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神戸空港から茨城空港に降り立つと、思ったより小規模で何もない印象を受けた。
まあ地方の小規模空港となるとこんなものなのかもしれないがある意味ではありがたい。
「春兄、こっち」
遠くから手を振るのは俺の4人いる従兄弟の最年長である沢村絃子だ。
膝まで覆うようなトレンチコートに身を包み、髪の一部を鮮やかな赤に染め上げた長い髪をざっくばらんにまとめた化粧っ気のない女性は空港ではよく目立った。
ちなみに有馬の宿を出た時にお土産のメールを寄こしたのもこいつである。
「イト、迎えありがとう」
「別にいいよ。で、お土産は?」
「ちゃんと買ってあるけど渡すのは後でな」
荷物を車の後部座席に詰め込んで助手席に腰を下ろすと、イトは「高速乗る前にガソリン入れてくから」と付け足す。
「そうだ、ガソリン代俺が出すよ。往復してくれてる礼だ」
「じゃあありがたく。一時期よりは安くなったとはいえまだ150円切らないんだよね」
日本国内では金羊国産原油がいくらか出回るようになって高騰が多少落ち着いたものの、まだ水準としてはお高いようである。
まあ俺は一応免許を取ってはいるが運転をすることはそんなにないのでこの辺の相場はよく分からないんだけどな。
近くのガソリンスタンドに向けて車を走らせると「神戸はどうだった?」と聞いてくる。
「有馬の温泉はよかったな」
「あそこは良いよなあ。町の中心部に近いからふらっと入りに行けるし」
「お勧めされた映画のトットちゃんも見たぞ」
「良かったでしょ」
「確かに良かった。子どものころ以来に原作読み返したな」
イトは根っからの映画フリークで、現在は映画系インフルエンサー兼地元の映画館支配人として働いている。
その筋では名前の売れた有名人だけあってこいつが勧めてくる映画や本がはずれだったことはないので、その辺の審美眼は信用に値する。もっとも多忙が災いして勧められても見に行く余裕がないことも多々あるのだが……。
「というか今回の神戸行きって死んだ真柴のおじさんの親戚に会うのが主目的だったんでしょ?そっちは?」
来るとは思っていた質問だった。
しかし今はそれに相応しい答えが俺の中に存在していない。
「積年の謎は片付いたな」
謎は一つ片づけど親族を巡る新しい問題が出てきてしまい、まだ俺はそれに対処することが出来ずにいる。
その辺りの含みを持った言い回しをイトは読み取ってくれたようで「ふうん」と一言で流してくれる。
加納桶川インターを降りると実家までもう少しだ。
「そうだ、真柴の伯母さんとこ寄る?」
「いいのか?」
「私もしばらく顔見てないし、母さん3時過ぎまで戻ってくるなって言ってたから」
「叔母さん仕事詰まってるのか?」
沢村の叔母は着物の仕立てと修理の仕事をしており、仕事に集中するときは針や刃物が多いので近くに寄らないようにと厳命されていた。
「納期ギリギリの仕事が1つあるっぽい、叶も図書館のほうに追い出されてたし」
「そっか。叔母さんには悪い事したかもな」
「別にいいんだよ。母さん春兄好きだし」
「じゃあイト。悪いけどかわかぜ園寄ってくれるか?」
母のいる施設の名前を上げると「りょーかーい」と答えるのだった。
まあ地方の小規模空港となるとこんなものなのかもしれないがある意味ではありがたい。
「春兄、こっち」
遠くから手を振るのは俺の4人いる従兄弟の最年長である沢村絃子だ。
膝まで覆うようなトレンチコートに身を包み、髪の一部を鮮やかな赤に染め上げた長い髪をざっくばらんにまとめた化粧っ気のない女性は空港ではよく目立った。
ちなみに有馬の宿を出た時にお土産のメールを寄こしたのもこいつである。
「イト、迎えありがとう」
「別にいいよ。で、お土産は?」
「ちゃんと買ってあるけど渡すのは後でな」
荷物を車の後部座席に詰め込んで助手席に腰を下ろすと、イトは「高速乗る前にガソリン入れてくから」と付け足す。
「そうだ、ガソリン代俺が出すよ。往復してくれてる礼だ」
「じゃあありがたく。一時期よりは安くなったとはいえまだ150円切らないんだよね」
日本国内では金羊国産原油がいくらか出回るようになって高騰が多少落ち着いたものの、まだ水準としてはお高いようである。
まあ俺は一応免許を取ってはいるが運転をすることはそんなにないのでこの辺の相場はよく分からないんだけどな。
近くのガソリンスタンドに向けて車を走らせると「神戸はどうだった?」と聞いてくる。
「有馬の温泉はよかったな」
「あそこは良いよなあ。町の中心部に近いからふらっと入りに行けるし」
「お勧めされた映画のトットちゃんも見たぞ」
「良かったでしょ」
「確かに良かった。子どものころ以来に原作読み返したな」
イトは根っからの映画フリークで、現在は映画系インフルエンサー兼地元の映画館支配人として働いている。
その筋では名前の売れた有名人だけあってこいつが勧めてくる映画や本がはずれだったことはないので、その辺の審美眼は信用に値する。もっとも多忙が災いして勧められても見に行く余裕がないことも多々あるのだが……。
「というか今回の神戸行きって死んだ真柴のおじさんの親戚に会うのが主目的だったんでしょ?そっちは?」
来るとは思っていた質問だった。
しかし今はそれに相応しい答えが俺の中に存在していない。
「積年の謎は片付いたな」
謎は一つ片づけど親族を巡る新しい問題が出てきてしまい、まだ俺はそれに対処することが出来ずにいる。
その辺りの含みを持った言い回しをイトは読み取ってくれたようで「ふうん」と一言で流してくれる。
加納桶川インターを降りると実家までもう少しだ。
「そうだ、真柴の伯母さんとこ寄る?」
「いいのか?」
「私もしばらく顔見てないし、母さん3時過ぎまで戻ってくるなって言ってたから」
「叔母さん仕事詰まってるのか?」
沢村の叔母は着物の仕立てと修理の仕事をしており、仕事に集中するときは針や刃物が多いので近くに寄らないようにと厳命されていた。
「納期ギリギリの仕事が1つあるっぽい、叶も図書館のほうに追い出されてたし」
「そっか。叔母さんには悪い事したかもな」
「別にいいんだよ。母さん春兄好きだし」
「じゃあイト。悪いけどかわかぜ園寄ってくれるか?」
母のいる施設の名前を上げると「りょーかーい」と答えるのだった。
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