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13:真柴春彦の冬休み
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リビングに入るとソファに腰を下ろした高齢の老父がじっと俺の目を見た。
老父の目からは仇を見るような怒りと品定めするような冷静さが入り混っており、あとから来た幸輔さんに「睨んでやるなよ」と注意されるほどだった。
たぶんこの人が俺の祖父の甥に当たる人なのだろうと察しは出来るが、居心地は悪い。
「これ、お土産です」
品川駅で購入しておいた東京ばな奈を食卓に置くと、なな恵さんが「東京ばな奈!」と嬉しそうに声を上げるので「あとでな」と幸輔さんに釘を刺される。
リビングのウォーターサーバーから水を貰ってから軽く口を潤すと、幸輔さんが食卓の隅に置かれていたファイルを俺の前に持ち出してきた。
「真柴さん」
「春彦でいいですよ、ここにいるのは全員真柴でややこしいですし」
「……では、春彦さんと。このファイルは俺と娘で調べた資料をまとめたファイルです。ひとつづつ説明させていただきますね」
*****
俺と目の前の3人の先祖である真柴家は奈良県中部で林業を営む地主一族であった。
吉野杉の生える山をいくつか所有し、山の維持管理に始まり製材・出荷までを行っていて、俺の曽祖父はそのうち山の維持管理を担う本家筋に当たる。
「その曽祖父の長男が政道さん・春彦さんのおじいさんで、うちの祖父は次男にあたります」
モノクロの写真も見せてもらったが目元に父の面影があり、なるほど親子と言われれば納得する。
俺の祖父と言う人は若い頃から政治のことにとても関心があったそうで、思春期の頃から奈良に所縁のあるとある政治活動に熱中していた。
「その政治活動と言うのが、全国水平社です」
「全国水平社と言うと『人の世に熱あれ、人間に光あれ』っていうあれですよね」
「ええ。詳しいことは分かりませんが熱心な支援者として係わっていたらしいです」
親族は当初政治的な事にそこまで関心も無かったので知らずにいたのだが、祖父が20歳を過ぎた頃本家の跡取りとして見合いの準備を始めた時にそのことが発覚。
部落解放などと言う問題より真柴家の跡取りとしての勉強をしなさい、と親族と俺の祖父は対立状態になる。
さらに厄介な問題が浮上する。
祖父は活動を通じて出会った被差別部落出身の女性と恋仲になっていたのだ。
親族は祖父が女性と別れてまっとうに本家の当主としての役目を果たさせるため、祖父に別れるよう説得したり、見合いの席をいくつも用意して別の女性に心変わりすることを期待した。
しかし祖父は説得に応じず心変わりすることなかった。
業を煮やした親族は結婚を強行することを決意、祝言の当日まで本人に明かさず挙式させてしまえば別れるという結論に至った。
しかし祖父は親族のたくらみに勘づいてしまい、祝言3日前に突如行方をくらましてしまう。
「そして新郎不在のまま迎えた祝言の当日、この手紙が届くんです」
老父の目からは仇を見るような怒りと品定めするような冷静さが入り混っており、あとから来た幸輔さんに「睨んでやるなよ」と注意されるほどだった。
たぶんこの人が俺の祖父の甥に当たる人なのだろうと察しは出来るが、居心地は悪い。
「これ、お土産です」
品川駅で購入しておいた東京ばな奈を食卓に置くと、なな恵さんが「東京ばな奈!」と嬉しそうに声を上げるので「あとでな」と幸輔さんに釘を刺される。
リビングのウォーターサーバーから水を貰ってから軽く口を潤すと、幸輔さんが食卓の隅に置かれていたファイルを俺の前に持ち出してきた。
「真柴さん」
「春彦でいいですよ、ここにいるのは全員真柴でややこしいですし」
「……では、春彦さんと。このファイルは俺と娘で調べた資料をまとめたファイルです。ひとつづつ説明させていただきますね」
*****
俺と目の前の3人の先祖である真柴家は奈良県中部で林業を営む地主一族であった。
吉野杉の生える山をいくつか所有し、山の維持管理に始まり製材・出荷までを行っていて、俺の曽祖父はそのうち山の維持管理を担う本家筋に当たる。
「その曽祖父の長男が政道さん・春彦さんのおじいさんで、うちの祖父は次男にあたります」
モノクロの写真も見せてもらったが目元に父の面影があり、なるほど親子と言われれば納得する。
俺の祖父と言う人は若い頃から政治のことにとても関心があったそうで、思春期の頃から奈良に所縁のあるとある政治活動に熱中していた。
「その政治活動と言うのが、全国水平社です」
「全国水平社と言うと『人の世に熱あれ、人間に光あれ』っていうあれですよね」
「ええ。詳しいことは分かりませんが熱心な支援者として係わっていたらしいです」
親族は当初政治的な事にそこまで関心も無かったので知らずにいたのだが、祖父が20歳を過ぎた頃本家の跡取りとして見合いの準備を始めた時にそのことが発覚。
部落解放などと言う問題より真柴家の跡取りとしての勉強をしなさい、と親族と俺の祖父は対立状態になる。
さらに厄介な問題が浮上する。
祖父は活動を通じて出会った被差別部落出身の女性と恋仲になっていたのだ。
親族は祖父が女性と別れてまっとうに本家の当主としての役目を果たさせるため、祖父に別れるよう説得したり、見合いの席をいくつも用意して別の女性に心変わりすることを期待した。
しかし祖父は説得に応じず心変わりすることなかった。
業を煮やした親族は結婚を強行することを決意、祝言の当日まで本人に明かさず挙式させてしまえば別れるという結論に至った。
しかし祖父は親族のたくらみに勘づいてしまい、祝言3日前に突如行方をくらましてしまう。
「そして新郎不在のまま迎えた祝言の当日、この手紙が届くんです」
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