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あかべこ

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13:真柴春彦の冬休み

13-7

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トンネルを抜けると金羊国ではめったにない冬の盛りの冷たい風がびゅうっと吹き付けてきて、ああ日本に戻ってきたのだと思う。
森と山に守られた金羊国は年間を通して天気が安定しているので、強風や大雨が少ないからこういう強い風はめったにないのだ。
去年と同じく俺たちには飯島が迎えに来たが、防衛省に向かう木栖・柊木医師・夏沢には以前会った折笠一尉が迎えに来ており防衛省と防衛研究所のほうに行くらしい。
ちなみに飯山さんは国際サービス協会までタクシーで、納村も知り合いの大学関係者による迎えが来ている。
「俺らは霞が関と永田町の関係各所回る感じだな、夕方には再合流して赤坂で夕食付きの勉強会、ホテルは夕食会の主催である紅忠の会長さんがでまとめて取ってくれてるってよ」
予定表に目を通すと夕食会は国内外の財界関係者を集めての勉強会も兼ねたものらしく、主催が紅忠の会長になっていることに気づく。
あの会社は異世界への進出に意欲的だし協力体制は必須、気が休まらない気がするがこれも仕事だ。
「まあ、終ったら休みだしな」
言い聞かせるようにそう呟くと荷物を車に積み込んだ。

****

その日の夜。
紅忠の会長さんが用意してくれたのは夕食会の会場になった五つ星高級ホテルのシングルルームで、綺麗だしいい部屋だとは思うが生来の貧乏人にはどうも座りの悪い一室だった。
(飯もあんまり食えなかったしな……)
勉強会の後の夕食会は立食形式が災いして方々から声を掛けられたせいでしっかり食べる余裕もなく、ホテル内の食事処に行くにもみんな高級そうで気が引ける。
「……ハンバーガーとか食いたい」
がっつりしたものが入るほどの余裕はないが軽く食べたい気分にハンバーガーと言う単語がぴたりとかみ合う感じがした。
もう夜の11時近いのでこの時間のハンバーガーは健康に悪い気がするが、思いついたらもうそれしか出てこない。
ここから一番近い店を調べてから部屋を出ていくと、フロントで木栖が共用PCを使っていたことに気づく。
「どうした?」
「ちょっと調べものをな、スマホの充電が切れたんでここのを借りてた」
覗き込んだ液晶画面の文字は刑務所の地図だった。
何故そんなものを見ていたのか聞きたいが、ここでは少々座りが悪い。
「……小腹が空いてな。ここの飯は高くて手が出せんから外に行こうと思ってたんだ、行くか?」
「俺も行く」
調べ物は大体終わったという木栖はブラウザを閉じて俺についてくることを選んだ。
話を聞くと、木栖のほうもずいぶん声を掛けられていたようでゆっくり食えなかったらしい。
近くのマクドナルドで注文を入れてさっさと二階席の隅に腰を下ろす。
「倍ビックマックとか食って胃もたれしないのか?」
「いや、一度もない」
倍ビックマックにポテトにスプライトという腕白な組み合わせを食っても胃もたれしないと言い切ったが、俺なら絶対無理だろうなと思う。普通の空腹時でも倍ビックマックなんか食ったら絶対胃もたれする。
同じ四十路男だというのにこの胃袋の違いは何なのだろう。
普通のハンバーガーの油をウーロン茶で流す俺とは大違いである。
「真柴は明日から地元に戻るのか?」
「いや、ちょっと用事があって神戸に行く。ついでに有馬温泉でも楽しんでこようかと」
「有馬か、まだ行ったことないな」
この流れなら聞いてもいいだろうか、と思って「……お前は刑務所行くのか」と口を開く。
「見てたんだな」
「悪い、ちらっと見えた」
「昔の男から会いたいって手紙があってな、恨み言聞きに行くつもりだ」
どういうことだ、と問えば木栖は昔の男について語り始めた。

20代の終わりごろ福岡にいた木栖は、バーで知り合った二十歳そこそこの男と付き合っていた。
しかし付き合って一年もしないうちに木栖が転勤で高知に移ることになり、同棲に誘われるもまだ日が浅い事や転職する覚悟が持てず一度断った。
遠距離でも関係が続きそうなら仕事はやめるという約束で転勤、男は安月給ながら週末ごとに福岡から高知まで会いに来てくれるのを見て木栖は福岡への転職を決意。
仕事の隙間を塗って転職先を決め、上司にも来月末で辞めるという話もした矢先、木栖のもとに警察が来たのだ。
聞いて見ると付き合っていた男が木栖に会うため会社の金を横領して交通費やデート代を捻出していたことが判明、さらに捜査が進むと携帯電話のGPSを使って居場所を常に探ったりプレゼントのぬいぐるみに盗聴器を仕込んでいたことが判明した。
木栖は急に相手が怖くなって距離を置こうと伝えて辞職を取り消して転勤したのである。
以降会っていなかったのだが、もうすぐ出所するので会いたいと連絡があったらしい。

「それお前悪くないだろ」
「まあそれもそうだけどな。向こうの家族からは俺が息子をたぶらかした男だと思われてたし、本来なら待ってやるべきなんだろうけど、俺のためとか言って何しでかすか分からなくなってちょっと怖くなったって言うのもある」
「……お前の恋愛話、本当にロクなのが無いな」
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