異世界大使館はじめます

あかべこ

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12.5:大使館に奇妙な客人

12.5-1

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新人を巡る騒動や秋の収穫祭を終えると金羊国は晩秋を迎える。
秋の盛りが過ぎてぼちぼち冬支度を始めようという季節にふらりと客人が訪れたのは、そんな季節の事であった。

「俺に会いたい人がいる?」

いつものお茶を淹れに台所に来た俺に飯山さんが切り出した。
「大使館にいつもお米を卸してくれる商店の店長?ボス?とにかくお偉いさんらしいんですよ~」
「でもそんな人がなんでだ?」
「お米の需要がそう多くない金羊国でこれだけたくさん、しかも定期的に購入してくれる大口の顧客だから興味があるらしいですねえ」
確かに金羊国は小麦が主食だから米を買うのは南の国出身者くらいで、大口の顧客がうちぐらいしかなさそうなのはわかる。しかしそのためだけに売り込みに来るものだろうか?
この大陸における米の一大産地であり大使館で食べている米の産地は大陸南端の双海公国そうかいこうこくと言う場所で、金羊国までは川を遡って一週間から10日かかると聞いている。
金羊国に来ること自体は鉱石資源目的だろうがそのついでに俺に会う理由と言うのが分からない。
(地球産の資源や物品が目的か?)
その場合は文化侵略リスクを検討しながらになるな。めんどくさい。めんどくさいが……ここで断ると米が食えなくなりそうなんだよな。
異世界産の米は東南アジアのインディカ米に近いが、あれはあれで美味しいので貴重な食の楽しみを減らしたくない。
「……細かいことは会ってから考えるか」
「じゃあ明日そう伝えておきますねー」
いつものお茶を手渡されたので執務室に戻ろう、と思ったその時ふと気づいたことがあった。
「ちなみに俺に会いたいって言うその商人の名前は分かるか?」
「えーっと、ヤマンラール商会のひとで、一番偉い人って言ってたからー……カウサルのお嬢、って呼ばれてたかな?」
「カウサルさんな、苗字は?」
「わかんないですねえ。ただお嬢って呼んでたから女性なのは間違いないんですけどねえ」
「南の双海公国の女性商会長で、ヤマンラール商会のカウサルさんか」
「たぶんあと3~4日位でこっちに来るらしいですよぉ」
「じゃあ会うとしたら休みの前日くらいか」
「ですねえ。向こうの人にはそう伝えておきますねー」
ヤマンラールという単語と双海公国の組み合わせにどことなく引っかかるものを感じながらも、とりあえずお茶が冷める前にいつもの執務室へ戻ることを優先した。
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