異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
148 / 254
12:大使館に新しい風

12-10

しおりを挟む
古畑任三郎のBGMに包まれた部屋で木栖が最初に切り出したのは「まず夏沢の履歴書を見せてくれるか?」ということだった。
履歴書レベルの事であれば大使館メンバーで情報が共有されているので、見せても問題はないだろうと判断して手渡すと「やっぱり」とつぶやいた。
「何がだ?」
「履歴書では夏沢はずっと三沢の301飛行隊所属になってるよな?」
「ああ、そうだな」
「次にこれだ。2020年の青森県の地方紙の記事のコピーだ」
見せてきたのはコピーされた地方紙の記事だ。
三沢基地に新しい戦闘機が導入され、それに伴い百里基地から第301飛行隊・通称ケロヨンが移ってきたという記述であった。
日付は2020年12月。
「……うん?」
「わかるだろ」
「ああ。履歴書によれば夏沢がウィングマークを取得して三沢に転属になったのは2018年、もしずっと301飛行隊所属なら履歴書には2018年から2020年まで百里基地所属と記載してあるはずだが、その記述がない」
「その通り。俺のような防大卒の幹部候補は転属・転勤が多いからいつどこにいたのかを忘れたり記憶が混乱するのというもありうるが、夏沢の戦闘機パイロットという前職の特殊性を鑑みるとそんな頻繁に転勤して忘れるというのは考えにくい。ならば何らかの理由で嘘の経歴を書いてるのでは?という推測が成り立つ」
この矛盾に対する答えとしては十二分にありうるが、そうなると俺達に嘘をつく理由が何なのか?という問いが沸き上がる。
夏沢麦子が過去を秘匿したうえで俺たちのところに来る理由。
「俺たちが探りを入れられるような事なんかひとつしかないだろう」
「あの件か」
武器の無断貸与の件を調べに来た、と言いたいのだろうか。
前に業務日報を貸してほしい言っていたのもあの無断貸与事件について知るためだとすれば、まあ理解はできる。
「そうなると夏沢麦子は俺たちが辞任に追い込んだあの政治家の身内ってことか?」
無断貸与事件の際、俺たちにトンデモ発言をぶちかまして炎上し辞任まで追い込まれた政治家がいる。
俺たちから見ればあれは完全に自業自得だが、もしそれを理由に恨みを買われていたとすれば調べに来る理由にはなる。
「いや。あいつは高知出身だから夏沢に俺が高知赴任時代に聞きかじったあるある話をいくつか振ってみたが、特に反応はなかったから高知に行ったことすらないと思う」
「じゃあ何故?」
「ここからは推測だ。おそらくこの矛盾は夏沢は情報戦要員として派遣した、という上層部からの合図なんだと思う。非自衛官でもちょっと調べればわかるような矛盾を書いて寄越してきたこと自体に意味があるとすればという仮定の話だが」
「情報戦要員のプロが俺たちの事を漁ってるっていうのか」
「可能性は。だが無断貸与事件はもう終わった問題だ。わざわざ掘り起こす必要があるとは思えない」
「メインは金羊国及び異世界での情報戦、ついでに俺達の武器無断貸与について確認させてるってことか?」
木栖は「恐らく」と答えた。
「つまり狙ってたのは木栖自身じゃない」
「そういうことだ」
「なんてこった」
ただ俺が一方的に勘違いしてもやもやして空回っていただけじゃないか!
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...