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12:大使館に新しい風
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9月半ば、大使館は待望の日を迎えていた。
今日は大使館に人が増える記念すべき日なのである。
「真柴、もうそろそろ来る時間じゃないか?」
「もうか」
目を通していた書類を隅に寄せ、一階の顔合わせ会場へ降りていく。
昨日から頼んでもいないのに歓迎用の飾り付けをしている納村(とそれに付き合わされているオーロフ)によって、子どもの誕生日パーティーのようになっており、アントリは朝食の片付けを終えた飯島さんと一緒に最近増設された裏口から入ってくる。
全員がなんとなく準備された椅子に腰を下ろしていると、柊木医師が「大使は既に誰が来るのか把握なされてるんですか?」と聞いてくる。
「外交官2人の名前ぐらいなら聞いてるが、防衛省から来る方は聞いてないな。木栖は聞いてるか?」
「俺も名前ぐらいだな。空自の人間らしいから面識もない」
「元空自ですか。木栖さんと同じ陸か海から来るのかと」
「金羊国は内陸だから海の知識は役に立たないとでも思ったんじゃないか?」
オーロフが「歓迎用のクラッカーです」と差し出してくれたパーティークラッカーを受け取りつつ、雑談をしていると入り口からノックの音がした。
迎えに行った嘉神が戻ってきたのだ。
おもむろに扉が開くと嘉神の横に3人の男女が立っている事がわかる。
納村が「ようこそ!」とパーティークラッカーを鳴らしたで、俺たちもクラッカーを鳴らすと3人の頭上に歓迎の花吹雪が舞い落ちる。
3人が嘉神の顔を見たので苦笑いしつつ「……荷物は後にしましょうか」と3人を目の前の席に座らせた。
今回は横並びになった3人の席を弓状に覆うように俺たちの席が並んでおり、俺が3人の真正面に座る形になる。
「ようこそ、在金羊国大使館へ。全権大使の真柴春彦です。右隣にいるのが在留武官……正式には防衛駐在官だったか?とにかくうちで働いてくれてる自衛官の木栖善泰だ」
「木栖だ。階級は1佐、前任地は習志野基地特殊作戦群本部管理中隊だ。直接の部下になるのは、夏沢さんと言ったか?」
名前を呼ばれると同時に「はい!」と声を張り上げて立ち上がる。
「夏沢麦子《なつさわ・むぎこ》、階級は空曹長、前任地は三沢基地第3航空団301飛行隊です!」
自衛隊制服に包まれた小さくも鍛えられた身体をピンと伸ばし、短く切り揃えた黒髪にピッタリ手を合わせて敬礼しながら目を見て自己紹介してくる。
全体的に小柄ではあるが無駄な肉のない身体やハキハキとした喋り方はいかにも自衛官という印象である。
「空曹長か、階級に差はあるが臆せず接してくれると嬉しい。他の2人が外交官か?」
木栖の視線が他の2人に向くと、童顔の青年が「ひゃい!」と返事をした。
「トリニダード・トバゴ大使館から異動して参りました深大寺若菜《じんだいじ・わかな》と申します!前任地では文化交流担当やってました!よろしくおねがいしましゅ!」
下手すれば高校生ぐらいに見えそうな童顔で小柄な青年が「よろしくお願いします!」と腰を90度に曲げて頭を下げてくる。
大柄で鍛えられた木栖にビビる雰囲気を隠さない辺りがちょっと新鮮である。
「深大寺、木栖はデカくて怖く見えるかもしれないが悪い奴じゃないからあんまりビビり倒さないでくれ」
「は、はい……」
「では私も自己紹介をさせて頂きますね」
深大寺をやんわりと座らせつつ立ち上がったのは白髪の老紳士であった。
「コンゴ民主共和国大使館から赴任して参りました、石薙誠二郎《いしなぎ・せいじろう》と申します。50過ぎの年寄りではありますが、最後のご奉公と言う気持ちで粉骨砕身努力致しますので何卒よろしくお願いします」
整えられた白髪に品のいいスーツのよく似合う老紳士は小さく俺に頭を下げた。
(薄々そんな気はしていたが俺より年上か、ちょっと扱いにくいな……)
ここで本音を口にするのは憚られるが、待望の追加人員である。年齢ぐらいで文句は言うまい。
「お茶をお持ちしました」
オーロフがお茶とお菓子のセットを持って現れた。
香りのいいハーブティーにナッツのフロランタンだ、ちなみにフロランタンは飯山さんが数日前に大森林のナッツと蜂蜜で作っていたので恐らくそのあまりだろう。
全員にお茶とお菓子が行き渡ったのを確認すると、納村が音頭を取れと目で合図してくる。
「ここからは遥々金羊国まで赴任してくれた3人へのささやかなお祝いの茶会とし、お茶とお菓子で互いの事を知るきっかけとして欲しい。では、乾杯!」
今日は大使館に人が増える記念すべき日なのである。
「真柴、もうそろそろ来る時間じゃないか?」
「もうか」
目を通していた書類を隅に寄せ、一階の顔合わせ会場へ降りていく。
昨日から頼んでもいないのに歓迎用の飾り付けをしている納村(とそれに付き合わされているオーロフ)によって、子どもの誕生日パーティーのようになっており、アントリは朝食の片付けを終えた飯島さんと一緒に最近増設された裏口から入ってくる。
全員がなんとなく準備された椅子に腰を下ろしていると、柊木医師が「大使は既に誰が来るのか把握なされてるんですか?」と聞いてくる。
「外交官2人の名前ぐらいなら聞いてるが、防衛省から来る方は聞いてないな。木栖は聞いてるか?」
「俺も名前ぐらいだな。空自の人間らしいから面識もない」
「元空自ですか。木栖さんと同じ陸か海から来るのかと」
「金羊国は内陸だから海の知識は役に立たないとでも思ったんじゃないか?」
オーロフが「歓迎用のクラッカーです」と差し出してくれたパーティークラッカーを受け取りつつ、雑談をしていると入り口からノックの音がした。
迎えに行った嘉神が戻ってきたのだ。
おもむろに扉が開くと嘉神の横に3人の男女が立っている事がわかる。
納村が「ようこそ!」とパーティークラッカーを鳴らしたで、俺たちもクラッカーを鳴らすと3人の頭上に歓迎の花吹雪が舞い落ちる。
3人が嘉神の顔を見たので苦笑いしつつ「……荷物は後にしましょうか」と3人を目の前の席に座らせた。
今回は横並びになった3人の席を弓状に覆うように俺たちの席が並んでおり、俺が3人の真正面に座る形になる。
「ようこそ、在金羊国大使館へ。全権大使の真柴春彦です。右隣にいるのが在留武官……正式には防衛駐在官だったか?とにかくうちで働いてくれてる自衛官の木栖善泰だ」
「木栖だ。階級は1佐、前任地は習志野基地特殊作戦群本部管理中隊だ。直接の部下になるのは、夏沢さんと言ったか?」
名前を呼ばれると同時に「はい!」と声を張り上げて立ち上がる。
「夏沢麦子《なつさわ・むぎこ》、階級は空曹長、前任地は三沢基地第3航空団301飛行隊です!」
自衛隊制服に包まれた小さくも鍛えられた身体をピンと伸ばし、短く切り揃えた黒髪にピッタリ手を合わせて敬礼しながら目を見て自己紹介してくる。
全体的に小柄ではあるが無駄な肉のない身体やハキハキとした喋り方はいかにも自衛官という印象である。
「空曹長か、階級に差はあるが臆せず接してくれると嬉しい。他の2人が外交官か?」
木栖の視線が他の2人に向くと、童顔の青年が「ひゃい!」と返事をした。
「トリニダード・トバゴ大使館から異動して参りました深大寺若菜《じんだいじ・わかな》と申します!前任地では文化交流担当やってました!よろしくおねがいしましゅ!」
下手すれば高校生ぐらいに見えそうな童顔で小柄な青年が「よろしくお願いします!」と腰を90度に曲げて頭を下げてくる。
大柄で鍛えられた木栖にビビる雰囲気を隠さない辺りがちょっと新鮮である。
「深大寺、木栖はデカくて怖く見えるかもしれないが悪い奴じゃないからあんまりビビり倒さないでくれ」
「は、はい……」
「では私も自己紹介をさせて頂きますね」
深大寺をやんわりと座らせつつ立ち上がったのは白髪の老紳士であった。
「コンゴ民主共和国大使館から赴任して参りました、石薙誠二郎《いしなぎ・せいじろう》と申します。50過ぎの年寄りではありますが、最後のご奉公と言う気持ちで粉骨砕身努力致しますので何卒よろしくお願いします」
整えられた白髪に品のいいスーツのよく似合う老紳士は小さく俺に頭を下げた。
(薄々そんな気はしていたが俺より年上か、ちょっと扱いにくいな……)
ここで本音を口にするのは憚られるが、待望の追加人員である。年齢ぐらいで文句は言うまい。
「お茶をお持ちしました」
オーロフがお茶とお菓子のセットを持って現れた。
香りのいいハーブティーにナッツのフロランタンだ、ちなみにフロランタンは飯山さんが数日前に大森林のナッツと蜂蜜で作っていたので恐らくそのあまりだろう。
全員にお茶とお菓子が行き渡ったのを確認すると、納村が音頭を取れと目で合図してくる。
「ここからは遥々金羊国まで赴任してくれた3人へのささやかなお祝いの茶会とし、お茶とお菓子で互いの事を知るきっかけとして欲しい。では、乾杯!」
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