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11:大使館の騒がしい夏
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留学生出発記念式典は政経宮の大広間を使って行われた。
この秋から地球の各地へと散らばる予定の留学生達からみなぎる若さとやる気に当てられそうになりながら部屋の隅でお茶を飲んでいると、舞台に立っていたクワス教育統括官から視線が飛んできた。
「在金羊国日本大使館全権大使の真柴さんからご挨拶です」
(……そういや挨拶してくれって言われてたな)
その事実を思い出して舞台へと昇る。
若者達の燦々と輝く瞳の明るさはこの国の希望の明るさなのだろう。
「日本大使館の真柴春彦と申します。手元の料理が冷めてしまわないようにできるだけ手短に済ませようと思いますので、宜しければ少しばかりお耳を拝借出来ればと思います」
軽いジャブで会場にドッと笑い声が響いた。
「皆さんにとって日本、ひいては地球は未知の世界でありそこへ飛び込むことはなかなか恐ろしいことであったと思います。私達日本政府や皆さんの受け入れ先となる国々が皆さんにとっての希望や光となり得るのかは正直分かりません。ですが、私たちは皆さんの希望になり、世界の壁を超えて支え合える仲間になりたいと心から願っております。
地球という場所に失望することがあったとしても私は心からあなた方金羊国の人々と支え合える仲間でありたいと考え、そう在れるように努力していることだけは信じて頂ければと思います」
軽く一礼をすると拍手を示す手振りが広がっている。
どうやら俺の言葉とその祈りは伝わってくれたらしい。
「ありがとうございました。
最後に、ハルトル金羊国宰相に閣下にご挨拶をお願い致します」
ハルトル宰相がふと歩き出すと周りの空気がふっと静かになった。
白く柔らかそうな毛並みを揺らしながら舞台の真ん中へ向かうハルトル宰相には、他の誰にもない輝きのようなものがある。
「先程ご紹介を賜りました、金羊国宰相・ハルトルです。
僕も真柴さんを見習ってできる限り手短にするつもりではありますが、長くなってしまったら気にせず食べてしまって構いませんし、何ならちゃんと聞かなくても構いません。ただ僕がどのような考えを持って地球と繋がる事を選び、留学というところへたどり着いたのかだけ話させていただきます。
かつて、僕達は人間よりも劣った物として人に飼育される存在でありました。しかし金羊の女神様は僕らを人間と同じように生きる価値のある存在と呼び、その言葉を信じた人々がこの地で集まって暮らし始めました。しかし、僕は人間のように魔術を扱えず、魔術を扱える獣人達も僕らと同じように苦しい生活の中にいたことを知りました。
魔術を扱える扱えないに関わらず人間と変わりのない幸福で楽しい暮らしを得るために大陸中を、そして大陸の外を探し、そうして辿り着いたのが地球であり地球で発達した科学や学問でした。それが僕や皆さんや皆さんの大切な人に楽しくて幸せな暮らしを与えるためのヒントがあると信じています。
皆さんにお願いしたいのは地球へ留学するのなら何かひとつ、あなたやあなたの大切な人の暮らしを楽しく幸せにする物を探してください。
それが科学でも芸術でも構いません。それを持ち帰ってみんなにお裾分けしてください、それがいつかこの国で暮らす人やこの国の外で暮らす獣人達のためになると僕は心から信じています」
そしてぺこりと頭を下げると、部屋いっぱいに拍手を示す手振りが広がっていた。
俺と木栖もまた同じように手振りによってその挨拶に答えるのだった。
この秋から地球の各地へと散らばる予定の留学生達からみなぎる若さとやる気に当てられそうになりながら部屋の隅でお茶を飲んでいると、舞台に立っていたクワス教育統括官から視線が飛んできた。
「在金羊国日本大使館全権大使の真柴さんからご挨拶です」
(……そういや挨拶してくれって言われてたな)
その事実を思い出して舞台へと昇る。
若者達の燦々と輝く瞳の明るさはこの国の希望の明るさなのだろう。
「日本大使館の真柴春彦と申します。手元の料理が冷めてしまわないようにできるだけ手短に済ませようと思いますので、宜しければ少しばかりお耳を拝借出来ればと思います」
軽いジャブで会場にドッと笑い声が響いた。
「皆さんにとって日本、ひいては地球は未知の世界でありそこへ飛び込むことはなかなか恐ろしいことであったと思います。私達日本政府や皆さんの受け入れ先となる国々が皆さんにとっての希望や光となり得るのかは正直分かりません。ですが、私たちは皆さんの希望になり、世界の壁を超えて支え合える仲間になりたいと心から願っております。
地球という場所に失望することがあったとしても私は心からあなた方金羊国の人々と支え合える仲間でありたいと考え、そう在れるように努力していることだけは信じて頂ければと思います」
軽く一礼をすると拍手を示す手振りが広がっている。
どうやら俺の言葉とその祈りは伝わってくれたらしい。
「ありがとうございました。
最後に、ハルトル金羊国宰相に閣下にご挨拶をお願い致します」
ハルトル宰相がふと歩き出すと周りの空気がふっと静かになった。
白く柔らかそうな毛並みを揺らしながら舞台の真ん中へ向かうハルトル宰相には、他の誰にもない輝きのようなものがある。
「先程ご紹介を賜りました、金羊国宰相・ハルトルです。
僕も真柴さんを見習ってできる限り手短にするつもりではありますが、長くなってしまったら気にせず食べてしまって構いませんし、何ならちゃんと聞かなくても構いません。ただ僕がどのような考えを持って地球と繋がる事を選び、留学というところへたどり着いたのかだけ話させていただきます。
かつて、僕達は人間よりも劣った物として人に飼育される存在でありました。しかし金羊の女神様は僕らを人間と同じように生きる価値のある存在と呼び、その言葉を信じた人々がこの地で集まって暮らし始めました。しかし、僕は人間のように魔術を扱えず、魔術を扱える獣人達も僕らと同じように苦しい生活の中にいたことを知りました。
魔術を扱える扱えないに関わらず人間と変わりのない幸福で楽しい暮らしを得るために大陸中を、そして大陸の外を探し、そうして辿り着いたのが地球であり地球で発達した科学や学問でした。それが僕や皆さんや皆さんの大切な人に楽しくて幸せな暮らしを与えるためのヒントがあると信じています。
皆さんにお願いしたいのは地球へ留学するのなら何かひとつ、あなたやあなたの大切な人の暮らしを楽しく幸せにする物を探してください。
それが科学でも芸術でも構いません。それを持ち帰ってみんなにお裾分けしてください、それがいつかこの国で暮らす人やこの国の外で暮らす獣人達のためになると僕は心から信じています」
そしてぺこりと頭を下げると、部屋いっぱいに拍手を示す手振りが広がっていた。
俺と木栖もまた同じように手振りによってその挨拶に答えるのだった。
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