130 / 254
11:大使館の騒がしい夏
11-2
しおりを挟む
暑かろうが寒かろうがトラブルが起きようが仕事は日々続いていく。
北の国から届いた手紙に目を通すと、異世界産原油の販売契約締結についての最終調整が終わったという知らせであった。
異世界産原油の購入と日本までの運搬は紅忠が一括し、大手石油卸売企業の出雲崎石油が精製と国内での販売を、アメリカのワールドスタンダードオイル(WSO社)が日本国外での販売、イギリスのペクテン社が異世界製石油による石油化学製品の製造・販売を担う。
「……思ったより大事になってるな?」
北の国産原油輸出については紅忠による一括購入が決まってからはあんまり把握していなかったので俺が悪いな、これは。
手紙によるとしばらくは手作業で運べる範囲内での購入になるらしく量は少ないようだが、少なくとも厄介者がまあまあのお金になるとわかったことはプラスなようだ。
コンコン、と扉を叩く音がするとふらりと現れたのはこの手紙の主役のひとりであった。
「お久しぶりです」
「ああ、紅忠の……」
「今日から紅忠金羊国支社が正式に発足するのでそのご挨拶に伺わせてもらいました」
河内さんお土産を受け取ると後ろには2人の日本人男性がいる。
ひとりは俺よりも年上で頭が薄く中年太りの、どこにでもいそうな気弱なサラリーマンと言う風貌だ。
もう1人は二十歳ぐらいの細身ながら日焼けしたスポーツ青年だった。
「この度紅忠金羊国支社副支社長に任命されました佐々晴臣と申します」
新品の名刺とともに頭を下げてきた中年男性からありがたく名刺を頂戴すると、俺もしっかり名刺を手渡す。作っといてよかった。
「支社専属通信係の高槻成裕って言います!」
元気な声でそう言いながら直角に腰を曲げて頭を下げるのがいかにも体育会系と言う印象を受ける。
「で、金羊国支社長の河内舞花です」
さっと名刺を渡されたので俺もしっかり受け取っておくことにした。
この3人は何ともアンバランスな組み合わせに見えるが、まあ俺がどうこう言ってもしょうがない。
「私とささは常に支社のほうにいますし、高槻も時々大使館に荷物運びさせる予定なんでよろしくお願いしますね。必要なら高槻に荷物運ばせてもいいですよ」
「俺の仕事増やさないでくださいよ!」
「ナリくん、ひとついいことを教えてあげよう」
「なんすか?」
「大使館の飯、めちゃくちゃ美味いよ」
「……仕事したら大使館のごはん分けてもらえるんすか?!」
いいですよね?という河内さんの視線と期待に満ちた眼差しが痛い。
まあ一人分ぐらい増えても飯山さんは気にしなさそうだし、納村の仕事が楽になると思えば‥…いいか?
「じゃあ毎週金曜日の昼、荷物運びと昼食を交換で」
「はい!」
大変いい返事でそう答えたのでもう俺はそれ以上考えないことにした。
北の国から届いた手紙に目を通すと、異世界産原油の販売契約締結についての最終調整が終わったという知らせであった。
異世界産原油の購入と日本までの運搬は紅忠が一括し、大手石油卸売企業の出雲崎石油が精製と国内での販売を、アメリカのワールドスタンダードオイル(WSO社)が日本国外での販売、イギリスのペクテン社が異世界製石油による石油化学製品の製造・販売を担う。
「……思ったより大事になってるな?」
北の国産原油輸出については紅忠による一括購入が決まってからはあんまり把握していなかったので俺が悪いな、これは。
手紙によるとしばらくは手作業で運べる範囲内での購入になるらしく量は少ないようだが、少なくとも厄介者がまあまあのお金になるとわかったことはプラスなようだ。
コンコン、と扉を叩く音がするとふらりと現れたのはこの手紙の主役のひとりであった。
「お久しぶりです」
「ああ、紅忠の……」
「今日から紅忠金羊国支社が正式に発足するのでそのご挨拶に伺わせてもらいました」
河内さんお土産を受け取ると後ろには2人の日本人男性がいる。
ひとりは俺よりも年上で頭が薄く中年太りの、どこにでもいそうな気弱なサラリーマンと言う風貌だ。
もう1人は二十歳ぐらいの細身ながら日焼けしたスポーツ青年だった。
「この度紅忠金羊国支社副支社長に任命されました佐々晴臣と申します」
新品の名刺とともに頭を下げてきた中年男性からありがたく名刺を頂戴すると、俺もしっかり名刺を手渡す。作っといてよかった。
「支社専属通信係の高槻成裕って言います!」
元気な声でそう言いながら直角に腰を曲げて頭を下げるのがいかにも体育会系と言う印象を受ける。
「で、金羊国支社長の河内舞花です」
さっと名刺を渡されたので俺もしっかり受け取っておくことにした。
この3人は何ともアンバランスな組み合わせに見えるが、まあ俺がどうこう言ってもしょうがない。
「私とささは常に支社のほうにいますし、高槻も時々大使館に荷物運びさせる予定なんでよろしくお願いしますね。必要なら高槻に荷物運ばせてもいいですよ」
「俺の仕事増やさないでくださいよ!」
「ナリくん、ひとついいことを教えてあげよう」
「なんすか?」
「大使館の飯、めちゃくちゃ美味いよ」
「……仕事したら大使館のごはん分けてもらえるんすか?!」
いいですよね?という河内さんの視線と期待に満ちた眼差しが痛い。
まあ一人分ぐらい増えても飯山さんは気にしなさそうだし、納村の仕事が楽になると思えば‥…いいか?
「じゃあ毎週金曜日の昼、荷物運びと昼食を交換で」
「はい!」
大変いい返事でそう答えたのでもう俺はそれ以上考えないことにした。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる