異世界大使館はじめます

あかべこ

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11:大使館の騒がしい夏

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日本から大使館に戻ってほどなく、突然の客人は唐突な依頼をよこしてきた。
「日本語を教えてほしい?」
「そうだな」
どっかりと椅子に腰を下ろしたクライフ上級魔術官は突然そんなことを言い出した。
「そんな余裕ないんですけど」
「見ればわかる。エインたちに教えて欲しいとも言ったけど断られたし、何より日本における女性の口説き方がわからない」
つまり日本語と一緒に日本式の恋愛指南もしてほしいという事か。
以前一目惚れしたと言っていた相模さんと言う女性の事を思い出し、恐らく彼女と付き合うための指南をしてほしいという事なのだろうと察した。
「……納村に頼んだらどうです?彼女はこの世界の言語研究してるので研究協力の代わりに日本語を教わればいいのでは?」
「なむら?」
「うちの大使館に1人だけ女性がいるでしょう、あの人です」
「なるほど、探して交渉してみるかな」
そう言ってフラッと執務室を出て行ったのを見届けると、まだ減らない仕事の山が目に入る。
俺と木栖が不在だった2週間ほどの間にたまった仕事は未だに減りそうにない。
(かといって徹夜すると体にクるんだよなあ)
20代の頃は徹夜泊まり込みで疲れや不具合を感じたことはあまりなかったが、40を過ぎた今は徹夜なんかすると集中力が如実に落ちて仕事のほうに影響が出てしまう。
大使館はそもそも日が落ちたら営業終了なので(LEDランタン1つで書類仕事はきつい)明るいうちに必死で片づけるしかない。
太陽光パネルや小型水力発電を導入して夜でも明るく出来れば違うのだろうが、予算の都合でまだ導入される予定がない。
東京よりマシとはいえ金羊国にも四季はあるので冷暖房や電灯が導入できないか交渉してるのだが未だに話がまとまらない。金羊国への電気工事士派遣が結構高くついてしまうらしい。
金羊国は夏の盛りへ足を踏み入れつつあった。

****

「と言う訳で今日は冷麺です!」
昼食の時間。
自信満々な飯山さんから差し出されたのはどこからどう見ても冷やし中華だった。
本人曰く、以前からこの土地で取れる小麦粉で麺を作りたいと考えていたもののかん水が無くて中華麺がつくれずにいたが日本からこちらに戻る際にかん水を持ってきていたらしい。
で、今回は金羊国産小麦と日本で購入したかん水で中華めんの手打ちに挑んだそうである。ほかの素材はほぼ金羊国産である。
「……でも、どう見ても冷やし中華だな?」
俺がそう呟くと「西のほうの人は冷やし中華の事冷麺って呼ぶことが多いぞ」と木栖が補足する。
「飯山さん、マヨネーズありますか?」
「できればそのままでどうぞ」
嘉神お前冷やし中華にマヨネーズは無理があるだろ……。
「ちなみに餃子は……「無理です柊木先生」
そんなことを考えつつ冷やし中華を混ぜて一口すする。
果実酢にちょっと魚醤の旨味の入ったタレが手打ちの縮れ麺によく絡み、野菜のしゃきしゃきも心地いい。
「うまい」
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