129 / 254
11:大使館の騒がしい夏
11-1
しおりを挟む
日本から大使館に戻ってほどなく、突然の客人は唐突な依頼をよこしてきた。
「日本語を教えてほしい?」
「そうだな」
どっかりと椅子に腰を下ろしたクライフ上級魔術官は突然そんなことを言い出した。
「そんな余裕ないんですけど」
「見ればわかる。エインたちに教えて欲しいとも言ったけど断られたし、何より日本における女性の口説き方がわからない」
つまり日本語と一緒に日本式の恋愛指南もしてほしいという事か。
以前一目惚れしたと言っていた相模さんと言う女性の事を思い出し、恐らく彼女と付き合うための指南をしてほしいという事なのだろうと察した。
「……納村に頼んだらどうです?彼女はこの世界の言語研究してるので研究協力の代わりに日本語を教わればいいのでは?」
「なむら?」
「うちの大使館に1人だけ女性がいるでしょう、あの人です」
「なるほど、探して交渉してみるかな」
そう言ってフラッと執務室を出て行ったのを見届けると、まだ減らない仕事の山が目に入る。
俺と木栖が不在だった2週間ほどの間にたまった仕事は未だに減りそうにない。
(かといって徹夜すると体にクるんだよなあ)
20代の頃は徹夜泊まり込みで疲れや不具合を感じたことはあまりなかったが、40を過ぎた今は徹夜なんかすると集中力が如実に落ちて仕事のほうに影響が出てしまう。
大使館はそもそも日が落ちたら営業終了なので(LEDランタン1つで書類仕事はきつい)明るいうちに必死で片づけるしかない。
太陽光パネルや小型水力発電を導入して夜でも明るく出来れば違うのだろうが、予算の都合でまだ導入される予定がない。
東京よりマシとはいえ金羊国にも四季はあるので冷暖房や電灯が導入できないか交渉してるのだが未だに話がまとまらない。金羊国への電気工事士派遣が結構高くついてしまうらしい。
金羊国は夏の盛りへ足を踏み入れつつあった。
****
「と言う訳で今日は冷麺です!」
昼食の時間。
自信満々な飯山さんから差し出されたのはどこからどう見ても冷やし中華だった。
本人曰く、以前からこの土地で取れる小麦粉で麺を作りたいと考えていたもののかん水が無くて中華麺がつくれずにいたが日本からこちらに戻る際にかん水を持ってきていたらしい。
で、今回は金羊国産小麦と日本で購入したかん水で中華めんの手打ちに挑んだそうである。ほかの素材はほぼ金羊国産である。
「……でも、どう見ても冷やし中華だな?」
俺がそう呟くと「西のほうの人は冷やし中華の事冷麺って呼ぶことが多いぞ」と木栖が補足する。
「飯山さん、マヨネーズありますか?」
「できればそのままでどうぞ」
嘉神お前冷やし中華にマヨネーズは無理があるだろ……。
「ちなみに餃子は……「無理です柊木先生」
そんなことを考えつつ冷やし中華を混ぜて一口すする。
果実酢にちょっと魚醤の旨味の入ったタレが手打ちの縮れ麺によく絡み、野菜のしゃきしゃきも心地いい。
「うまい」
「日本語を教えてほしい?」
「そうだな」
どっかりと椅子に腰を下ろしたクライフ上級魔術官は突然そんなことを言い出した。
「そんな余裕ないんですけど」
「見ればわかる。エインたちに教えて欲しいとも言ったけど断られたし、何より日本における女性の口説き方がわからない」
つまり日本語と一緒に日本式の恋愛指南もしてほしいという事か。
以前一目惚れしたと言っていた相模さんと言う女性の事を思い出し、恐らく彼女と付き合うための指南をしてほしいという事なのだろうと察した。
「……納村に頼んだらどうです?彼女はこの世界の言語研究してるので研究協力の代わりに日本語を教わればいいのでは?」
「なむら?」
「うちの大使館に1人だけ女性がいるでしょう、あの人です」
「なるほど、探して交渉してみるかな」
そう言ってフラッと執務室を出て行ったのを見届けると、まだ減らない仕事の山が目に入る。
俺と木栖が不在だった2週間ほどの間にたまった仕事は未だに減りそうにない。
(かといって徹夜すると体にクるんだよなあ)
20代の頃は徹夜泊まり込みで疲れや不具合を感じたことはあまりなかったが、40を過ぎた今は徹夜なんかすると集中力が如実に落ちて仕事のほうに影響が出てしまう。
大使館はそもそも日が落ちたら営業終了なので(LEDランタン1つで書類仕事はきつい)明るいうちに必死で片づけるしかない。
太陽光パネルや小型水力発電を導入して夜でも明るく出来れば違うのだろうが、予算の都合でまだ導入される予定がない。
東京よりマシとはいえ金羊国にも四季はあるので冷暖房や電灯が導入できないか交渉してるのだが未だに話がまとまらない。金羊国への電気工事士派遣が結構高くついてしまうらしい。
金羊国は夏の盛りへ足を踏み入れつつあった。
****
「と言う訳で今日は冷麺です!」
昼食の時間。
自信満々な飯山さんから差し出されたのはどこからどう見ても冷やし中華だった。
本人曰く、以前からこの土地で取れる小麦粉で麺を作りたいと考えていたもののかん水が無くて中華麺がつくれずにいたが日本からこちらに戻る際にかん水を持ってきていたらしい。
で、今回は金羊国産小麦と日本で購入したかん水で中華めんの手打ちに挑んだそうである。ほかの素材はほぼ金羊国産である。
「……でも、どう見ても冷やし中華だな?」
俺がそう呟くと「西のほうの人は冷やし中華の事冷麺って呼ぶことが多いぞ」と木栖が補足する。
「飯山さん、マヨネーズありますか?」
「できればそのままでどうぞ」
嘉神お前冷やし中華にマヨネーズは無理があるだろ……。
「ちなみに餃子は……「無理です柊木先生」
そんなことを考えつつ冷やし中華を混ぜて一口すする。
果実酢にちょっと魚醤の旨味の入ったタレが手打ちの縮れ麺によく絡み、野菜のしゃきしゃきも心地いい。
「うまい」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・
今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。
その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。
皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。
刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる