126 / 254
10:大使館のあとしまつ
10-13
しおりを挟む
議員の辞職が大きく報道されると、最後の大問題がわざわざ俺たちを呼び出してきた。
場所は青山の高価な鉄板焼き屋の個室、ご丁寧に俺たちセットだ。
「真柴君と木栖君、だね?」
温和そうな白髪の好々爺のどこか冷めた瞳が俺たちを迎え入れる。
(この人が現総理大臣か……)
妙に冷静な俺に対して緊張気味の木栖が「はい」と応える。
「君たちには随分と迷惑をかけた、この場は私の奢りだ。思う存分食べてくれたまえ」
本心から詫びる気持ちがあるように思えないのは目が笑っていないせいだろうか。
とはいえ一番安いディナーコースで5000円の店など庶民には滅多に入れるものではないし、少なくとも赤坂や築地の高級料亭に呼び出されるよりは精神的ハードルが低い。
「馳走になります」
木栖が頭を下げると同様に俺も頭を軽く下げる。
前菜のポテトサラダや浅漬けをつまみながらビール片手に異世界についての話を引き出すと、総理は興味深げに頷きながら聞いている。
その聞き上手ぶりは総理の目前で緊張気味だった木栖を酒と異世界トークでほぐしているほどだ。
とん平焼きと2杯目のハイボールが届くと、総理は俺に話を向けた。
「真柴君は木栖君とどのような仲なのかね?」
「……見た通りの仲ですよ」
「見た通りと言うのは恋仲に見せかける程度の仲、ということだね」
老獪クソ狸らしい笑みと言葉で俺たちの仲を言い当てる。
木栖の酒を飲んでいた手がぴたりと一瞬止まっており、それが正解であることを暗に伝えている。
「君たちが追い出した彼は私のお気に入りの子でね、辞任は実に残念だったよ」
お気に入りの子と言う言い回しには裏を感じるがそこは追及しまい。
「そうですか」
「国家賠償法についての入れ知恵をしたのは誰かな?」
素直にある議員の名を伝えると「そうか」と納得したように頷いた。
トイレに行ったときにでもご当人にメールしておこう。
「それにしても君たちは金羊国側からずいぶんと気に入られているようだな」
「ええ、大変良くしていただいております」
「好い人もいないのにか」
おいおい、総理もハニートラップを疑ってたのか。
「俺たちはあの国の善い人たちを好ましく思っておりますので」
砂を嚙むような気持でとん平焼きをかみ砕き、ハイボールで流し込む。
木栖も同じ心地のようで困ったような眼をしていた。俺も同意見なので許してくれ。
「善良な国民に善良な首長、そんな夢のような国か?」
「この目で見た限りはおおむねそうですね」
「……体ではなく国の内面にたぶらかされたと言う訳か」
総理は面白そうに笑う。
「いつか金羊国にお越しいただければ分かりますよ、苦境に生き善良なるかの国の人に対して偽善であっても善なる人でありたいと思う気持ちも」
場所は青山の高価な鉄板焼き屋の個室、ご丁寧に俺たちセットだ。
「真柴君と木栖君、だね?」
温和そうな白髪の好々爺のどこか冷めた瞳が俺たちを迎え入れる。
(この人が現総理大臣か……)
妙に冷静な俺に対して緊張気味の木栖が「はい」と応える。
「君たちには随分と迷惑をかけた、この場は私の奢りだ。思う存分食べてくれたまえ」
本心から詫びる気持ちがあるように思えないのは目が笑っていないせいだろうか。
とはいえ一番安いディナーコースで5000円の店など庶民には滅多に入れるものではないし、少なくとも赤坂や築地の高級料亭に呼び出されるよりは精神的ハードルが低い。
「馳走になります」
木栖が頭を下げると同様に俺も頭を軽く下げる。
前菜のポテトサラダや浅漬けをつまみながらビール片手に異世界についての話を引き出すと、総理は興味深げに頷きながら聞いている。
その聞き上手ぶりは総理の目前で緊張気味だった木栖を酒と異世界トークでほぐしているほどだ。
とん平焼きと2杯目のハイボールが届くと、総理は俺に話を向けた。
「真柴君は木栖君とどのような仲なのかね?」
「……見た通りの仲ですよ」
「見た通りと言うのは恋仲に見せかける程度の仲、ということだね」
老獪クソ狸らしい笑みと言葉で俺たちの仲を言い当てる。
木栖の酒を飲んでいた手がぴたりと一瞬止まっており、それが正解であることを暗に伝えている。
「君たちが追い出した彼は私のお気に入りの子でね、辞任は実に残念だったよ」
お気に入りの子と言う言い回しには裏を感じるがそこは追及しまい。
「そうですか」
「国家賠償法についての入れ知恵をしたのは誰かな?」
素直にある議員の名を伝えると「そうか」と納得したように頷いた。
トイレに行ったときにでもご当人にメールしておこう。
「それにしても君たちは金羊国側からずいぶんと気に入られているようだな」
「ええ、大変良くしていただいております」
「好い人もいないのにか」
おいおい、総理もハニートラップを疑ってたのか。
「俺たちはあの国の善い人たちを好ましく思っておりますので」
砂を嚙むような気持でとん平焼きをかみ砕き、ハイボールで流し込む。
木栖も同じ心地のようで困ったような眼をしていた。俺も同意見なので許してくれ。
「善良な国民に善良な首長、そんな夢のような国か?」
「この目で見た限りはおおむねそうですね」
「……体ではなく国の内面にたぶらかされたと言う訳か」
総理は面白そうに笑う。
「いつか金羊国にお越しいただければ分かりますよ、苦境に生き善良なるかの国の人に対して偽善であっても善なる人でありたいと思う気持ちも」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる