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10:大使館のあとしまつ
10-12
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外務省と防衛省が俺の考えを支持したとしてもまだ事態は収束しない。
まず政府が武器の無断貸与と返却について訴訟を起こさない、と明言してくれるまで気が抜けないのだ。
それにハニートラップ発言の議員もさんざん批判されているがテンプレ謝罪文を出しただけで全く事態が鎮静化してない。
飯島を経由して上から『大ごとにはするな』『これ以上波風を立てるな』とは言われているが、そもそも俺と木栖に詫びに来てない辺りで本気で詫びる気はゼロなんだろうなあという気持ちではある。
「名誉棄損で訴訟にする?」
木栖が突然そんなことを言い出したのは、防衛省と外務省により俺たちの行動が問題なしとされた次の日の夜だった。
「そういう話をある議員に耳打ちされたってだけだ、その時はこっちでバックアップするともな」
「訴訟するのも選択肢としてはあるだろうが金羊国大使館勤務に戻れるのが決まった今だと訴訟は大変じゃないか?」
訴訟と言葉にすれば単純だが、ひとつの訴訟が終わるまでにかかる年月や費用を思えば気軽にやれるものじゃない。
特に今回は場所が特殊だし内容もセンセーショナル過ぎる。
「俺もそう思うんだが、ひとつだけ思うことがあってな」
「思うこと?」
「今後同じような目に遭うヤツを減らすためにも訴訟という前例を作っておくべきじゃないか、とも言われたんだ」
木栖は国会と言う場所で自分の私生活を暴露された立場だ。
私生活を暴露されあらぬ疑いをかけられて何もしないでいいはずはない。
しかし、さっきから一つだけわからない事がある。
「お前自身は訴えたいのか?それとも訴えずに済ませたいのか?」
「……どうなんだろうな。俺が悪い男に騙されたのは事実だし、それをバラされたことで生活の不利はない。ただ、次に会った時にあの言葉を思い出して平常心を保てそうにない」
「それが許せないってことだろ?」
「だとしても、俺がゲイでなければお前まで「これはお前があの言葉を許すかどうかの話だ。
俺たちは法治国家に住んでいて、傷つけられたら法により裁かれ自分の行いに対する罰則が下る。そこにお前の性の在り方は無関係だ」
木栖はしばらく考え込むと「そうかもしれないな」と気弱な同意を告げる。
「俺たちからもこの件に関して声明文を出して、訴訟についても明記してみるか。……あ、でもあれは国会中の発言だから憲法の免責特権働くのか?」
「それは俺も考えたが今回のことを公務員による損害とすれば国家賠償法の対象になる、と言われた」
国家賠償法と言うと国に対する損害賠償についてを明記した法律だ。
その辺を上が把握してるのかいないのかは不明瞭だが、この選択肢について懇切丁寧にご説明した方が良いかもしれない。
****
翌朝すぐに木栖に訴訟の話を耳打ちした議員と連絡を取り、法律的な部分を頭に叩き込むと俺はそれはそれは丁寧な法律の説明を添えた手紙をいくつか郵送した。
飯島と上の偉い人には悪いがこれは俺のみならず木栖や木栖と同じ境遇の人々のためでもあるし、俺個人としてもあんな失礼千万な生き物が国会にいるのは癪に障るというものだ。
議員も免責特権を利用した差別発言であるという強く非難したうえで国家賠償法の話を引っ張り出し、若い世代による議員辞職署名にからむなどした結果。
「発言から5日で辞職か」
「国会であんなこと言ったんだ、妥当だろ」
小さくため息を漏らしながらまだ残る最後の大問題にため息を漏らすのだった。
まず政府が武器の無断貸与と返却について訴訟を起こさない、と明言してくれるまで気が抜けないのだ。
それにハニートラップ発言の議員もさんざん批判されているがテンプレ謝罪文を出しただけで全く事態が鎮静化してない。
飯島を経由して上から『大ごとにはするな』『これ以上波風を立てるな』とは言われているが、そもそも俺と木栖に詫びに来てない辺りで本気で詫びる気はゼロなんだろうなあという気持ちではある。
「名誉棄損で訴訟にする?」
木栖が突然そんなことを言い出したのは、防衛省と外務省により俺たちの行動が問題なしとされた次の日の夜だった。
「そういう話をある議員に耳打ちされたってだけだ、その時はこっちでバックアップするともな」
「訴訟するのも選択肢としてはあるだろうが金羊国大使館勤務に戻れるのが決まった今だと訴訟は大変じゃないか?」
訴訟と言葉にすれば単純だが、ひとつの訴訟が終わるまでにかかる年月や費用を思えば気軽にやれるものじゃない。
特に今回は場所が特殊だし内容もセンセーショナル過ぎる。
「俺もそう思うんだが、ひとつだけ思うことがあってな」
「思うこと?」
「今後同じような目に遭うヤツを減らすためにも訴訟という前例を作っておくべきじゃないか、とも言われたんだ」
木栖は国会と言う場所で自分の私生活を暴露された立場だ。
私生活を暴露されあらぬ疑いをかけられて何もしないでいいはずはない。
しかし、さっきから一つだけわからない事がある。
「お前自身は訴えたいのか?それとも訴えずに済ませたいのか?」
「……どうなんだろうな。俺が悪い男に騙されたのは事実だし、それをバラされたことで生活の不利はない。ただ、次に会った時にあの言葉を思い出して平常心を保てそうにない」
「それが許せないってことだろ?」
「だとしても、俺がゲイでなければお前まで「これはお前があの言葉を許すかどうかの話だ。
俺たちは法治国家に住んでいて、傷つけられたら法により裁かれ自分の行いに対する罰則が下る。そこにお前の性の在り方は無関係だ」
木栖はしばらく考え込むと「そうかもしれないな」と気弱な同意を告げる。
「俺たちからもこの件に関して声明文を出して、訴訟についても明記してみるか。……あ、でもあれは国会中の発言だから憲法の免責特権働くのか?」
「それは俺も考えたが今回のことを公務員による損害とすれば国家賠償法の対象になる、と言われた」
国家賠償法と言うと国に対する損害賠償についてを明記した法律だ。
その辺を上が把握してるのかいないのかは不明瞭だが、この選択肢について懇切丁寧にご説明した方が良いかもしれない。
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翌朝すぐに木栖に訴訟の話を耳打ちした議員と連絡を取り、法律的な部分を頭に叩き込むと俺はそれはそれは丁寧な法律の説明を添えた手紙をいくつか郵送した。
飯島と上の偉い人には悪いがこれは俺のみならず木栖や木栖と同じ境遇の人々のためでもあるし、俺個人としてもあんな失礼千万な生き物が国会にいるのは癪に障るというものだ。
議員も免責特権を利用した差別発言であるという強く非難したうえで国家賠償法の話を引っ張り出し、若い世代による議員辞職署名にからむなどした結果。
「発言から5日で辞職か」
「国会であんなこと言ったんだ、妥当だろ」
小さくため息を漏らしながらまだ残る最後の大問題にため息を漏らすのだった。
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