異世界大使館はじめます

あかべこ

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10:大使館のあとしまつ

10-10

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翌朝のニュースは俺が議員に投げかけられたハニートラップ疑惑の話で大騒ぎだった。
国内の性的少数当事者団体や人権団体、LGBTQフレンドリーを掲げる国のいくつかの駐日大使が一斉に抗議文を発表したのだ。むろんそこには俺の抗議文も含まれる。
また駐日金羊国大使館も同様に『我が国と恩人への侮辱に等しい』とビデオレターをネットに発信した。
この件についてはまだしばらく尾を引きそうだ、と訳知り顔のコメンテーターが話を締めたところで天気予報に変わった。
ノートPCでネットニュースやSNSを見てみれば、本題であるはずの武器の無断貸与よりもハニートラップ疑惑の方が大問題になりそうな勢いで話が埋まっている。
それでも武器の無断貸与についての意見を探ってみると思ったよりも俺たちの行動に理解を示す声が散見され、正直ほっとした。
……ほっとしたら腹減ってきたな。
時刻的にもいい頃合いだろうか、と思ってスマホに手を伸ばして電話をかける。
『もしもし』
「木栖、朝飯食いに行こう」

****

朝からピザトーストにたっぷりサイズのコーヒーを注文する木栖を見たら、元気になってくれてよかったと思う。
たまごペーストたっぷりのトーストをかじり、ミルクコーヒーで流し込む。
「抗議文出してたんだってな?」
「色んなところが出してるらしいな」
「お前の抗議文の件だ。俺の代わりに怒ってくれたみたいで嬉しかった」
「俺が個人的に怒り心頭だっただけだよ」
お前が侮辱されることへの怒りもあった訳だが、まあこれは言わないでおこう。
「うちの親ならフォローしない気がする」
「普通息子が侮辱されたら親は怒るだろ」
「時に神への信仰は親子の絆よりも優先されるものだからな」
自虐めいた言い回しは過去の暗さを匂わせる。
というか、自分の腹から生まれた息子より会った事もない神様が優先される世界か……俺なら絶対に嫌だ。
「俺は見たことも話したこともない神様よりお前のほうが大事だと思うがな」
「そういうことサラッと言えるんだなお前は」
「神社と寺と教会に行ったときに軽く手を合わせる程度の信仰心しか持ち合わせてない不信神者とも言うが」
「たいていの日本人はそうだろ、うちが特殊すぎただけだ」
「自覚はあるのか」
「40年生きてればさすがにな」
本人もこれ以上掘り下げて話す気はないのか、追加でシロ〇ワールを注文してた。というか朝からよくそんな甘いもん食えるな?
「俺はあのハニートラップ発言の時、絶望的な気持ちだったんだ」
「絶望的?」
「苦労して建てた新築の家が目前で燃えてるような心境、と言うとわかるか?」
「確かに絶望的だな」
「何も出てこないときに代わりに声を上げてくれたお前があれほど救いに思えたことはないよ」
「……おだてても何も出せないぞ」
「素直に感謝してるんだ、お前は受け取ってくれさえすればいい」
木栖は注文したシロノ〇ールを受け取ってシロップをかけてくる。
なんかこういうのって見てるとうまそうだよな……俺もソフトクリーム頼もうかな、でも全部食える気はしないので悩ましい。
すると木栖がアイスをひと匙掬い取り、俺に差し出してくる。
「ちょっとしたお礼だ」
そのソフトクリームを受け取って一口貰う。うん、うまい。
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