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9:大使館と戦乱の火
9-19
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「木栖、トムリンソン准将。無線を立ち上げてポアロ大佐に連絡できますか」
俺が2人にそう問えば「少し待ってほしい」と告げて無線通信機を立ち上げる。
トムリンソン准将から手持ちのアンテナを預かった木栖は方位磁石や地図を確認してから第一都市のほうにアンテナを向け、あっという間にポアロ大佐と無線が通じる。
ひと言ふた言のやり取りののちにマイクが渡され、丁重にそれを打行けとった。
「ポアロ大佐、真柴です。そちらにグウズルン情報管理官いらっしゃいますか」
『今日は来ていらっしゃいませんね』
「急で申し訳ないのですがハルトル宰相と連絡したいんです」
『停戦交渉絡みですね。せっかくですからトムリンソン准将のタブレットを使って液晶越しの対面と行きましょうか、30分ほどいただけますかな?』
「了解です」
無線通信が途切れると、トムリンソン准将が太陽光パネルにつないだ軍事用タブレットの準備を始める。
ついでに画面も録画しておいて貰えるか頼んでみよう。
「今のは?」
「第一都市にいる関係者と連絡を取っていました、早ければ30分後にも金羊国側と大森林の割譲についてお話合いできるはずですよ」
ヴァランタン第3皇子は「魔術に頼らず発展してきたと聞いたがその程度か」とつぶやく。
午前中のうちに俺たちがリゴー侯爵に話したことはやはり流れているらしい。
「逆説的に考えればあなた方が家畜とみなす獣人も我々の協力があれば皆様と同じだけの能力を持ちうるということです」
「それならばそちらとこちらの世界のつながりを途絶すれば良いだけのことです、生れながらの罪人に強すぎる力は毒でしょうから」
そう口を挟んだのは教会の騎士団長であるベルナール・ド・バラドゥール氏である。教会なら出来るということなのだろう。
「途絶しても繋ぎなおせますので」
もちろん嘘である、残念ながら現代科学は日本問世界をつなぐ手立てがない。
しかしこの一言に騎士たちがざわつくのを耳でとらえると効果はあったようだ、いざという時は異世界人が敵になるという恐怖を植え付けておくぐらいは許容範囲だろう。
****
30分後、ハルトル宰相とテレビ電話が可能になった。
『久しぶりの対面がこのような形になって申し訳ありません』
画面越しに頭を下げた謙虚な羊に「お気になさらないでください」と声をかける。
停戦条件として大森林の割譲が出てきたことを伝えると『20ミルはどうかしてますね』とつぶやいた。
タブレットをヴァランタン第3皇子のほうに向けて置くと『長らくお会いできずにおりました、ハルトルでございます』と返してくる。
「ハルトル、大森林の割譲書類を作らせこちらに寄越せ」
『お断りします』
「従え」
『20ミルではなく10ミル、大森林の中央部を緩衝地帯とすること。それが妥協点です』
「クソ羊が!」
ヴァランタン第3皇子がタブレットを掴もうとしたので俺の胸元にひっこめる。
危うく液晶を割られるところだった、危ない危ない。
「差し出がましいようですが、人の立ち入らない緩衝地帯を作ることは役に立ちますよ」
タブレットを再びヴァランタン第3皇子のほうに向けながら、緩衝地帯を承諾させるメリットを脳内でフル回転させる。
「大森林の恵みは材木・獣・山菜果樹に大別されます。
それらのうち獣肉は人の手が入らない大自然にあれば安心して子を産み育てるでしょう、やがてその獣たちは人里に近い場所に下り私たちの食べものになります」
「つまり我々の緩衝地帯ではなく、大森林の恵みの生産になると?」
「そういうことです」
しばらく考え込むとふうっと小さくため息をつく。
「砦から15ミルを我が国に永久割譲、そこから先5マイルを人の立ち入りを禁ずる緩衝地帯とする。これ以上は譲らぬ」
その一言は停戦の承認を意味するものだった。
俺が2人にそう問えば「少し待ってほしい」と告げて無線通信機を立ち上げる。
トムリンソン准将から手持ちのアンテナを預かった木栖は方位磁石や地図を確認してから第一都市のほうにアンテナを向け、あっという間にポアロ大佐と無線が通じる。
ひと言ふた言のやり取りののちにマイクが渡され、丁重にそれを打行けとった。
「ポアロ大佐、真柴です。そちらにグウズルン情報管理官いらっしゃいますか」
『今日は来ていらっしゃいませんね』
「急で申し訳ないのですがハルトル宰相と連絡したいんです」
『停戦交渉絡みですね。せっかくですからトムリンソン准将のタブレットを使って液晶越しの対面と行きましょうか、30分ほどいただけますかな?』
「了解です」
無線通信が途切れると、トムリンソン准将が太陽光パネルにつないだ軍事用タブレットの準備を始める。
ついでに画面も録画しておいて貰えるか頼んでみよう。
「今のは?」
「第一都市にいる関係者と連絡を取っていました、早ければ30分後にも金羊国側と大森林の割譲についてお話合いできるはずですよ」
ヴァランタン第3皇子は「魔術に頼らず発展してきたと聞いたがその程度か」とつぶやく。
午前中のうちに俺たちがリゴー侯爵に話したことはやはり流れているらしい。
「逆説的に考えればあなた方が家畜とみなす獣人も我々の協力があれば皆様と同じだけの能力を持ちうるということです」
「それならばそちらとこちらの世界のつながりを途絶すれば良いだけのことです、生れながらの罪人に強すぎる力は毒でしょうから」
そう口を挟んだのは教会の騎士団長であるベルナール・ド・バラドゥール氏である。教会なら出来るということなのだろう。
「途絶しても繋ぎなおせますので」
もちろん嘘である、残念ながら現代科学は日本問世界をつなぐ手立てがない。
しかしこの一言に騎士たちがざわつくのを耳でとらえると効果はあったようだ、いざという時は異世界人が敵になるという恐怖を植え付けておくぐらいは許容範囲だろう。
****
30分後、ハルトル宰相とテレビ電話が可能になった。
『久しぶりの対面がこのような形になって申し訳ありません』
画面越しに頭を下げた謙虚な羊に「お気になさらないでください」と声をかける。
停戦条件として大森林の割譲が出てきたことを伝えると『20ミルはどうかしてますね』とつぶやいた。
タブレットをヴァランタン第3皇子のほうに向けて置くと『長らくお会いできずにおりました、ハルトルでございます』と返してくる。
「ハルトル、大森林の割譲書類を作らせこちらに寄越せ」
『お断りします』
「従え」
『20ミルではなく10ミル、大森林の中央部を緩衝地帯とすること。それが妥協点です』
「クソ羊が!」
ヴァランタン第3皇子がタブレットを掴もうとしたので俺の胸元にひっこめる。
危うく液晶を割られるところだった、危ない危ない。
「差し出がましいようですが、人の立ち入らない緩衝地帯を作ることは役に立ちますよ」
タブレットを再びヴァランタン第3皇子のほうに向けながら、緩衝地帯を承諾させるメリットを脳内でフル回転させる。
「大森林の恵みは材木・獣・山菜果樹に大別されます。
それらのうち獣肉は人の手が入らない大自然にあれば安心して子を産み育てるでしょう、やがてその獣たちは人里に近い場所に下り私たちの食べものになります」
「つまり我々の緩衝地帯ではなく、大森林の恵みの生産になると?」
「そういうことです」
しばらく考え込むとふうっと小さくため息をつく。
「砦から15ミルを我が国に永久割譲、そこから先5マイルを人の立ち入りを禁ずる緩衝地帯とする。これ以上は譲らぬ」
その一言は停戦の承認を意味するものだった。
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