104 / 254
9:大使館と戦乱の火
9-11
しおりを挟む
その日は大森林と川を挟んでの一進一退の末、日が暮れると一様に撤退していった。
薄暗い森の中なので夜の間に戦うのはお互い無理なのだろう。
日が暮れてしばらく経ったタイミングで南に行っていた米軍の2人が戻ってきた。
「ロードオブザリングみたいだったな」
そう言い放ったカストロ中尉に木栖が「どの辺が?」と問う。
「剣と弓とプレートアーマーを主体としつつ、俺たちには理解しがたい方法で突然火が出てきたり雷が落ちたりするところが実にファンタジーだった!」
「船の速度も手漕ぎの割にずいぶん早かったしな」
陸軍所属であるはずの准将の言葉に木栖が「手漕ぎ船に明るいんですか?」と問えば「カヌーが趣味でね、専門家ではないが多少はわかるつもりだ」と告げる。
確かに現代地球人で手漕ぎ船の速度が分かる人などそう多くないだろう。
「成人男性が4~5人乗れるサイズの木造の川船、川の流れが緩いとはいえ流れに逆らう形だと考えると漕ぎ手がひとりというのは無理があるように思えたがそれでも対応できてるというのがな」
「おそらく魔術で身体強化してるんでしょう、この世界の人間はみんな魔術による身体強化を普通に施していますからね」
「興味深いな」
それと映像では分からなかったが、どうやら金羊国側ではナイフや石を用いて水中から船に穴をあける工作をする人員を一定数用意していたらしくこれも効果があったと言う。これは木造船ならではだろう。
体を洗いたいという2人を井戸のほうに見送ってしばらくすると、ラドフォード中尉が戻ってきた。
「死ぬかと思った」
「お疲れ様です、いまポアロ大佐お呼びしますね」
ラドフォード中尉は小型カメラを事前に森の各所に設置し後日回収するという形をとったので、映像はSDカードに記録されたものをポアロ大佐にお渡して分析してもらう形になる。
俺は3階からポアロ大佐を呼び出すと、二人の会話を聞くことが許された。
「現地に行って分かったことはありますかな?」
「弓の有効射程範囲がおかしい、150メートル先にいる俺を狙って弓を当てに来てます」
「飛ばすだけなら不自然な距離ではありませんね?」
「その場合なら弓の先を少し上に向けて射るはずです、しかし彼らはまっすぐに俺のほうへ矢を向けてきた。
あれは150メートル先からでも俺を殺せるという根拠を持った行動です」
米軍の2人からは聞けなかった話だ。
「弓って150メートル先の人も狙って射抜けるものなのか?」
「たぶん無理だと思う。防大の弓道場が90メートルあったが慣れてる奴でも普通の弓道場より大きいとかで外してることが多かった。拳銃でも150メートル先は無理だ」
木栖のその言葉に茫然とする。
拳銃より飛ぶ弓ってなんだそれ、と言いたくなるが何も言えなくなる。
そんな俺の気持ちを差し置いてポアロ大佐は「西の国からは完全に敵と認識されていますね」とつぶやく。
****
その日の夜更けのことだった。
金羊国はグウズルン情報管理官の部下を主体とした遊撃隊による夜襲を敢行。
夜の砦を守る兵士を襲撃し、建造物や武器の破壊し、砦の備蓄品の持ち去り、獣人奴隷たちの金羊国側への連れ去った。
それを俺たちが知るのは翌朝、自動運転で飛ばしていたドローン映像を見てからのことだった。
薄暗い森の中なので夜の間に戦うのはお互い無理なのだろう。
日が暮れてしばらく経ったタイミングで南に行っていた米軍の2人が戻ってきた。
「ロードオブザリングみたいだったな」
そう言い放ったカストロ中尉に木栖が「どの辺が?」と問う。
「剣と弓とプレートアーマーを主体としつつ、俺たちには理解しがたい方法で突然火が出てきたり雷が落ちたりするところが実にファンタジーだった!」
「船の速度も手漕ぎの割にずいぶん早かったしな」
陸軍所属であるはずの准将の言葉に木栖が「手漕ぎ船に明るいんですか?」と問えば「カヌーが趣味でね、専門家ではないが多少はわかるつもりだ」と告げる。
確かに現代地球人で手漕ぎ船の速度が分かる人などそう多くないだろう。
「成人男性が4~5人乗れるサイズの木造の川船、川の流れが緩いとはいえ流れに逆らう形だと考えると漕ぎ手がひとりというのは無理があるように思えたがそれでも対応できてるというのがな」
「おそらく魔術で身体強化してるんでしょう、この世界の人間はみんな魔術による身体強化を普通に施していますからね」
「興味深いな」
それと映像では分からなかったが、どうやら金羊国側ではナイフや石を用いて水中から船に穴をあける工作をする人員を一定数用意していたらしくこれも効果があったと言う。これは木造船ならではだろう。
体を洗いたいという2人を井戸のほうに見送ってしばらくすると、ラドフォード中尉が戻ってきた。
「死ぬかと思った」
「お疲れ様です、いまポアロ大佐お呼びしますね」
ラドフォード中尉は小型カメラを事前に森の各所に設置し後日回収するという形をとったので、映像はSDカードに記録されたものをポアロ大佐にお渡して分析してもらう形になる。
俺は3階からポアロ大佐を呼び出すと、二人の会話を聞くことが許された。
「現地に行って分かったことはありますかな?」
「弓の有効射程範囲がおかしい、150メートル先にいる俺を狙って弓を当てに来てます」
「飛ばすだけなら不自然な距離ではありませんね?」
「その場合なら弓の先を少し上に向けて射るはずです、しかし彼らはまっすぐに俺のほうへ矢を向けてきた。
あれは150メートル先からでも俺を殺せるという根拠を持った行動です」
米軍の2人からは聞けなかった話だ。
「弓って150メートル先の人も狙って射抜けるものなのか?」
「たぶん無理だと思う。防大の弓道場が90メートルあったが慣れてる奴でも普通の弓道場より大きいとかで外してることが多かった。拳銃でも150メートル先は無理だ」
木栖のその言葉に茫然とする。
拳銃より飛ぶ弓ってなんだそれ、と言いたくなるが何も言えなくなる。
そんな俺の気持ちを差し置いてポアロ大佐は「西の国からは完全に敵と認識されていますね」とつぶやく。
****
その日の夜更けのことだった。
金羊国はグウズルン情報管理官の部下を主体とした遊撃隊による夜襲を敢行。
夜の砦を守る兵士を襲撃し、建造物や武器の破壊し、砦の備蓄品の持ち去り、獣人奴隷たちの金羊国側への連れ去った。
それを俺たちが知るのは翌朝、自動運転で飛ばしていたドローン映像を見てからのことだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

農民の少年は混沌竜と契約しました
アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた
少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された
これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる