103 / 254
9:大使館と戦乱の火
9-10
しおりを挟む
大森林西側で同時多発的に火の手が上がる。
「まさか罠ごと森を燃やすつもりなのか?」
「あり得ない方法ではないですな、焼き払うことでゲリラ戦も回避できる」
そんな時、突然東から雨雲が走るように現れて滝のような雨が降り始める。
雨の中をほうきのようなものに乗った黒髪の女がドローンカメラに写っているのが見えた。
女がちらりとドローンのほうを向いたとき、それがだれかと分かった。
「ヴィクトワール・クライフ……」
理屈はわからないが彼女が人為的に雨雲を作って送り込んだのだ、と悟った。
「いったいこの雨雲はどこから?こちらにそんな雨雲見当たらなかったのに?」
ポアロ大佐が窓を指させばそこは晴れた春の空が広がっている。
雲はあれど灰色の雨雲ではなく白い綿雲である。
「おそらく彼女が作ったのでしょう」
木栖がそう口にすると「人工降雨ですか」と感嘆の声を上げた。
窓を見れば遠く西の山付近には厚い雨雲がかかっている。
滝のような雨に山の火はもろくも消え去り、それでも進むものと戻るものに別れててんでバラバラに動き出す。
雨音の隙間にパン!と散発的に銃声が響いた。
この雨の中を進む者たちへ向けられた銃声は確か通用しているようで、たびたび血にまみれて逃げる者が目撃された。
「これは自衛隊装備品の9ミリ拳銃の音では?」
「彼らがこのごたごたで間違えて持って行ったようですね」
木栖が知らぬ存ぜぬと言わんばかりにそう告げるとポアロ大佐は「あまりよろしくないのでは?」と顔をしかめた。
「この状況下で返せとは言いにくいでしょう」
「私は知りませんぞ」
まだ雨雲は引きそうになく、ドローンの充電も危うくなってきた。
「ドローンを後退させます」
そうってドローンに大使館へ戻るよう指示を出し、新しいドローンを矢継ぎ早に飛ばしていった。
****
新しい映像が届くまでの間に南からの映像に目を向けると、こちらは木造のダムを挟んでの攻防戦となっていた。
ダムと言っても黒部ダムのようなものではなくビーバーのダムのような、倒した木を川に積み上げてこれ以上の遡上を防ぐ形になっている。
ダムを壊されたり川岸に上陸されないように守る金羊国側と、上陸して第一都市・第二都市を目指す敵側となっている。
「これ、西の国の兵ではないですね」
持っている道具の紋章からそう見抜いたのはポアロ大佐だ。
昨日の映像からでは視認できなかったが今日はカストロ中尉が撮影した映像だから、かなり近くから見える。
南の国についての資料を自分の部屋から取りに行くとどこの物かも特定できた。
「この川の中流域にあるアベラール都市共和国と中洲騎士団、あとは下流域のサレイユ伯爵私領騎士団。アベラールと中州騎士は西の国と友好関係にあり、サレイユ伯爵は西の国の貴族だ」
「アベラールと中州騎士は友好国への助力といったところでしょうかね、彼らには観戦武官の通告が伝わっていませんからより一層の注意を促しましょう」
トムリンソン准将とカストロ中尉に無線でそう伝えると「了解!」と明るい返事が届いた
「まさか罠ごと森を燃やすつもりなのか?」
「あり得ない方法ではないですな、焼き払うことでゲリラ戦も回避できる」
そんな時、突然東から雨雲が走るように現れて滝のような雨が降り始める。
雨の中をほうきのようなものに乗った黒髪の女がドローンカメラに写っているのが見えた。
女がちらりとドローンのほうを向いたとき、それがだれかと分かった。
「ヴィクトワール・クライフ……」
理屈はわからないが彼女が人為的に雨雲を作って送り込んだのだ、と悟った。
「いったいこの雨雲はどこから?こちらにそんな雨雲見当たらなかったのに?」
ポアロ大佐が窓を指させばそこは晴れた春の空が広がっている。
雲はあれど灰色の雨雲ではなく白い綿雲である。
「おそらく彼女が作ったのでしょう」
木栖がそう口にすると「人工降雨ですか」と感嘆の声を上げた。
窓を見れば遠く西の山付近には厚い雨雲がかかっている。
滝のような雨に山の火はもろくも消え去り、それでも進むものと戻るものに別れててんでバラバラに動き出す。
雨音の隙間にパン!と散発的に銃声が響いた。
この雨の中を進む者たちへ向けられた銃声は確か通用しているようで、たびたび血にまみれて逃げる者が目撃された。
「これは自衛隊装備品の9ミリ拳銃の音では?」
「彼らがこのごたごたで間違えて持って行ったようですね」
木栖が知らぬ存ぜぬと言わんばかりにそう告げるとポアロ大佐は「あまりよろしくないのでは?」と顔をしかめた。
「この状況下で返せとは言いにくいでしょう」
「私は知りませんぞ」
まだ雨雲は引きそうになく、ドローンの充電も危うくなってきた。
「ドローンを後退させます」
そうってドローンに大使館へ戻るよう指示を出し、新しいドローンを矢継ぎ早に飛ばしていった。
****
新しい映像が届くまでの間に南からの映像に目を向けると、こちらは木造のダムを挟んでの攻防戦となっていた。
ダムと言っても黒部ダムのようなものではなくビーバーのダムのような、倒した木を川に積み上げてこれ以上の遡上を防ぐ形になっている。
ダムを壊されたり川岸に上陸されないように守る金羊国側と、上陸して第一都市・第二都市を目指す敵側となっている。
「これ、西の国の兵ではないですね」
持っている道具の紋章からそう見抜いたのはポアロ大佐だ。
昨日の映像からでは視認できなかったが今日はカストロ中尉が撮影した映像だから、かなり近くから見える。
南の国についての資料を自分の部屋から取りに行くとどこの物かも特定できた。
「この川の中流域にあるアベラール都市共和国と中洲騎士団、あとは下流域のサレイユ伯爵私領騎士団。アベラールと中州騎士は西の国と友好関係にあり、サレイユ伯爵は西の国の貴族だ」
「アベラールと中州騎士は友好国への助力といったところでしょうかね、彼らには観戦武官の通告が伝わっていませんからより一層の注意を促しましょう」
トムリンソン准将とカストロ中尉に無線でそう伝えると「了解!」と明るい返事が届いた
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~
ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。
いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。
テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。
そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。
『強制フラグを、立てますか?』
その言葉自体を知らないわけじゃない。
だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ?
聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。
混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。
しかも、ちょっとだけ違うセリフで。
『強制フラグを立てますよ? いいですね?』
その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。
「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」
今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。
結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。
『強制フラグを立てました』
その声と、ほぼ同時に。
高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、
女子高生と禁断の恋愛?
しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。
いやいや。俺、そんなセリフ言わないし!
甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって!
俺のイメージが崩れる一方なんだけど!
……でも、この娘、いい子なんだよな。
っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか?
「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」
このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい?
誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる