103 / 257
9:大使館と戦乱の火
9-10
しおりを挟む
大森林西側で同時多発的に火の手が上がる。
「まさか罠ごと森を燃やすつもりなのか?」
「あり得ない方法ではないですな、焼き払うことでゲリラ戦も回避できる」
そんな時、突然東から雨雲が走るように現れて滝のような雨が降り始める。
雨の中をほうきのようなものに乗った黒髪の女がドローンカメラに写っているのが見えた。
女がちらりとドローンのほうを向いたとき、それがだれかと分かった。
「ヴィクトワール・クライフ……」
理屈はわからないが彼女が人為的に雨雲を作って送り込んだのだ、と悟った。
「いったいこの雨雲はどこから?こちらにそんな雨雲見当たらなかったのに?」
ポアロ大佐が窓を指させばそこは晴れた春の空が広がっている。
雲はあれど灰色の雨雲ではなく白い綿雲である。
「おそらく彼女が作ったのでしょう」
木栖がそう口にすると「人工降雨ですか」と感嘆の声を上げた。
窓を見れば遠く西の山付近には厚い雨雲がかかっている。
滝のような雨に山の火はもろくも消え去り、それでも進むものと戻るものに別れててんでバラバラに動き出す。
雨音の隙間にパン!と散発的に銃声が響いた。
この雨の中を進む者たちへ向けられた銃声は確か通用しているようで、たびたび血にまみれて逃げる者が目撃された。
「これは自衛隊装備品の9ミリ拳銃の音では?」
「彼らがこのごたごたで間違えて持って行ったようですね」
木栖が知らぬ存ぜぬと言わんばかりにそう告げるとポアロ大佐は「あまりよろしくないのでは?」と顔をしかめた。
「この状況下で返せとは言いにくいでしょう」
「私は知りませんぞ」
まだ雨雲は引きそうになく、ドローンの充電も危うくなってきた。
「ドローンを後退させます」
そうってドローンに大使館へ戻るよう指示を出し、新しいドローンを矢継ぎ早に飛ばしていった。
****
新しい映像が届くまでの間に南からの映像に目を向けると、こちらは木造のダムを挟んでの攻防戦となっていた。
ダムと言っても黒部ダムのようなものではなくビーバーのダムのような、倒した木を川に積み上げてこれ以上の遡上を防ぐ形になっている。
ダムを壊されたり川岸に上陸されないように守る金羊国側と、上陸して第一都市・第二都市を目指す敵側となっている。
「これ、西の国の兵ではないですね」
持っている道具の紋章からそう見抜いたのはポアロ大佐だ。
昨日の映像からでは視認できなかったが今日はカストロ中尉が撮影した映像だから、かなり近くから見える。
南の国についての資料を自分の部屋から取りに行くとどこの物かも特定できた。
「この川の中流域にあるアベラール都市共和国と中洲騎士団、あとは下流域のサレイユ伯爵私領騎士団。アベラールと中州騎士は西の国と友好関係にあり、サレイユ伯爵は西の国の貴族だ」
「アベラールと中州騎士は友好国への助力といったところでしょうかね、彼らには観戦武官の通告が伝わっていませんからより一層の注意を促しましょう」
トムリンソン准将とカストロ中尉に無線でそう伝えると「了解!」と明るい返事が届いた
「まさか罠ごと森を燃やすつもりなのか?」
「あり得ない方法ではないですな、焼き払うことでゲリラ戦も回避できる」
そんな時、突然東から雨雲が走るように現れて滝のような雨が降り始める。
雨の中をほうきのようなものに乗った黒髪の女がドローンカメラに写っているのが見えた。
女がちらりとドローンのほうを向いたとき、それがだれかと分かった。
「ヴィクトワール・クライフ……」
理屈はわからないが彼女が人為的に雨雲を作って送り込んだのだ、と悟った。
「いったいこの雨雲はどこから?こちらにそんな雨雲見当たらなかったのに?」
ポアロ大佐が窓を指させばそこは晴れた春の空が広がっている。
雲はあれど灰色の雨雲ではなく白い綿雲である。
「おそらく彼女が作ったのでしょう」
木栖がそう口にすると「人工降雨ですか」と感嘆の声を上げた。
窓を見れば遠く西の山付近には厚い雨雲がかかっている。
滝のような雨に山の火はもろくも消え去り、それでも進むものと戻るものに別れててんでバラバラに動き出す。
雨音の隙間にパン!と散発的に銃声が響いた。
この雨の中を進む者たちへ向けられた銃声は確か通用しているようで、たびたび血にまみれて逃げる者が目撃された。
「これは自衛隊装備品の9ミリ拳銃の音では?」
「彼らがこのごたごたで間違えて持って行ったようですね」
木栖が知らぬ存ぜぬと言わんばかりにそう告げるとポアロ大佐は「あまりよろしくないのでは?」と顔をしかめた。
「この状況下で返せとは言いにくいでしょう」
「私は知りませんぞ」
まだ雨雲は引きそうになく、ドローンの充電も危うくなってきた。
「ドローンを後退させます」
そうってドローンに大使館へ戻るよう指示を出し、新しいドローンを矢継ぎ早に飛ばしていった。
****
新しい映像が届くまでの間に南からの映像に目を向けると、こちらは木造のダムを挟んでの攻防戦となっていた。
ダムと言っても黒部ダムのようなものではなくビーバーのダムのような、倒した木を川に積み上げてこれ以上の遡上を防ぐ形になっている。
ダムを壊されたり川岸に上陸されないように守る金羊国側と、上陸して第一都市・第二都市を目指す敵側となっている。
「これ、西の国の兵ではないですね」
持っている道具の紋章からそう見抜いたのはポアロ大佐だ。
昨日の映像からでは視認できなかったが今日はカストロ中尉が撮影した映像だから、かなり近くから見える。
南の国についての資料を自分の部屋から取りに行くとどこの物かも特定できた。
「この川の中流域にあるアベラール都市共和国と中洲騎士団、あとは下流域のサレイユ伯爵私領騎士団。アベラールと中州騎士は西の国と友好関係にあり、サレイユ伯爵は西の国の貴族だ」
「アベラールと中州騎士は友好国への助力といったところでしょうかね、彼らには観戦武官の通告が伝わっていませんからより一層の注意を促しましょう」
トムリンソン准将とカストロ中尉に無線でそう伝えると「了解!」と明るい返事が届いた
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる