異世界大使館はじめます

あかべこ

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9:大使館と戦乱の火

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朝早くに大使館の3階に朝食を持って赴くとそこはちょっとした軍事拠点となっていた。
「うわ……」
無線通信機やパソコン、現代的な防具や小火器類、寝袋などの生活道具までがぎっちりと並んだその部屋は客間として整備した甲斐を感じさせない。
「真柴サンじゃねえか」
「おはようございますカストロ中尉、皆さんに朝食をお持ちしたんですが」
実は彼らは保存食などもかなり持ち込んできてくれており、そのおこぼれにあずかる形で俺たちも食べさせてもらっている。
市場のほとんどが休業となった今、彼らの持ち込んだ食料は俺たちが食いつなぐための貴重な資産だ。
「そいつはグレートだ、せっかくだし頂いていくぜ。リチャード、あんたはどうするんだ?」
「自分の分もあるのでしたら頂いていきます」
飯山さんが避難前に残していってくれた野菜と豆の水煮をジビエの骨で作った出汁に入れて煮込んで作ったスープと、これも飯山さんが残してくれたレシピで作った薄焼きパンという組み合わせだ。
「朝から暖かいものが食べられると元気が出ますね」
「ああ、うちのかみさんの作る甘いベイクドビーンズには負けるけどな」
ハリウッド映画のようなやり取りに巻き込まれない程度に曖昧に笑って受け流しながら、そういえばと思い出す。
「トムリンソン准将とポアロ大佐はどちらですか?」
「ポアロ大佐でしたら奥でドローンの整備をしていたはずですが」
「准将はさっきあんたのとこの木栖サンと一緒に走りに行ったのを見た、しばらくは戻ってこないと思うぜ」
2人の答えを聞くと「では先にポアロ大佐のところへ行きますね」と返す。
PCや偵察用ドローンが並ぶ一角に腰を下ろした老紳士に「おはようございます」と声をかける。
「真柴大使、どうかなさいましたか?」
「朝食です」
そういってスープと薄焼きパンを渡すと「ありがたい限りですな」と笑って受け取った。
何てことない雑談を交わしているうちに階段のほうから足音がして「お帰りですな」とつぶやく。
「木栖、朝飯持ってきたぞ」
「ありがとう」

****

朝食を済ませた後偵察用大型ドローンを3台西に飛ばすと、西の国の3つの砦から獣人たちを先頭にいくつかの部隊が道を切り開きながら向かっているのが見えた。
大森林には馬が通れる林道のような道が整備されていないのでこうして整備しながら進むほかないのであろう。
「昨日見た感じより獣人が少ない気がするな」
「夜のうちにこちらに亡命した人がいるのかもな」
グウズルン情報管理官ならそうした手引きをしてこちらにつけるぐらいやりそうだ。
現在大使館に残っているのは俺と木栖、ドローン操縦の免許を持っているというポアロ大佐の3人だけだ。
ラドフォード中尉は南の河口へ、トムリンソン准将とカストロ中尉は西を目指して移動中だ。
「異世界なら大森林とこの山の下を抜けるトンネルぐらい簡単に作れそうなものですがなあ」
「そこも警戒はしてるんでしょうが、ほら」
上空から見るとよくわかるが大森林のところどころに木の生えていない空白地帯があり、そこは金羊国の秘密基地になっている。
そこには大きな木の板が張られており、地下道の掘削が行われていたのを俺たちは上空から見ている。
「魔法のある世界といえど砦と山の向こう側をつなぐのは難しいようですからね」
上空から見ていたのでわかるのだが軍事侵攻がわかってから今日まで、金羊国の勇敢な男たちは地下道を掘って抜け道が作られないように監視していた。
「そろそろ西の正規軍の人たちが大森林の中腹に入りますね」
するといくつかの軍勢の足が止まったのが見え、そのうちのひとりに拡大してみると罠が仕掛けてあったのに気づく。
「弓でしょうか?」
「猟師がよく使う仕掛け弓だ」
「典型的ではありますが森が舞台ですからね、罠をかけるには都合がいいのでしょう」
他のドローンにもそうした罠にかかった人々の様子を見ることができた。
仕掛け弓や落とし穴といった定番の罠を森に張り巡らせての防衛戦は思ったよりも順調な滑り出しのように思える。
「軍勢が引いた?」
いくつかの軍勢が砦のほうへ戻るのが見えて首をかしげると、森の複数個所で火の手が上がり始めていた。
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