異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
101 / 254
9:大使館と戦乱の火

9-8

しおりを挟む
大使館の3階を活動拠点とした彼らの動きは速かった。
庭に簡易的な物見やぐらと電波塔を建て、太陽光パネルや小型水力発電機を展開し、デスクトップ型パソコンや無線通信機器も持ち込んでいた。
(確かにこれだけ大量に持ち込んでいたら怪しまれるか)
思わず納得してしまった俺と手伝わされる木栖をしり目に、グウズルン情報管理官はたびたび質問を飛ばして彼らが金羊国・西の国どちらにも与しないことをしつこく説明する羽目になった。
ついでにグウズルン情報管理官に観戦武官について聞いたところ曰く「わざわざよその国の戦争に見に行かせるなんてこっちじゃやらない、戦況分析できるような人材を戦場に送ったら巻き添えで死ぬだろ」とのことだった。
言い分としては正しいかもしれないな。
「西の国側に通達することはできるか?」
「大森林の向こう側に今砦を作ってるからそこに伝書鳩を送るのが妥当だろうが、そもそもこちらの世界にない文化なんで信用されない可能性を頭に入れたほうがいいだろうな」
西の国からも俺たちが金羊国に与しないことを確認するために大使館に人を送ってくるという可能性も一応頭の片隅に置いておこう、これもこれで揉めそうだが。
定期的に様子を見に来るとだけ言い残して去っていくと俺は小さくため息が漏れた。

****

観戦武官の4人は毎日のように周辺の調査に出かけた。
その調査の蓄積は俺と木栖にも共有されており、写真や映像によっておおむねの事情は俺たちにも察しがついた。
観戦武官の来訪から5日。
「真柴、さっき西の国の軍隊が砦に入ったのが確認できた」
「正規軍か?」
「ああ、これまで小規模な集団が入っていくのは確認できたが服装や動きからして正規軍で間違いない。規模は推定で1万5千人、うち4千人程度が獣人奴隷だな。これまで入ってきた人たちや別の砦に入った人を含めて推定戦力は8万人、うち獣人奴隷が1万人ってとこだな。
それと、南からも数は少ないが兵が川船で向かってるのがようやく確認できた。こっちは5千人程度だがほとんどが正規軍だ」
「西側と南側からの挟み撃ちってところか、東側や北側に動きはないのか?」
「それに関してはグウズルン情報管理官に聞いた程度でちゃんと確認できてないが、どっちも静観するつもりみたいだな」
「そういや西の国側に観戦武官の派遣は通達したんだろ?返事は来てないのか」
「特にない、最大限の防備をするしかないな。それと、俺はできる限りお前の横にいるつもりだがいざという時は全員で脱出する」
最悪の事態が起きた後この地で知り合った人々がどのような目に遭うか、想像したくもない。
なにより日本側にも影響が大きすぎる。
「そういう事態にならないことを祈るしかないな」
「本当にな」
よき友となってくれるはずのこの国の人々との信頼を横から打ち崩されてほしくないのだ。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...