異世界大使館はじめます

あかべこ

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9:大使館と戦乱の火

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避難希望者へのビザ発給がひと段落したと思ったら嘉神が来て、嘉神の話が終わったと思ったら同行していた納村が消えた。
現在進行形で軍が近づいてきているこの場所金羊国に来て行方不明となると万が一が怖すぎる。
「あのバカどこ行った?!」
思わず語気を荒げた俺に「探してくる」と木栖が答えたその時だった。
「すいません、」
駆け込んできたのは納村を引き連れたファンナル隊長だった。
よく手入れされた革製の鎧を着こみ使い込まれたショートソードを携えたその姿は、彼が歴戦の傭兵であったことを思い出させる。
「ひとりでふらついていたので送りに来ました」
「そうじゃなくて私はファンナルに話があって!」
「話ならいつでもできる」
「次がないかもしれないだろ」
そういえばこの2人は何かと一緒にいる時間が長く親しげだ。
もしかすれば死ぬかもしれぬという不安な状況も相まって急いでサシでしたい話もあるのだろう。
「サシで話したいなら自分の部屋を使え、館内ならすぐ木栖が来れる」
そう告げると「じゃあちょっと部屋にいるんで」と出ていった。
もう見ずに書ける入国許可証を片手間に書きながらちょっとした好奇心が湧いてくる。
「嘉神、ちょっとあの2人の話聞いてきてくれないか」
「……僕も気になってました」
そう告げると藪蛇覚悟でそうっと足音を殺して2人の様子を見に行くのだった。

***

と言う訳でここからは僕・嘉神がお送りいたします。
納村さんの仕事部屋の扉にそうっと耳を当てて中の様子を伺います。
「で、どうして来たんだ」
「……渡したいものがある」
そう言って立ち上がると何かを手に取り、ジャキッと切り落とす音が響きます。
「なっ?!」
「こっちの世界だと髪の毛は命のかけらだって聞いた、どうか私の命のかけらを持って行ってくれないか」
さっきの切り落とした音は髪の毛を切った音ですか。
自分の髪を自分で切って相手に託す、というのは舞台のような姿ですね。
「それを男女でやることの意味を分かってるのか?」
「わかってるよ」
脳裏にプロポーズという言葉がよぎります。
『命のかけらを持って行く』という言葉もプロポーズだと思えば腑に落ちます。


「この1年私たちはずいぶんと一緒だった、そんなお前が私のいない場所で死ぬなんて絶対嫌だ。
もし死ぬようなことがあったとしてもそのそばに私のひとかけらを置いてくれ」

しばらくの沈黙のちに、ファンナル隊長が口を開きました。
「俺はまだ死なない、生き延びてその思いにこたえたい」
「……わかった。でも切った奴は持って行ってくれ、これはファンナルのものだから」
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