異世界大使館はじめます

あかべこ

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9:大使館と戦乱の火

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その日の午後は仕事の予定を変更し、日本への避難希望者受け入れを前提とした仕事を組み立てなおした。
まずは外務省に申請する書類づくりである。
「どうするつもりだ?」
木栖が様子をうかがいに来た。
「あくまで一時的な避難希望者であって難民ではないことを強調し、日本での受け入れ許可を求める。無理なら通過許可に切り替えて日本以外の国に受け入れてもらう」
理屈としては無理があるだろうがごり押しできないわけではない。
金羊国は国連でも一定の存在感を見せた立派な国であり、日本政府はこの国には利益があると思って俺を送り出しているのだ。これで受け入れないというのはいささか虫が良すぎる。
「避難民の受け入れはこの先金羊国から得る分の資源や利益を先払いしてると思ってくれればいいさ」
「そうだな。それと、鉄帽と防弾チョッキ等お前の身の安全を守るための品を用意してきた、サイズが合わなかったら呼んでくれ」
「ありがとう、それともうひとつ」
「なんだ?」
「数を作ることになった場合は手伝ってくれるか」
「当然だ、俺はお前のパートナーなんだから」
指輪を見せながら部屋を出ていく木栖に俺は少しだけ救われたような気持になる。
(杉原千畝が妻にビザの発行の相談をした時もこんな心持ちだったんだろうな)
外務省に強弁してまでビザを出し続けた偉大な外交官のことを思いながら書類をひたすら打ち込み続ける。
それにこの書類を作り終えてもビザのひな型づくりが必要になる。
今までは俺や外務省が直接発行した数枚しかなかったが、今回は膨大な数を発行する必要があるので事前にひな型を作って量産前提の準備をしなければならない。
外務省の許可が下りた後にひな型を作るとおそらく間に合わない。
「真柴大使、嘉神です。日本へ行く準備が終わりました」
その言葉に合わせて制作した書類と資料を預けると「頼むぞ」という言葉が、ごく自然に口からこぼれ出た。
「もちろんです」

****

嘉神が戻ってきたのはそれから4日後の夕方だった。
「日本政府から一時避難民の入国許可が下りました、期間は4か月。こちらで夏が終わるまでの一時入国許可です。あと木版画セットを借りてきてくれって言われたので持ってきました」
「助かった、急いでハルトル宰相に報告してくれ」
事前に作っておいた避難希望者受け入れの看板や入国ビザの木版(オーロフの義父と義弟が木工職人だというので作ってもらった)を準備し、木版画のセットを開く。
木版画インクを木版に塗って紙を乗せてバレンで摺りだせば、想像通りA4サイズの紙に4枚の入国許可証が完成する。これをはさみか何かで切れば4人分の入国許可証が作れる。
「とりあえずここにある紙を全部入国許可証に摺り上げて、サインを入れないとな」
明日の朝には避難希望者が押しかけてくるのは目に見えている。そのための準備は迅速にした方がいい。
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