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8:赤い実はじける大使館
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ヴィクトワール上級魔術官の一目惚れについてはトンネル工事の入札が終わってから改めて話し合おう、というところで決着がついた。
「そもそもヴィッさんカレカノいたことあるんですかぁ~?」
「教会を脱走してからお尋ね者として転々としてる人間にそんな余裕があるとでも?」
「じゃあ初恋なんだ」
コイバナモードに突入したヘルカ魔術官に「その話は後にしませんか」と言い放ったのはエルヴァル物流担当官だった。彼の慇懃無礼な態度はこういう時ありがたい。
「それもそうだ、とりあえず金額の確認ですかね」
頭を切り替えたヘルカ魔術官がさっそく入札金額を書き付けた紙(日本円表記)ををひとつづつ開き、金額順に並べていく。
「結構予算ギリギリ超えないというところが多いですね」
「仕方ないだろ、前代未聞の大工事だしな」
隣にいた名梶さんは「みんな入札金額の予想で苦戦したんでしょうね」とどこか同情的につぶやいた。
「そこまでですか」
「安全係数をどの位取るか、日本人技師を何人送り込むか、いかに確実に利益を出すか、相当悩んだはずです」
討論の口火を切ったのはエルヴァル物流担当官だった。
「予算越えの最高値を出した馬島建設はなしとして、大森組・竹内工務店・白熊コーポレーションの3社からの検討とします」
「それなら最安値を付けた白熊コーポレーションが妥当じゃ?」
「ええ、ヴィクトワール上級魔術官は」
「白熊は絶対なし、大森組を推す。これは私の私的感情抜きでな」
いやどう聞いても私的感情によるものだろ、と言いたくもなるがヴィクトワール上級魔術官はよどみなくこう告げた。
「その2社のどちらかに施工を頼んだ場合の問題は2つ。
1つは技術移転だ。馬島・竹内・白熊は現代日本で一般化してるBTMマシンを使って壁を作りながら壁を固定するシールド工法だ、こっちの機械でさっさとやるのは早いし手間がないが同じ機械を作る技術が金羊国にあるとは思えない。その点機械を使わない大森組なら技術を盗ませることができる。どうせ同じ金を渡すんなら金羊国側の大工や技師に技術も持ち帰らせることを考えたほうが勿体なくないだろ。
2つ目は完成後の整備補修。白熊と竹内は完成後の整備補修を自社に委託って言ってたろ?あれ要するに100年後もうちの会社に整備補修を委託してくれってことだから、無限に整備補修で金吸われるパターンだと踏んだ。
それに補修点検拠点を金羊国側に作るのを確約してくれてるのは白熊以外の3社だ、金羊国側から金だけもらって技術は移転させないってスタンスなら多少高くても白熊は切ったほうがいい」
……思ったより筋の通った言い分だった。
後者の話は要するに0円携帯の理屈だ、ただで携帯を買わせて通信料で稼ぐスタイル。この場合は安くトンネル工事を請け負って整備補修の手間賃で損を埋めるということか。
ヴィクトワール上級魔術官はそれを安物買いの銭失いと見たわけだ。
「一理ありますね」
そう言ってエルヴァル物流担当官が入札前のプレゼンテーションの資料を見返す。
俺は隣にいた名梶さんに資料を見せてもらい、各社の態度を確認してみる。
馬島建設は金羊国に関連子会社を設立して現地からの雇用を作る意向を見せており、竹内工務店と大森組も金羊国での半民半官での整備拠点設立が明記されている。
「確かに同じお金を払うなら技術も盗んだほうがお得ではあるかあ」
ヘルカ魔術官がそう呟く。
「では値段の観点から馬島建設、技術移転の観点から白熊コーポレーションはなしとしましょう。
竹内工務店と大森組、どちらがより安価な値段を提示しましたか?」
エルヴァル物流担当官がヘルカ魔術官にそう話を振ると「微妙に大森組のほうが安いね」と告げる。
「では大森組の落札とします」
そう告げた時ヴィクトワール上級魔術官はかすかににやりと口角を上げた。
(本当に私情抜きだったんだよな‥‥…?)
そんな俺の疑問は飲み込んだ。たぶん結果的に良かったんだろう、うん。
「そもそもヴィッさんカレカノいたことあるんですかぁ~?」
「教会を脱走してからお尋ね者として転々としてる人間にそんな余裕があるとでも?」
「じゃあ初恋なんだ」
コイバナモードに突入したヘルカ魔術官に「その話は後にしませんか」と言い放ったのはエルヴァル物流担当官だった。彼の慇懃無礼な態度はこういう時ありがたい。
「それもそうだ、とりあえず金額の確認ですかね」
頭を切り替えたヘルカ魔術官がさっそく入札金額を書き付けた紙(日本円表記)ををひとつづつ開き、金額順に並べていく。
「結構予算ギリギリ超えないというところが多いですね」
「仕方ないだろ、前代未聞の大工事だしな」
隣にいた名梶さんは「みんな入札金額の予想で苦戦したんでしょうね」とどこか同情的につぶやいた。
「そこまでですか」
「安全係数をどの位取るか、日本人技師を何人送り込むか、いかに確実に利益を出すか、相当悩んだはずです」
討論の口火を切ったのはエルヴァル物流担当官だった。
「予算越えの最高値を出した馬島建設はなしとして、大森組・竹内工務店・白熊コーポレーションの3社からの検討とします」
「それなら最安値を付けた白熊コーポレーションが妥当じゃ?」
「ええ、ヴィクトワール上級魔術官は」
「白熊は絶対なし、大森組を推す。これは私の私的感情抜きでな」
いやどう聞いても私的感情によるものだろ、と言いたくもなるがヴィクトワール上級魔術官はよどみなくこう告げた。
「その2社のどちらかに施工を頼んだ場合の問題は2つ。
1つは技術移転だ。馬島・竹内・白熊は現代日本で一般化してるBTMマシンを使って壁を作りながら壁を固定するシールド工法だ、こっちの機械でさっさとやるのは早いし手間がないが同じ機械を作る技術が金羊国にあるとは思えない。その点機械を使わない大森組なら技術を盗ませることができる。どうせ同じ金を渡すんなら金羊国側の大工や技師に技術も持ち帰らせることを考えたほうが勿体なくないだろ。
2つ目は完成後の整備補修。白熊と竹内は完成後の整備補修を自社に委託って言ってたろ?あれ要するに100年後もうちの会社に整備補修を委託してくれってことだから、無限に整備補修で金吸われるパターンだと踏んだ。
それに補修点検拠点を金羊国側に作るのを確約してくれてるのは白熊以外の3社だ、金羊国側から金だけもらって技術は移転させないってスタンスなら多少高くても白熊は切ったほうがいい」
……思ったより筋の通った言い分だった。
後者の話は要するに0円携帯の理屈だ、ただで携帯を買わせて通信料で稼ぐスタイル。この場合は安くトンネル工事を請け負って整備補修の手間賃で損を埋めるということか。
ヴィクトワール上級魔術官はそれを安物買いの銭失いと見たわけだ。
「一理ありますね」
そう言ってエルヴァル物流担当官が入札前のプレゼンテーションの資料を見返す。
俺は隣にいた名梶さんに資料を見せてもらい、各社の態度を確認してみる。
馬島建設は金羊国に関連子会社を設立して現地からの雇用を作る意向を見せており、竹内工務店と大森組も金羊国での半民半官での整備拠点設立が明記されている。
「確かに同じお金を払うなら技術も盗んだほうがお得ではあるかあ」
ヘルカ魔術官がそう呟く。
「では値段の観点から馬島建設、技術移転の観点から白熊コーポレーションはなしとしましょう。
竹内工務店と大森組、どちらがより安価な値段を提示しましたか?」
エルヴァル物流担当官がヘルカ魔術官にそう話を振ると「微妙に大森組のほうが安いね」と告げる。
「では大森組の落札とします」
そう告げた時ヴィクトワール上級魔術官はかすかににやりと口角を上げた。
(本当に私情抜きだったんだよな‥‥…?)
そんな俺の疑問は飲み込んだ。たぶん結果的に良かったんだろう、うん。
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