異世界大使館はじめます

あかべこ

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8:赤い実はじける大使館

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入札前のプレゼンテーションは各社気合が入っており、わかりやすさが重視されていた。
日本語が不自由な異世界人にも伝わるよう全員知恵を絞ったのだろうという創意工夫が詰まっていた。
「最後に大森組・日本電信さまお願いします」
そのひと声に応じて若い女性とスキンヘッドの男が入ってきたとき、近くにいたヴィクトワール上級魔術官がふらりと立ち上がった。
すたすたと女性のもとに歩み寄るとその女性の目を見て「その目、見せて」と言い出した。
小さな体で肩まで届く長い黒髪をした、大人しい雰囲気の女性だ。なんとなく黒いチワワが震えてるように見える。
「それじゃないだろ、本当のが見たい」
大陸標準語でそう話しかけているが、彼女は困ったように飯島のほうを向いた。
「あのー、今入札中なんですが」
「……そうだったわ。彼女に後で話がしたいって言っといて」
飯島に向けてそう伝言させてくるとおとなしく元の席に戻った。
微妙な空気になったその場を切り替えたのは同席していた俳優の高橋克実似の男であった。
「日本電信の海老野えびのと申します。海の老人と書いて海老ですね、まあ老人じゃなくてこれでもまだ50なんですが見た目は老人ですね」
自虐で一瞬その場が和んだ。というかスキンヘッドじゃなくてハゲだったのか。
「大森組の相模さがみです、今回の工事につきまして弊社案をご紹介させていただきます」

****

プレゼンテーションを終えるとヴィクトワール上級魔術官が一目散に先ほどの相模さんを追いかけていったので、俺と金羊国メンバー全員で追いかけることにした。
ヴィクトワール上級魔術官の気配のするほうに向かうと、何故か相模さんは廊下の壁に押し付けられてーいわゆる壁ドンであるーじっと見つめられていた。
「ヴィクトワール上級魔術官、人を怯えさせないでください」
俺が大陸標準語でそう話しかけるとしぶしぶ距離を置き、ヘルカ魔術官とエルヴァル物流担当官からダブルで説教しといてもらうことにした。
自分が在金羊国日本大使館の人間であることや先ほどからヴィクトワール上級魔術官があなたの目が気になっているらしいことなどを軽く説明すると、ちょっとだけ納得したようにため息を漏らした。
しばらくすると説教も終わってヴィクトワール上級魔術官が相模さんに片言の日本語で話しかけてきた。

「わたし、は、あなたに、ひとめぼれ、しました。おつきあい、してください」

その場にいた俺と相模さんの思考が止まった。
日本語を教えていそうなヘルカ魔術官に「いま冗談で変な日本語教えたのか?」と聞くと「まさかぁ」と一刀両断される。
「ヴィクトワール上級魔術官、本気で一目惚れしたのか」
「なんか文句あります?」
助けを求めるようにこちらを見てくる相模さんに「本気らしいです」と告げると、彼女は茫然と俺のほうを向いていた。俺も助けてほしい。
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