異世界大使館はじめます

あかべこ

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8:赤い実はじける大使館

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金羊国側への伝達からほどなくして、外務省から新しい連絡がきた。
日本時間3月上旬(こちらでは2月中旬ぐらいになる)に指名入札を行うのでその前に金羊国側から担当者を連れて来い、という旨の連絡だった。あまりの迅速さに休む暇もないのかとため息が出た。
とはいってもまだ1月の下旬に差し掛かろうという時期なのでまだ多少の余裕はあるが、そうなるとエルヴァル物流担当官と一緒にヴィクトワール上級魔術官を連れていくことになる。
(もともと日本への難民申請を希望していた人だから、無断で脱走しないように見張る必要もあるか?)
どちらにせよこれも仕事だ。
「……嘉神に話してくるか」
一番あおりを受けそうな部下の顔を思い出すと、しゃあねえという心地で溜息を吐いた。

****

そんなこんなでバタついたまま、日本へ向かう日がやってきた。
朝の第一都市の雑踏を抜けて政経宮の門前に向かうとこの国の正装である紋章入りのマントを羽織ったヴィクトワール上級魔術官とエルヴァル物流担当官、さらにヘルカ魔術官の3人が待ちわびていた。
慇懃という言葉がよく似合う冷静な態度で挨拶してきたエルヴァル物流担当官や、定期的な来日のおかげで日本に慣れてきたらしいヘルカ魔術官の横でひとり様子の違う人物がいる。
「ずいぶんそわそわしていませんか、ヴィクトワール上級魔術官?」
「初めての異世界にそわそわしないやついないだろ」
「エルヴァルさんは初めてですけどねー」
ヘルカ魔術官が茶化すようにヴィクトワール上級魔術官へ新しい情報を告げてくる。
もう何度も歩いた神殿への道を歩きながらああだこうだと軽やかな会話が繰り広げられる。
仕事とは思えない妙に浮ついた空気(だいたいヴィクトワール上級魔術官のせいなのだが)で神殿にたどり着き、日本と異世界をつなぐ通路がある地下へと降りていく。
「はー、こうなってんのか。ちょっと調べさせてもらっても?」
「どうぞどうぞ」
何かわやわやと調べ始めたヴィクトワール上級魔術官は、時折よくわからない独り言をつぶやいたりメモを取りながらたっぷり30分は通路の入り口を調べていた。
「マジで力業で開けたんだなこれ」
ヘルカ魔術官にそう聞くと「そうですよ、魔鉱石を大量に使ってこじ開けました」と答えた。
何の話だ?と思いながらも魔術官同士でわあわあと話し合うのを眺めていると突然「入口のことはわかった」と切り出した。
「あとは通路の中だな、行くか」
そう言って一番に通路に飛び込んでいったヴィクトワール上級魔術官を追いかけるように俺たちも追いかけるように通路へと走り出していく。
相変わらずぐちゃぐちゃに入り組んだ道を抜けて、階段を昇れば木枯らしがびゅうっと吹き付けてきた。
たどり着いた東京・上野は冬の盛りであった。
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