異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
85 / 254
8:赤い実はじける大使館

8-2

しおりを挟む
話にひと段落つくとハルトル宰相のもとに次の仕事が舞い込んできたので、ハルトル宰相の面談室からエルヴァル物流担当官の執務室へと移動する。
「トンネルについてなのですが、日本側はどのような規模を想定しているかお教えいただけませんか」
過去の資料を見返したところ金羊国側はトンネルについて具体的な要望は出しておらず、人と物のスムーズな物流が行えることのみを要望として出していた。
要するに全部日本(とその先の地球)側に合わせることで交易を盛んにしたいという思惑らしい。
「こちらの図になります」
日本側から送られてきた図面を提示しながら説明することになる。
「トンネルは合計3本、うち2本は交通用で1本はどちらかが使えなくなった時の予備とインフラ……通信簡便化のために線を引きたいと考えています。
交通用トンネルは上下2層に分けて上層は鉄道・自動車、下層は平時は歩行者道で緊急時は避難通路としての運用を想定しています。2本あるのは行きと帰りで分けるためですね」
エルヴァル物流担当官はふんふんと頷きながら手元でメモを取る。
「通信簡便化のための線、というのは具体的にどのようなものになりますか?」
「簡単に言えばひも状の金属やガラスになるかと」
電線や光ファイバーケーブルについて無い知識をひねり出しながら説明すると「文字通り線をつなぐわけですね」とつぶやいた。納得してくれて何よりである。
「予算については日本国政府で出せる分の金額がこちらです。それとは別に金羊国への投資としていくつかの企業から打診があるので一覧表にしてきました、裏はあるでしょうがご参考にしてください」
日本政府で出せる予算と一緒に、出資希望企業とその営業規模から推定される出資額の一覧表を手渡す。
「……思ったより多いですね」
「企業の出資金額についてはあくまで推測ですから本当にこの額を出してくれるとは限りませんがね」
「いえ、裏があろうと何だろうと金羊国にとって地球は重要な場所ですから」
資料に目を通し終えると別の資料を指さして「トンネル候補地までもう決まっているんですね」と尋ねてきた。
そう、実はもうそこまで決まっているのだ。
日本政府にとって金羊国は重要な資源提供国なので、早くインフラを強化して産業振興につなげたいという思惑があるのである程度までは惜しまない方針らしい。
もっとも魔術を用いて空間をつなぐ必要があるので決定権は金羊国側の魔術官……つまりヴィクトワール・クライフ氏になるわけだが。
「この辺りのことも伝えておく必要がありそうですね」
誰にって、そんなのひとりしかいないだろう。

****

「で、わざわざ政経宮からここまで来たってわけだ」
金羊国への帰属を決めたヴィクトワール・クライフ氏(まだ彼女は魔術官としての契約が始まってないので役職呼びはしない)はずいぶんと広い家を与えられていた。
「そういうことです」
「にしても初仕事で異世界とここをつなぐトンネルづくりとは……死んじゃいそうだね」
取り繕ってはいるが難儀な仕事だという本音が声色や表情ににじんでいる。
「厳しいですか」
そう聞いたエルヴァル物流担当官に対して、彼女は「当然だろ」と告げる。
「空間をつなげるのは短距離でも結構難易度高めの術でね、あの4人で金羊国と異世界を繫げたのは奇跡だし普通なら4人とも魔術器官の酷使で死んでるだろうね。あの4人でこの規模のトンネルは無理だな。1本貫通させる前に全員死ぬ」
そう言われるとその仕事の過酷さが想像できた。
これは命懸けの工事なのだ。
「これを私ひとりでやるとなるとトンネル内部に道を敷く関係上要求精度も高いし、魔鉱石で増幅しながら休み休みでやってー……最低4年ってとこかな」
更にトンネル内部の整備もあるので最低10年ぐらいは覚悟したほうがいいだろうか。
(……青函トンネルよりは早く出来るか?)
世紀の大工事と呼ばれた青函トンネルを引き合いに出してみるがどっちにせよ先は長そうだ。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...